幽々子様、私は従者失格です
あなたの思い人を、私は好きになってしまいました
何度この気持ちを間違いだと自分に言い聞かせてきたでしょう
それでも、この苦しみは耐えがたく、幾日も幾日も私を苛みます
浅ましい女だとお笑いになるかもしれません
けれど、自分でも久しく忘れていましたが、やはり自分も女なのです
○○さんに、もっと自分を見てほしかったのです


正直に言ってしまえば、私は今もってこの人の心中を察することができません
幽々子様もご存知のように、○○さんは飄々とした軽い性格をしています
実は、今まで何度も彼に誰が好きなのかと、それとなく聞いてみました
しかし、彼の生来の性格のせいか、私の惚れた弱みのためか、全てはぐらかされてしまいました
これは勝手な推察ですが、おそらく幽々子様にも同じような経験があるかと思います


この未練を断ち切りたく、幽々子様と○○さんを結ぶ手伝いを何度もしてきました
覚えていないとは言わせません
しかし、その全ては幽々子様が言い出せず、失敗に終わっています
そのたびに、私は残念に思う一方、喜んでいました
不敬と思われることでしょう
私もそう思っています
けれど、それが偽らざる私の本心なのです
もしも○○さんが幽々子様の告白を受け入れたならば、私はその場で腹を切って果てようか、とも本気で考えました
当然のことながら、このことは今まで誰にも話していません


祖父様が帰還なされたとき、私が庭で散々な稽古を見せてしまったことを覚えているでしょうか
あの後、身が入っていないと祖父様にお叱りを受けました
言い訳にしたくはありませんが、当然です
こんな迷いを持ったまま刀を振るうなんて、できるはずがないじゃありませんか
祖父様もそこに気がつかれたのか、何があったのか話すように促されました
しかし、私は終始無言を貫きました
この思いは、私が墓まで持っていくべきもの
尊敬する祖父様にも一言も漏らさない
それが私に残された唯一の矜持でした


それから私は剣を捨てました
あの日から私が腰にさしていた二振りの刀
鞘の中身は竹光です
楼観・白楼剣は私の部屋の屋根裏に隠していました
そうするしかなかったんです
こんな私が振るっていい刀じゃないんです
私には、そんな資格はないんです


転機はつい最近でした
先日、○○さんが慧音さんの勧めでお見合いをしたということは知っていますか?
いえ、知っていますよね と言いかえます
そのお相手の女性が急死されたことも、当然ご存知ですよね
その女性の家で、奇妙な蝶が見かけられたことも知っています
この事を知っているのは私だけではありません。天狗から得た情報です
おそらく、明日には号外記事として配られることでしょう
そして、○○さんもこのことを知ることになるでしょう
幽々子様、あなたは、もうおしまいです


幽々子様、あなたがこの手紙を読むころには、私は全てを終えていることと思います


あなたが出ている隙に○○さんを呼び、私は今までの思いを全て伝えます
答えはイエスであってほしい けれど、それは高望みのしすぎですね
どちらにしても、私のやることは変わりません
答えを聞いて、私は○○さんの胸に飛び込みます
彼は優しいですから、抱きつく私を突き飛ばすようなことはないでしょう
そして、私は取り出してきた楼観剣をもって、二人の体を貫きます


白楼剣で私たちの迷いを絶つ それもいいかもしれません
しかし、正直に言ってしまえば幽々子様、私はあなたが怖いのです
迷いも、○○さんへの思いも断ち切ったとして、死蝶は訪れないのでしょうか?
私だけならばいいです。もしも、あなたが自暴自棄となり、万一○○さんにまで被害が及んだら
そんなことばかりを考えてしまい、どうしても実行はできそうにありません


ならば、なぜ○○さんも楼観剣にて貫くのか
それは、ただの私のわがままです
愛する人と、この世界で幸せになれないのならば、せめて一緒に連れて行きたい。それだけです
○○さんからすれば、どちらにしても死ぬのならば、たいした違いはないのだろうけれど


幽々子様、もう一度書きます
あなたがこの手紙を読むころには 全てが終わっているのです

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最終更新:2011年03月04日 01:07