ああ、解っている。あんな終わり方を迎えるのは。
きっと僕は罪深いのだろう。
あんな風に変わってしまった彼女を正さす、自分だけ死に逃げてしまったのだ。
「後悔、しているのかい?」
ギイギイと舟が軋む。
僕は船頭に対してコクリと首を縦に振る。
自殺ではない。だが、あれは死を望んだに等しいのではないだろうか。
死ぬくらいなら、彼女の全てを受け容れるべきではなかったか。
死ぬくらいなら、外界へと逃げる位徹底すべきではなかったか。
僕はどの選択もせず、安易な死が見える道を辿り、ここに来た。
「さ、着いたよ。確かに君の死は自殺じゃない……けど、命を粗末にしたのは事実だ。重罪は覚悟しておくんだね」
船頭に頭を下げて下船し、歩いていく。
彼岸花畑の中を暫く歩いていくと、いつの間にか荘厳な建物の中を歩いていた。
大きな大きな扉の前、ここが死者を裁く審判の場なのだろう。
扉が重々しく軋みながら開く。
僕は裁判官を見て……思わず座り込んだ。
装飾に満ちた長い机と椅子。大きな鏡。
審判を下す裁判官の椅子に座っていたのは……。
「ああ、そうか。これは当然の報いか」
死を持って逃げようとした自分が浅はかすぎたのだ。
彼女が僕をどうするかについては、概ね想像が付く。
後悔先に立たず、とはよく言ったものだ。
静かに罪状を読み上げ始めながらも僕を彼女は見詰め続けた。
もう、逃がさないとばかりに。
最終更新:2011年03月04日 01:24