「強引なのも嫌いじゃないですが……服を破らないで欲しかったですね」
山小屋で、俺は頭を抱えていた。
後ろで身繕いをしているのは、そこそこ付き合いの長い鴉天狗の文だ。
「どっちが強引だよ。俺を犯したんだろ? 俺が寝ている間に何度も何度も」
偶然、アイツの仕事場の奥で見つけた写真。
それは、眠っている俺を組み敷いて犯す文の姿。
天狗は霊薬の作り手だ。普通の眠りより深く相手を眠らせる薬ぐらい簡単に作れるだろう。
コイツは見かけは少女でも、天狗の山では古参に入るのだ。
「だからって、呼び出した揚げ句服を破いて犯す程じゃないでしょうに」
そんな事言いながら手早く破れた部分を繕っていく文。
どんなに荒々しくしても、コイツは嬉しそうに俺を呑み込む。
糞っ、解っていた筈だ。幾ら激しても脱してもコイツはコイツでしかないって事に。
案外、あの写真が見つかって俺が怒る事も折り込み済みかもしれない。
妖怪は非常に気が長い奴が多い。
文も長い年月を生きてきたから、酷く迂遠な策を敷いてきても全く不思議ではないんだ。
「そーですね。その通りかもしれませんよ?」
「人の考えを読むなよ……」
「○○さんが分かり易すぎるだけです。それに、私は奥床しい方です。好きな殿方に直線的だったり、ごり押しで迫るのは趣がないじゃないですか」
寝込みを襲って、その現場を写真で保存する奴が言う言葉じゃないね。
「椛と同じ扱いしないでくださいよぉ」
……まぁ、一目惚れした御同輩を初対面で拉致し、そのまま監禁した奴に比べれば……マシ、なのか?
「まぁ、○○さんが望むなら、私はどのようにでもなるからね?」
首筋と背中に、柔らかい感触と甘い吐息がかかる。
全く、妖怪の恋愛というのは理解しがたい。
最終更新:2011年03月04日 01:17