彼女は毎夜、僕の腕の中で眠りに就く。
今までも、これからも。
多分、"僕ら"という存在が、世界から消え失せるまで。
「おはよう、永琳」
「――ん。おはよう、あなた」
大体において、僕らの朝のやりとりはこんなものだ。
僕のほうが少し早く起きて、彼女が僕の身じろぎで目を覚ます。
そして僕が皆の分の朝御飯を作り、振る舞う。
レパートリーは年々増えているが、さすがに長く生きていると、
味を工夫しようとした奮闘した挙句、スランプに陥ることもある。
料理人を雇ったこともあったが、すぐに解雇した。
やはり自分の料理で皆を笑顔にするのが、僕は好きだからだ。
お昼は各々が仕事に散ってしまうので、基本は一人きりで簡単に済ませる。
食事の後は、部屋で編み物や読書をしたり、家の掃除をしたりして
比較的のんびり過ごしている。
それ以外は、たまに永琳とお茶を飲んだり、姫様のゲームの相手をしたり、
てゐやうどんげの遊び相手になったり。その辺りのイベントを
臨機応変に楽しむことにしている。
夜は帰ってきた皆を労いつつ、晩御飯を振る舞う。
頭数の多いイナバ達の分もこしらえるのは、少し骨が折れるけど、
彼女らはにこにこと実に美味しそうに食べてくれる。
張り切り甲斐があるというものだ。
僕達――つまり、家の年長組は、そんな彼女らを
穏やかに見守りつつ、嗜めつつ、食事を済ませる。
食事の片付けを済ませ、お風呂も満喫した後。
部屋でのんびりしていると、いつも決まった時間に彼女はやってくる。
僕と褥を共にする為にだ。
彼女はただ静かに、それでいて野獣のように苛烈に。
でもどこか寂しさを滲ませて、僕を求める。
僕はそれら全てを、持てる愛情と、僅かばかりの諦観を以て受けとめる。
行為に疲れを覚え始めた頃、僕らは寝るために横になる。
大体において、永琳の方が先に眠ってしまう。
僕はというと、すやすやと寝息を立てる彼女の髪を、
優しく指で梳いてやりながら眠気の訪れを待つのだ。
――ごめんなさい
彼女は毎夜、同じ寝言を繰り返す。
――許してください
同じ言葉を、僕の腕の中で繰り返す。
――愛しているの
今までも、これからも、繰り返す。
あの日。
僕がここから離れられないよう、呪いを受けた時から。
僕が彼女に薬を盛られた、その日から。
もう何百年も前の事だというのに。
僕はとっくの昔に全てを受け容れ、その上で彼女を愛しているのに。
彼女は、永琳は、毎夜僕の腕の中ですすり泣くのだ。
そして僕は、今日も涙を流す彼女をそっと抱き締めながら、眠りに就く。
それはきっと、いつまでも変わらないのだろう。
今までも、これからも。
多分、"僕ら"という存在が、世界から消え失せるまで。
最終更新:2011年03月04日 00:45