○○「よ~しよしよしよしよしよしよしよしよし」
幽々子「あらあら○○、そんなに撫でたら摩擦で火がつくわよ」
妖夢「……なにやってるんですか」
心地よい昼下がり
二人が囲むのは私と○○さんの息子
私の「妖」と○○さんの「○」を合わせて妖○と名づけた
今年で二歳になるが、どうも気が弱くて困ってしまう
剣士としての素質は親の欲目で見てもあるとは思えないが、それでも強い子に育ってほしくて、厳しく育てている
……のだが、逆に○○さんはものすごい子ぼんのうなのだ
しかもそこに幽々子様もそろって妖○を甘やかすので、正直言って今から心配である
○○「ほら、妖夢も見てみろって」
そういうと、妖○に小さなゴムボールを投げる。が、それは軽く頭に向かって落ちた
何がしたかったのか分からないが、たったそれだけで目に涙をためている妖○にも情けなさがこみ上げてくる
妖夢「こら! そのくらいで泣くんじゃないの!」
妖○「ふっ……ふえ~ん」
あっというまにに泣き出してしまった
○○「おい妖夢、そのくらいで怒るなよ。まだ赤ちゃんなんだぞ」
妖夢「しつけは小さいころが大切なんです。それにお爺様のしつけもこうだって聞きましたので」
○○「だからってなあ……」
妖○は一度泣き出すとなかなか止まらない
昨日なんて私が泣きやますまでに四半刻(30分)もかかったのだ
○○「そんなに急がせるなって。子供ってのはのんびりゆっくり育っていくんだから」
幽々子「そうよ。こんな小さいうちから厳しくしなくてもいいわ。私はこの子に強い子よりも優しい子になってほしいもの」
妖○はあなたの子供じゃない。そう叫びたい気持ちをぐっと堪える
幽々子「よしよし、痛いのはここかしら~?」
○○「妖○、もう一回だ。ちゃんとできたら甘いのあげるぞ~」
○○さんのひざの上で、幽々子様に頭を撫でられる
それだけで妖○が泣き止んだことが、よけい私の癇に触った
○○「よ~し妖○、いくぞ~……頑張れよ~」
また、ゆっくりと山なりにゴムボールを投げる
するといつもゆっくりとした動きの妖○が意外に素早く動き、そのゴムボールを受け止めた
これには私も少し驚いたが、二人の喜びぶりは度が過ぎていた
○○「うおおお! 良ぉお~~~しッ! よしよしよしよしよしよしよしよしよしよし。立派に取れたぞ!妖○」
幽々子「すごいすごい、よくできました~」
二人で競うように妖○の頭を撫で回している
私も少しは褒めてあげようと思ったが、その気は失せてしまった
ここまで大喜びするほどのことじゃないと思うのだけれど
妖○「……パ、パ」
○○「そうだすまない忘れてた、ごほーびをやるぞ。よく取れた。ごほーびだ。2個でいいか?」
妖○「……パーパ」
○○「3個か!? 甘いの3個ほしいのか? 3個……イヤしんぼめ!! ………ってオイ!!」
幽々子「し、しゃべった?」
妖夢「ええ、いま確かに、○○さんをパパって……」
一歳半ばではじめてしゃべるというのは遅い気もするが、これは素直に嬉しい
妖○「パパ、パパ」
○○「………………」
幽々子「あら、どこに行くの?」
○○「村に下りて甘いの買い占めてくる」
妖夢「やめてください」
感極まって目には涙まで潤んでいる
相変わらずオーバーな、とは今は思わなかった
子供に親と認められる。それがどれだけ嬉しいか、察するに余りある
妖夢「妖○、私はどう?」
妖○「……?」
幽々子「あらあら、妖夢はまだみたいね」
妖夢「……いちいち言わなくてもいいです」
残念
けれどこればっかりは仕方ない。順番だと思ってもう少し待つとしよう
妖夢「って、○○さんはどこに行ったんですか」
幽々子「村に走って行っちゃったわ
妖○~、パパが甘いのい~っぱい買ってくるから、お姉ちゃんにも少しちょうだいね」
妖夢「子供にねだらないでください」
あとお姉ちゃんって何ですか。あなたはお婆ちゃんのポジションでしょう
その言葉を飲み込んだとき、私は信じられない言葉を聞いた
妖○「……マーマ」
妖夢「えっ?」
幽々子「ええっ?」
私が待っていた言葉
けれど妖○の視線の先にいるのは私ではなく、幽々子様
これって、どういうこと?
妖夢「妖○、ママは私! 間違えないで!」
妖○「ひっ! ママ!ママ!」
泣いてすがりついたのは、やっぱり幽々子様
妖夢「違うって、言ってるんです!」
激情に任せて、私は初めて妖○に手を上げた。けれどその手はむなしく空を切る
幽々子様が、すがりついた妖○を抱き寄せていた
幽々子「私の子に、手を上げないで」
妖夢「……何を言ってるんですか?」
妖○は私と○○さんの子供。そんなこと、あなたにだって分かってるでしょう
それなのに、何を―――
幽々子「妖夢だって聞いたでしょ? 私がこの子のママなのよ。ねー、妖○ー」
妖○「ママ、ママ」
幽々子「ほら、ね?]
妖夢「……子供だから何を言ってるのか分からないだけです」
幽々子「ええ、妖○は誰がママかって言ってるんじゃないわ。誰がママで[あってほしい]かって言ってるのよ」
いかに主とて、この物言いは許せない
口内にぬるりと血の味が広がる。噛み締めすぎた奥歯が折れたのかもしれない
妖夢「甘やかすだけの人がママですか。ずいぶん大きく出ますね」
幽々子「そんなことないわ、私だって叱る時は叱るわよ。ただ、誰かさんみたいに感情にかられたりしないだけ
何にも悪いことしてない妖○に、手を上げようとしたりね」
妖夢「………ッ!」
いちいち嫌なことを言ってくる。老獪な人だ
幽々子「強くなくてもいい。弱虫だっていい。この子は元気に優しく正直に育ってほしい
それができるのは私と○○。あなたじゃないわ」
妖夢「あなたは、妖○だけじゃなく○○さんまで私から奪うつもりですか」
幽々子「私はね、○○も妖○も大好きなの。こんなことがなかったらずっと隠してるつもりだったけど、もう遠慮はしないわ」
妖夢「生き物を死に誘うことしかできないあなたが、思い上がったことを言わないでください
あなたが母親なら、妖○は5歳の誕生日を迎える前にあの世行きです」
私だって、幽々子様よりもずっと二人を愛している。そこに割り込む隙なんてない
そんな意をこめた皮肉をあびせる
幽々子「……うるさいッ!」
ひどい顔。憤怒、という言葉を体言したような表情だ
妖○の目に手を置いて見せないようにしているのは、まだ母親気取りを続けているつもりだろうか
幽々子「優しい夫とかわいい子供。それはあなたには過ぎたものよ」
妖夢「ええ。あなたには永遠に縁のないものでしょうけど」
幽々子「私だって奥さんに、おかあさんになれるのよ。邪魔者さえいなくなればね
どこかで私はこうなることを望んでいたのかもしれないわ」
妖夢「いいでしょう、決着をつけます。この子には母親気取りの乳母なんていりませんので」
はじめて私の手が刀にかかる。幽々子様も妖○を抱いたままの姿で扇を構え臨戦態勢だ
妖○「……………」
いつもなら泣き出すような場面で妖○は黙り込んでいた
そんな風に妙なところで空気を読むところは、私が愛した男に良く似ていた
○○「………すげえプレッシャーを石段の上から感じる。まるでケツの穴にツララを突っ込まれたような気分だ
しかし上には妖○がいるんだ! 迷ってる暇はねえッ! うおおおおおおッ!」
最終更新:2011年03月04日 01:07