さとりさんの能力はこういう風に使うものだって考えて書いた。
長いので二つに分けます。
「おはようございます、○○さん」
「う、ん……さとり?」
○○は古明地さとりに声をかけられ、目を覚ました。
そして目を覚ました際、鎖が繋げられていることに気付く。
「どういうことか、聞きたそうですね」
まだ意識が覚醒し切ってない○○に、さとりが声をかける。
「○○さんが外の世界に戻る。なんて言うからいけないんですよ……?
あなたは外の世界に恐怖を感じている。
そんな危険なところに、戻すわけにはいきません」
「さとり、何を言ってるんだ……」
○○が外の世界に嫌気がさしているのは事実。
それは確かだが、それでも戻らないわけにはいかないのではないか?
○○は今のさとりに恐怖を感じながら、そう考えた。
「たしかに○○さんは、外の世界の人間です。
住む世界は違ったのかもしれません。
でも、そんな苦しい場所に戻って何になるのですか?」
その通りである。
現に外の世界から来た者も、半分近くはこの幻想郷に滞在している。
そう考えながらも、○○は強くその言葉に反発した。
「とにかく、この鎖を外してくれ!」
そう叫んだ○○だったが、さとりはそれを一時的な錯乱だと判断し、
また来ますとだけ伝えて部屋を出ていった。
「さとり……」
○○はさとりの名前を呟き、どうにか鎖を外せないか試行錯誤していたが、
結局外すことは叶わなかった。
時間が過ぎて行く。
もう何度、
地霊殿のペットたちが食事を持ってきたのだろうか。
○○は30回までを数え、そこから先は数えるのをやめた。
少なくとも○○が監禁されてから、十日は経っていることになるだろう。
「○○さん、入りますね」
さとりが入ってきた。
何時この鎖は外されるのだろうか。
そんなことを考えながら、○○は虚ろな目でさとりを見つめていた。
「○○さん、外の世界へ帰りたいですか?」
さとりが○○に呼びかける。
○○はその言葉に反応を示し、小さい声で返事をした。
「かえりたい……」
「○○さん、まだ気付いていませんか?」
あなたは帰りたくないと思い始めている。
そう言ったさとりに、○○は目を見開く。
「本当は心の奥底で、ずっと私たちと居たいって思ってるんです。
でもそれを、無理やり押し殺そうとしてる……そんなのは駄目です。
義務感などではなく、自分自身の本当の気持ちに気付いて下さい」
そんなことは考えていなかった。
考えていなかったはずだ。
○○にはさとりと接した経験から、さとりが心の読める妖怪だと知っている。
即ち、本当はそんな気持ちがあるのかもしれないと思ってしまった。
「いきなりでしたか?
すみません、こんな責めるようなことを言って……
また暫くしたら来ますから、ゆっくり考えて下さい……鎖は外しておきますから」
鎖が外されるが、○○に抵抗の意思がないのか微動だにしない。
さとりは○○をそっとしておくように、静かに部屋を出た。
○○の考えは、巡りに巡る。
外の世界に帰りたいはずだ。
しかしそれは、本当にそうなのか?
この場に居たいという言葉。それは否定し切ることが出来ないものだ。
一度その可能性を知ったなら、種族に関係なく疑いを持つだろう。
本来ならば疑おうと、そんなことはないと言い切れたかもしれなかった。
だが○○の精神は監禁により摩耗し、その思考に余裕がなかったのだ。
だからさとりの言う通りに、
その可能性もあると思い込んでしまったのではないだろうか。
休息を取ろうと、その答えが見つかることはなかった。
「○○さん、入りますよ」
コンコンとノックの音が聞こえ、さとりが扉を開けて入る。
鎖が解かれたことによって、○○も幾分落ち着いたようだ。
「少しは落ち着けましたか?」
「まぁ……少しはね」
○○が言葉を濁して返す。
このような状況にしたというのに、落ち着いているかと聞かれるのは癪だった。
「外の世界に戻るか幻想郷に戻るか。
それを決めるのは○○さんですけど、私たちと一緒に居てはもらえませんか……
お願いします。もう少しだけ考えて、答えを出して下さい」
「……わかった」
○○はそこまで言うならと思い、その意思を承諾する。
快い返事ではないものの、その答えにさとりの表情は明るくなった。
「すみません、十数日もここに閉じ込めてしまって……」
非常に申し訳なさそうにさとりが言う。
「俺も皆には何も言わずに帰ろうとしたし、非はあるけど……
でも、今回のことを許すつもりはない」
その言葉にビクリと身体を震わせ、さとりは顔を少し下に向けた。
「あの、本当にごめんなさい……私に出来ることなら何でもしますから」
泣きそうな表情で○○を見つめる。
その表情から察したのか、○○も少し言い過ぎたかなと思う。
「止めるにしても、次からこんなことはやめてくれ」
「はい……申し訳ありませんでした」
さとりは○○にしきりに謝ったあと、自室に戻りほくそえんでいた。
全て上手くいったのだ。
仮に外の世界に戻ると言ったとしても、また別の手段で引き止めるだけ。
(○○さん、ごめんなさい……私、一つだけ嘘をついていました。
ずっと私たちと居たいというのが、嘘なんです。
でも、良いですよね? これからそう思えるように頑張りますから)
そう考えながらも、さとりは穏やかな笑みを浮かべる。
ずっと○○と一緒に居れる……ただ、それだけを想って。
相手の心を読めるって、相手に別の真実を与えれるっていうことだと思う。
そう考えるとさとりん恐ろしい子……!
最終更新:2011年03月04日 01:37