冥界の、死霊達が彼岸に赴くまでの間逗留すると呼ばれる屋敷。
庭先に作られた簡素な炉端に、2人の人影があった。
「そんなにしがみつくな
幽々子、俺はもう逃げないよ」
「信じないわ、郷の中、果てには外の世界に戻ってたじゃない」
「はぁ……そこまで追い掛けられて揚げ句に死に至らしめられたら諦めもつくさ」
パチパチと火花が弾ける。
2人の顔に火の明るさと熱が伝わるが、気にした様子はない。
2人は、既に死した状態にあるのだから。
「ったく、なんで俺みたいな凡庸な男にアンタほどの器量よしが惚れたんだか」
「色々美味しいモノを取ってきてくれたじゃない」
「実にアンタらしい理由だけど、そんな偏執的で度が越えた執着具合を産む理由にはならないぞ?」
実に、彼女は病んだ愛を○○に与えた。
どこまでも追い掛けた、どこまでも愛した。
そして、最後には永遠の逢瀬を望み、彼に死を与えた。
こうして、○○は此処に棲む羽目になった。
炉端で炙っている何かを引っ繰り返しながらも、○○の顔には翳りや怒りなどはない。
何処か達観したような、諦観と苦笑が綯い交ぜになった顔付きだった。
「ほら、焼きタレ付きだ。鴨が葱しょって……だったなありゃ」
「ええ、実に活きが良くて暴れてたわね。喉自慢って事実だったのね」
「俺がお手透きなら羽をば毟り侯へ、って言ったのに見てただけだな」
「まぁ、そう言わずに……ね?」
己の想いが成就した為か、此処暫くの幽々子は機嫌が良い。
今も主が居なくなった屋台から、焼酎の瓶とぐい飲み2つを持ってきた。ぐい飲み
「それに、やっぱり貴方は素敵だわ。私の好物をよく知っているもの」
歪んだ笑みを口端に浮かべながら、ぐい飲みを持たせて酌をしてくる。
その際に柔らかいものが身体の側面に押し付けられたが、○○は苦笑しただけだった。
全く、此処に連れ戻されてから毎晩の様に求めてくる割には機会あるたびにこうしてアプローチしてくる。
「こらこら、今は美味しいモノを食べるのに集中しよう。良い具合に皮も焙れて来たし」
誤魔化すように、彼女の持っているぐい飲みに自分のぐい飲みを近づける。
チン、と澄んだ音と共に、2人は手にした杯を煽った。
「なぁ、幽々子」
「なぁに、○○?」
「お前が望むんなら……これから毎日夜雀焼こうぜ」
最終更新:2011年03月04日 01:10