俺は自由人を自負している
だから、その自由が少しでも奪われることが一番我慢ならない

○○「だから、別れよう」
鈴仙「ええっ! どうしてですか!?」
○○「どうしてと聞くが、これでも一年ずいぶん我慢してきたんだぞ
   永遠亭の奥の部屋に閉じ込められて出してもらえない
   鈴仙以外には誰にも合わせてもらえない
   本やゲームとかの鈴仙以外の興味を引く対象は禁止
   もうやってられるか、こんな生活」
鈴仙「でも、○○さんは私と付き合ってくれるって言ったじゃないですか」
○○「ああ、こんなかわいい娘と付き合えるなら、って思って我慢してきたんだよ。けどもう駄目、限界だわ」
鈴仙「……○○さん、逃げられると思ってます?」
○○「さあね、逃げ足にはそれなりに自信があるんだが」
鈴仙「広大な永遠亭の最奥付近、追うのは狂気の瞳と弾幕を持つ私。無駄なことはやめましょう ね?」

いかにも勝利を確信しているような声と顔
腹立たしいはずのそれを、今は妙に冷めた目で見ることができた

○○「そのセリフは聞き飽きた。………やるんなら好きにしろ、俺は帰る」
鈴仙「えっ?」

よっぽど意外だったのか、鈴仙は赤い目をしきりにパチクリさせていた

鈴仙「本気で言ってるんですか。狂っちゃうんですよ? ヘタをしたら死んじゃうんですよ?」
○○「狂うのも、死ぬのも、ここで飼い殺しにされるのも、どれもそう変わるものじゃないさ」
鈴仙「飼い殺しなんて、そんな……わたしはただ……一緒にいてほしくて……」
○○「……それじゃ、俺は行くよ」
鈴仙「待って!」
○○「ごめんよ。こんな付き合い方でなかったなら、俺たちこんな終わり方じゃなかったはずなのに……残念だよ」
鈴仙「行かないでください! もうこんなことしませんから! 閉じ込めたりしませんから!」
○○「……その言葉は、もっと早く聞きたかったな」

振り向かず、俺は障子を閉めた
帰る俺に浴びせかけられたのは罵声でも弾幕でもなく、永遠亭全てに響き渡るような慟哭だった

永琳「帰り道、案内する?」
○○「ええ、よろしくお願いします」

部屋を出てすぐに、永琳さんがいた
きっとあの泣き声を聞いてすっ飛んできたんだろう

永琳「……」
○○「……」
永琳「……」
○○「何も聞かないんですか」
永琳「ええ、ウドンゲは泣かされてもしかたのないことをしてきたのだもの。あなたをいまさら責めるつもりなんて無いわ
   むしろ謝りたいくらいよ、もっと早く助けるべきだったって」
○○「お気遣い無く」
永琳「でも、できればあの子を恨まないであげて
   方法が間違っていたとしても、ウドンゲがあなたを愛していたということだけは本当のことだから」
○○「分かっています、恨みなんてこれっぽちもありません。ただ、こんな結末になったことが、ひどく悲しいです」
永琳「そう。ありがとう」



そして、俺は自由を取り戻した
村の友人達と居酒屋で飲んで唄って大騒ぎ
チルノたちと湖で釣って泳いで大暴れ
椛さんと夜っぴいて将棋版挟んでの対局
博霊神社の大宴会
みんな、俺の帰還を喜んでくれた

けれど、何か引っかかる
現状に不満は無い。むしろ好転したんだろう
その違和感の正体は、しごく単純なものだった

そういえば、あれから俺は、一度も鈴仙に会っていない
もう二度と会わないと決めたはずだったのに、どこか心にぽっかりと穴が開いたような気分だ
監禁されていた頃は毎日一緒にいたから、急に環境が変わったせいだろうか
さみしいわけじゃない、と思う
ただ鈴仙が今何をしているのか気になって仕方が無い
そんな日がしばらく続き、今日俺は、もう足を踏み入れないはずの場所に向かった

永琳「また、来るんじゃないかと思ってたわ」
○○「あはは……お恥ずかしい話です」
永琳「そうね。私の弟子を手ひどく振っておいて、気になって一ヶ月で戻ってくるだなんて、普通なら門前払いよ」
○○「面目次第もありませんです、はい」
永琳「でも、そんな優しい男だからウドンゲも好きになったんでしょうけど」
○○「……それで、彼女は今何を?」
永琳「………」

すると、何も言わずに先生は小さなビンをくれた
中には真っ青できれいな液体がなみなみと入っている

永琳「その質問に答える気は無いわ
   けれど、もしも今よりもすっと本気でウドンゲに会いたくなったら、その薬を一息に飲みなさい
   私から言えることはそれだけ」
○○「え? これっていったい」
永琳「それともう一つ、絶対に中途半端な気持ちで飲まないこと
   本当にもう一度あの娘とやり直したい。そんな風に思う日が来るまで飲んでは駄目よ」
○○「え、それってまた監禁される覚悟ってことですか」

そう聞くと、先生は少し困ったような表情を浮かべ、こう言った

永琳「もしかしたら、そのくらいの覚悟が必要かもしれないわね」



それから、また一ヶ月が経った
あの青い薬はまだ飲んでいない
今も友人たちとは変わらずに付き合っている
皆の前では、俺に何も変わったところがあるようには見えないと思う
そして唯一変わったことは、家に帰ってきたとき、誰もいない家にたまらない寂しさを感じてしまうこと
そんな時は決まってあのビンに手を伸ばして蓋を開け、そこで飲むことをためらってしまう俺なのだった

これを飲むとどうなるのかさっぱり分からないが、もう監禁されるのは嫌だ
まだそんな覚悟を持っているとはとても言えない
けれど、日に日に鈴仙の存在が大きくなっていく
あんな関係でなければ、今もとなりで笑ってくれていたであろう少女を思い出してしまう
布団に入り目をつぶると、彼女の笑顔が決まって思い出される
二ヶ月前が見納めになった笑顔は、とても魅力的だった
それから、俺は酒を飲む量が増えた
アルコールでつぶれてしまえば、彼女のことを思い出さなくてすむから



○○「たらいま~~」

今日も神社で大宴会
酒が入りすぎてろれつの回ってない言葉が、誰もいない家の中に響く

○○「れいせ~~ん どこにいったんだよぉ~~~」

今日も、彼女はいなかった
輝夜さんやてゐに聞いてみても、あの薬を飲めば分かる としか言ってくれなかった

○○「……………」

急に酔いが冷める
ああ、できれば今日は酔ったまま寝てしまいたかった
寂しさが押し寄せる前に夢に世界に行ってしまいたかったんだが、そううまくはいかないみたいだな

○○「うっ……クッ……グス……」

なんだか、涙まで出てきた
酒のせいなのか、心が弱ってるのか。たぶん両方だろう
あんな手ひどく別れた女をまだ思っている。ずいぶんと未練がましい男だ
どんなふうになじられようと、俺には返す言葉も無い

でも、会いたい
もう一度、鈴仙とやり直したい
監禁……は嫌だけれど、また鈴仙に会えるのならそれでもかまわない
そんな風に思ったのは酒のせいか、それともこれがおれの偽らざる本心なのか
これも、たぶん両方なんだろう
そして、俺はいつものように小ビンの蓋を開ける

○○「鈴仙、これで、また会ってくれるのか?」

いつもと違うことは、その中身を一息に飲み干したこと
何が起こるのかわからなかったが、宴会の疲れが出たのか座ったまま壁にもたれかかり、俺は眠りに落ちた




今朝は少し冷え込むな。そんなことを考えながら、硬い煎餅布団から手を出す
となりの部屋から香ってくる味噌汁の匂いを楽しみながら、枕元に置いてあった服を布団の中に引きずり込み、布団の中で着替える
こうすれば体は温かいまま着替えられるのだ。みんなもやってみよう! 

○○「……ん?」

ちょっと待て なんかおかしいぞ
煎餅布団、味噌汁、着替え
これ、どっから出てきた?
俺は昨日、壁にもたれかかって寝ちまったはずなんだが
まさか、という予感に駆られ、戸を開ける

○○「……鈴仙?」

いた
囲炉裏の前で鍋をかき混ぜているのは、まぎれもない鈴仙だ
ブレザー、うさ耳、そんな奇妙な組み合わせをした奴は他に知らない
そのまま、俺は囲炉裏の対面に座った

鈴仙「お話するのは久しぶりですね、○○さん」
○○「いや、お話と言うか、会うのも二ヶ月ぶりだぞ。今までどこにいたんだ?」
鈴仙「…………」
○○「いや、言いたくないならいいんだ。それよりもまたこうして会えたことが俺は……」
鈴仙「○○さん、聞いてください」

真面目な表情で鈴仙が俺のほうを見る
なんだか、楽しい話ではないということだけは、鈍い俺にもわかった

鈴仙「私たちは、本当に[お話するのは]久しぶりなんです
   だって、この二ヶ月、私は片時もあなたのそばを離れてなんていなかったんですから」
○○「……詳細求む」
鈴仙「あなたが外に出る直前、私はこっそりあなたに魔眼を使いました
   内容は、[私を知覚できなくなる]です。そうして、私はいつもあなたのそばにいました」
○○「どうしてだ?」
鈴仙「あなたが好きだから。愛しているから。嫌われてしまったなら、せめて隣ににいたかった
   私を嫌っても、忘れられてしまっても、それでも○○さんのそばにいたかったんです」
○○「なら、どうして出てこなかった。俺がずっと鈴仙を探していたことは知ってただろ」
鈴仙「はい。そんな○○さんを見てて、何度も何度も泣いちゃいました 
   けれど問題は、私はその解除方を知らなかったんです」
○○「……それで、昨日俺が飲んだあの薬は」
鈴仙「魔眼殺し。師匠特製の魔眼解呪薬。こうなることを予測して作っておいた、って師匠は言ってました」
○○「まったく、お前は……」
鈴仙「……ごめんなさい」

しゅん、と元気の無い顔を見せる

鈴仙「でも、本当に嬉しかったんです。もう私は○○さんにとって必要ないと思ってたのに、あなたが私を求めてくれたことが」
○○「……」
鈴仙「だからお願いです。もう一度、もう一度だけ、私にチャンスをください」
○○「……」
鈴仙「……やっぱり」
○○「監禁はご法度だからな」
鈴仙「えっ!? それって」
○○「あー、うるさいうるさい!! さっさと飯食って遊びに行くぞ! 
   ずっと隠してた罰として今日は全部鈴仙のおごりだからな!」



俺は自由人を自負している
けれど、好きな女を支える分くらいの不自由はあってもいい
今はそんなふうに思っている

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最終更新:2011年03月04日 00:56