霊夢/6スレ/303




博麗神社とは、外界と幻想を繋ぐ唯一の接点である。

数多くの外来人に取って、外界―――即ち元の世界に戻れる希望の場所。



多くの好奇心旺盛な彼らは、暫しの時この郷で生活をして思うだろう。
ああ、なぜ、最初に「元の世界に戻る」という選択をしなかったのかと。

これは、そんな彼らが、希望の糸を求める話。


「諸君、覚悟はいいか!?」

十数人の、外来人の前で1人の青年が演説をしている。
彼らは思い思いの武装をして、中には擬装服まで着ている者も居た。

「平穏な生活を取り戻したいか! 正常な恋愛をしたいか! 女性不信を克服したいか!」

全員が力強く頷くのを見て、男は背後に広がる山を見上げる。
そこには、小さな神社が、博麗神社がある。
彼らにとって、元の世界に戻る唯一の希望。

「相手も神社が我々にとって目標地点なのを知っている。この中にはたどり着けないものもいるだろう」
「だが、諦めてしまっては試合終了だ。諦観を持って身を委ねるのであれば、今すぐ彼女の元へ去れ!」

誰も去らなかったのを見て、青年は満足げに指揮棒を山頂へと向ける。

「目標、博麗神社! 各自、持てる力を振り絞って山頂を目指せ、願わくば、元の世界で会おう!!」
『おう!』

全員が一斉に走り出す。
参道を、山中を、茂みの中を、ただ一心に山頂を目指して。


そこにこそ、彼らの最後の希望があるのだから。



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「全く五月蝿いわねぇ……」

気怠げな仕草で障子を開けた霊夢は、寝崩れた着物を直そうともせず外を見やる。
どうやら、また暇を持て余した連中が何やらやって居るらしい。
あちこちで叫び声やら悲鳴やらが聞こえる。
ふと、目を上げると新聞屋に抱えられて連れ去られる外来の男が何か喚いていた。


「はぁ……ったく、どうしようもない事ばっかりしてるんじゃないわよ」

彼女の視線の先、神社の入り口に誰かがフラフラとたどり着いた。

色々とボロボロな青年は、霊夢の姿を目に映したのか希望に顔を輝かせた。
そして駆け出そうとして……地面に開いた隙間へ落ちていく。
その横をぐったりと気絶中の青年を、猫車に載せた猫耳少女が勢い良く駆け抜けていく。
更にその横をかいくぐって神社の敷地に入ろうとした青年を、鎌で傷付けないように引っかけた死神がひょいと自分の乗ってる舟に放り込んだ。
一瞬で消えたのは、恐らく能力を使って距離を縮めたからだろう。

それから暫くして、騒動の音が消えた。

結果はこの神社を目指した者達にとって、悲惨極まりないものとなっただろう。

「でもまぁ……、例え到達出来ても意味ないんだけどね」

チラリと目線を横にみやる。
本殿の入り口には看板が置いてあって、

『外界への送還は当面休業とします。 賽銭箱はあちら→』

と書いてあった。

「面倒な送還なんてやってる暇があったら、○○といちゃつく方が有意義よね~」

煩わしい騒音が消えた事で、気分良さそうに霊夢は部屋の中に戻る。
彼女は二度寝をする事にしたのだ。
彼女の部屋の下に作られた地下牢の、彼女の思い人が居る寝床で。








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最終更新:2019年02月09日 18:28