なにこれ、自分でもよくわかんないんだけど……。





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待ちきれなかった、毎晩繰りかえされることなのに。 
それが僕の生きる理由で、死ぬ理由で、彼女の側を離れない理由で、こうして銀の月の下で待ちわびる理由だった。 
一秒が残酷なまでに長く過ぎる中、僕は彼女に想いを馳せた。 その美しさに、その殺気に、その痛みに、その残酷さに。
彼女を思えば思うほど、繰りかえされるそれを思えば思うほど、一秒はゆっくりと過ぎる。

やがて彼女は現れた。

僕の心は歓喜に震えた。 俯きがちな彼女の表情は僕の心と対称を成すほどに悲しげだった。 
銀の光を浴びた彼女の美しさを表現しきれる言葉を僕は知らない。
彼女は静かにナイフを構えた。僕も鞘から牛蒡剣を抜き、膝を折った。
笛のような風の音、彼女のナイフが僕の頭上を薙いだ。 間髪入れずに僕は頭を右に倒す。
頬に痛みが走った。 左耳の横に突き出されたナイフを持つ腕を押さえ、正面にある彼女に突きを放つ。しかし彼女は当たる寸前に姿を消した。

「もう、やめましょう……?」

背後からの声、振り返ると彼女は僕から十メートル程の距離を開けて立っていた。 その表情はとても辛そうで、悲しそうで。
「何故、こんな事を貴方はしたいの? 私達はあんなに分かり合えていたじゃない……?」
僕は姿勢を低く、脚力を総て使って彼女へ走った。 しかし彼女の姿は目の前から消える。
「こんな事が、こんな事があなたの願いなの? 」
また背後から声が聞こえた。 振り返るとさっきと同じ位置に彼女は居た。 表情は変わらなかった。


「ええ、そうですよ。 僕は貴女を殺したいし、同時に貴女に殺されたい。 それだけです。」


さっきと同じように彼女へ向けて走った。 
同時に袖の中のナイフを数本彼女へ向けて放つ、そして右足を軸に百八十度の方向転換、さっきと逆向きに走った。

驚いた表情を浮かべる彼女、僕は彼女の心臓を目掛けて突きを――。

「ごめん、なさい」

首に何かが突き刺さった。 痛みより冷たい、と言ったほうが正しいのかも知れない。 そしてとても息苦しい。

世界が遠くなっていく気がした。 今にも涙を流しそうな彼女の顔が見えた。 痛みが消え始め、不意に色々な事を思い出した。 
それは笑う彼女だったり、照れて真っ赤になった彼女だったり、椅子にもたれて眠るあどけない彼女の寝顔だった。 




咲夜さん、これで僕は自分達を殺せました、ありがとう。












私の目の前には事切れて動かなくなった恋人が居た。 私には彼が私に殺されたい理由が全く解らなかった。

それに恋人といってもたった五時間しか関係を続けられなかった。 

私は彼を理解してあげられなかった。





僕は自分が嫌いです。 それなのに僕は恋をしました。 
僕は彼女を見るたびに、彼女と話すたびに、よくわからない怒りを自分に覚えました。
そして彼女に告白して返事を貰った時、僕は悟ったのです。


僕は何よりも同じ彼女を愛した俺を許せなかった。 



                                               ――ゴミ箱の日記帳より。


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最終更新:2010年10月26日 00:25