小悪魔は食事を終え、食後の一服を楽しんでいた。
司書控え室のベットの上に、紫煙がゆっくりと広がっていく。
行儀が悪いし、防火の観念からすればマナー違反ではあるが、それ以上に煙草を吸いたくなったのである。

呻き声をBGMに、ふと、ベットの側を見下ろす。
破り捨てられた男性用のベストとシャツとズボン、脱ぎ捨てられた自分の普段着。
逆側を見ると、自分に背中を向けてシャツにくるまりウンウン唸っている青年が1人。

「○○さん」

青年の背中がびくりと動いたのを見て、小悪魔はクスリと笑った。

「童貞、ご馳走様でした」

食事の後はちゃんと挨拶をする。これは常識である。

「じゃ、お代わりさせて頂きましょうか。今度はゆっくりと私の良さを教えて―――」

ドアがジュワっという音と共に消失した。
恐る恐る振り返った○○がヒッと息を飲む。
其所には、最近雇った○○を自分専用の司書にしていた魔女が居た。

「謀ったわね……小悪魔。よくも、私が楽しみにしてたものを横取りに」
「あらら、魔界から戻ってくるのが早すぎですよパチュリー様」

幻想郷における、『食べていい人間』の需要は意外に高い。
管理人や揺らぎによる定期的な搬入はあるものの、こうして品不足から争いが起こる事も多い。

「主に対する反逆、消失を持って思い知らせてあげるわっ!」
「ふふふ、○○さんの童貞を食べた私は今やダンチ、例えれば悪魔の身を食べる前と食べた後ほどの違いがあります!」

とあれ、幻想の郷は何時も通りであった。
一部で死闘や争奪戦が起きている以外は、だが。

「あのー、僕の、意志とかは聞いてくれないんですか?」

そんなものはない。
最終更新:2010年10月31日 03:39