なぁ、みんな。こんな秋の夜長、偶には変態もいいよね。
僕は新参者の外来人だ。
仕事は実家が民芸品の販売店だったので、木材や竹を使って日用品や玩具を作って生計を立てている。
他にも家具の修理なんかもしている。
こないだも阿求ちゃんに呼ばれて簡単な玩具を目の前で作って見せたり、本棚を修理したりもしているんだ。
そんなこんなでそれなりに人里へ馴染み始めた僕ですが……とんでもないものを見てしまったんです。
それは、一日の仕事が終わった後、竹を使って新しい玩具を考案してた時です。
明日が休日もあってか、結構遅くまで仕事してたんです。
阿求ちゃんから貰った良い匂いがする茶巾をクンカクンカして精神を落ち着けて寝ようと思ったんです。
「……の、前に喉渇いたから水飲んでからにするか」
丁度、水瓶の水が悪くなってた為、長屋の公共井戸の側にある水飲み場に行こうと戸を開けたんです。
「~♪~♪~♪」
威風堂々と言わんばかりの足取りで、全裸のお姉さんが僕の部屋の前を横切っている途中でした。
唖然とする僕など存在しないとばかりの足取りで、お姉さんは空き部屋を挟んだ隣の部屋の戸を当然のように開けて入っていきます。
金色のモフモフとした9本の尻尾が吸い込まれていき、そして戸は静かに閉まりました。
僕は、水も飲まずに布団にくるまり、ひたすら朝がくるのを待ったんです。
それから、来る日も来る日もお姉さんは全裸で僕の部屋を横切りました。
そして、隣の隣りに住む気の良い幻想郷先輩の部屋へと入っていきます。
一体、何が行われているんだろうか? なんであの人は夜とはいえスッパで堂々と歩いてるのだろうか?
本能が告げます。関わるな。忘れて、早寝しろと。
でも、僕はとうとう彼女に話しかけてしまったんです。
「ど、どうしてスッパなんですか?」と。
お姉さんは、初めて僕の存在に気付いたかのように僕の方を向きました。
そして僕の問いを吟味するかのように少し間を置いた後、はっきりとした口調で言ったんです。
「私は惚れた男には全力で思いをぶつけたいと思っている。恥ずかしながら、彼が望みそうなスタイルがこの格好だと思い、最善を尽くさんとしているのだよ」
「そ、そーなんですか?」
「ああ、これが、私の淑女としての全力であり、矜恃だ。彼もきっと何時かは答えてくれると信じている。彼は、鈍感だからな」
そう言うと、ふっと物憂げな面持ちを浮かべスッパな女性は先輩の部屋へと入っていきました。
僕は、先輩を問いつめる事にしました。
あんな美人な女性をスッパになるまで思い詰めさせるだなんて、どういう事かと。
すると、先輩は目を丸くして僕にこういったんです。
「…………おい、○○」
「何ですか?」
「誰だ、その全裸の女って。心当たり無いんだけど?」
……僕の見た女性は、一体何だったんでしょうか。
追伸
先輩はその数日後、消息不明になりました。
僕も、阿求ちゃんに一方的に婚約を宣言され、阿求家に引っ越す為今自室の片づけをしているトコです。
……なんでこの『外来長屋』に人が居着かないか、理解できたような気がします。
最終更新:2010年10月31日 03:40