需要があるか分からないけど試しに投下。
秘封倶楽部もの。
「じゃあ、ちょっと行ってくるわね。」
私が玄関で傍らに立つ○○にそう言うと、○○は心配そうに、怪我しないよう気を付けてね、と言いながら二人分の夜食とお茶を入れた水筒を渡してくれた。
・・・相変わらず、細かな気配りが出来る良い弟である。私には勿体ないと思ってしまう位に。
私はいつもの様に○○の頭を撫でた後、少し恥ずかしそうな○○を堪能してから
メリーとの待ち合わせ場所に向かって歩き出した。
○○と初めて会ったのは十年程前。私も○○もまだ小学生の頃だ。
ある日の夕方、両親が珍しく早い時間に帰宅したと思ったら紹介されたのが○○だった。
何でも、○○の御両親と私の両親は昔から親交があったのだが、数週間前に不幸な事故で彼等が他界してしまったため、一人残された○○を養子に迎えたいのだが蓮子はどうか、ということだった。
私は一人っ子で、弟か妹が欲しいと密かに思っていたため、両親の提案にすぐさま賛成した。
この私の即断即決には、さすがに○○や両親も目を丸くして驚いていたが、両親は元来おおらかな気性の持ち主であるし、○○も人懐っこい性格なので私達は直ぐに打ち解けることが出来たように思う。
そして、それからいくつも季節が廻り、私は○○とたくさんの時を過ごした。
晴れの日も雨の日も、風の日や雷の日も。
いつも、いつでも一緒だった。
・・・そういえば、私が自分の持つ力を最初に打ち明けたのも○○だった。
物心ついた頃から、私は空を見上げれば星と月の位置から時間と今いる場所を知ることが出来た。
それが普通とは違うことも幼いなりに理解していた。何故違うのか、どうして私なのかと悩み続け、でも拒絶されたくないから誰かに話すことも出来ないジレンマを抱えながら。
だから、あの時は本当にドキドキした。
○○は私を拒絶したりしないと信じて決心したものの、いざ打ち明けるとなったら頭が真っ白になるんだからどうしようもない。
突然部屋に押し掛けて、しどろもどろになりながら要領を得ない私の話を聞いた○○は、優しく微笑んで私を抱き締めてくれた。
そう、きっとその時だ。
○○と出会えて良かったって思ったのは・・・。
「床板が腐っていたみたいね。ねぇ見て、大きな穴が床に空いてるわ。」
「此処は廃校になって暫く経っているから、そういうところがあってもおかしくないと思う。・・・覗きこんで落ちないでよ?メリー。」
○○と一緒に住んでいるアパートの一室から出て数時間後。私は秘封倶楽部としてサークル活動するために、メンバーのメリーと共にとある廃校の中にいた。
「しかし、この床に空いた穴といいボロボロの壁といい雰囲気は十分だけど、本当に此処に結界なんてあるのかしら?」
「私の入手した情報によれば、ね。」
実のところ、これは嘘だ。この廃校には怪談や噂はあっても、結界や境界の話は無い。
私が此処に来た真の目的は、二人きりになってメリーの真意を問いただすことなのだ。
真意とは何かって?
もちろん、○○のことだ。数日前、少し時間が空いたのでコーヒーでも飲んで休憩しようと大学のカフェテラスに向かったのだが、そこで楽しそうに笑うメリーと○○を見た。
先に誤解の無いよう言っておくが、これは嫉妬でも何でもなく、弟の○○も親友のメリーも大事に思うからこそきちんとした交際をして欲しいと言うか・・・
いや、そもそも二人が付き合っていると決まったわけじゃない。
あの時は、私に会いに来た○○とメリーが世間話していただけかもしれない。
私を置いて二人で話していたのも、その時間帯はいつも私が忙しくしていると知っていたからだろう。
驚きのあまり夢美教授の研究室に引き返し、焦点の合わない目のまま素数を数えてしまったが、ちゃんと後で○○は私のところに来たのだから。
そう、そうだ。慌てるな私。
まだ慌てる時間じゃない。深呼吸して落ち着いて、勇気を出して聞いてみよう。
「メリー。ちょっと聞いても良い?」
「蓮子?」
「○○のこと、好きなの?」
「っ!・・・これはまた随分とストレートな質問ね?」
「回りくどいのは嫌いなの。それで、答えは?」
「もちろんイエスよ。友人としても異性としても、○○は魅力的だと思うわ。」
そう、なんだ・・・
「知り合って直ぐに○○を好きになって、それから今まで色々とアプローチしたのだけど。彼、つれないのよね。」
アプローチって何時の間に・・・
「だから何日か前、大学のカフェテラスへ呼び出して気持ちを伝えたの。」
「・・気持ちって?」
驚きのあまり震える声を絞り出し、私は尋ねた。
「貴方を愛しています、付き合って下さいってこと。やんわりと断られちゃったけどね。」
「断られた?」
どうして!?
メリーは性格もスタイルも良い美人なのに。
私は、二人が付き合っているのでは無いと分かって安堵する一方、そんなことを考えていた。
「まあ、○○にも色々と事情があるのよ。で、話は変わるんだけど。私ね、蓮子にお礼を言いたいの。秘封倶楽部に入れてくれてありがとうってね。」
「な、何よ。突然そんなこと・・・」
「あら、別に突然ではないわよ。ちゃんと伝えておきたかっただけ。秘封倶楽部に入っていなかったら、私は今も一人ぼっちでいただろうから。」
「ええと。なら、私も秘封倶楽部を作った甲斐があったってことか。」
「ええ、そういうこと。」
なんだか気恥ずかしくなって、メリーに背を向けるように後ろを向く私。
暫くの間、沈黙が訪れたがそれを破ったのはメリーだった。
「ねぇ、蓮子。ちょっとこっちに来てくれる?こっちの方から結界の気配がするわ。」
言われて振り返った瞬間、腹部に焼ける様な痛みが走った。
・・・え?
何、コレ?
何で私のお腹にガラスの欠片が刺さっているの?
「どうして刺されたのか分からない?ねぇ、本当に分からないの?」
痛いいたいイタイ痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いイタイ痛いイタイ痛いイタイ痛いイタイイタイイタイ
体からどくどくと血が抜けていく。
寒い、体から熱も逃げていくようだ。
「さっき○○に告白した話をしたでしょう?○○はね、昔から想いを寄せる人がいるから私と付き合えないって言ったの。」
「人使いが荒くてせっかち、思い込みの激しいところがあるけれど家族思いの優しい女性。蓮子、貴方のことよ?」
○○が好きなのは、私?
痛みで朦朧とする頭で必死にメリーの言葉を理解しようとするが、私の思考は散らばってまとまらない。
○○にメリーは振られた?
○○は私が好き?
メリーは私をガラス片で刺した?
「わざわざ廃校に呼び出してあんなこと聞いてくるなんて、蓮子も私のこと始末しようと思っていたんでしょう?」
っ!そんなこと!!
無いと続けようとして、私はメリーに腕を掴まれた。そしてメリーは私を背に担ぐようにすると、先程の穴のところへと運んだ。
「人気の少ない廃校なら発見されるまで時間がかかるだろうし、発見されても事故による転落死に偽装出来る。」
「お腹の傷も、ガラス片なら落下途中に引っ掛かって刺さったと思わせられるでしょう?」
「だから、ね?心置き無く死んで?○○は私がずっと愛していくから。」
メリーが私を穴の中へと突き落とす。
「さようなら、蓮子。」
落下していく闇の中。私は薄ら笑いを浮かべて佇む、メリーの淀んだ紅い瞳を見ていた。
終。
蓮子ヤミかと思っていたらメリーの気がくるっていたの巻。
最終更新:2010年11月24日 02:06