流れをぶった切るけど投下します。
なんか申し訳ない。
白で覆い尽された世界。
さながら雪原のようなそこに、私と¨彼¨はいた。
「フランおねーちゃん、どうしたの?僕の顔に何か付いてる?」
彼が心配そうに私の顔を見上げてくる。
「ううん、何もついて無いよ。」
「ホント?いたずらされたりしてない?」
「大丈夫。もし誰かが○○にいたずらしたら、フランお姉さんがそいつをやっつけちゃうんだから。それに、○○が何か困ったら絶対に助けるよ。」
「約束?」
「そう、約束。」
「じゃあ・・・」
彼はそう言うと小指を差し出した。
私は黙って彼の小指に自らの小指を絡めて言う。
「「ゆーびきりげんまん。うそついたらはりせんぼんのーます、ゆびきった!!」」
◇◇◇
霧が立ち込める湖の畔。
そこには血で染めたように赤い洋館が存在する。
そして、私はその館の門番だ。
いつもは退屈なくらい何も無いこの仕事だが、今日は少し違っていた。
館の住人だった○○君の墓参りがしたいという者がやってきたのだ。
「・・・ですから、お嬢様の許可無く部外者を中へ入れるわけにはいかないんです。どうかお引き取り下さい。」
「では、せめて許可を頂けないか話を取り次いで下さいませんか?彼の墓標にお花を供えたいのです。」
「お嬢様はご多忙なため取り次ぎは出来ません。それに・・・そんなことされても、はっきり言って迷惑です。」
そう、迷惑だ。
彼女がいなければ彼は・・・○○君は死ななかったかもしれないのだから。
「迷惑・・・?」
「とぼけても無駄です。貴方が○○君に¨人でも妖怪でも困っていたら助けてあげましょう¨なんて吹き込んだことは皆知っていますよ。」
「それは・・・」
「貴方は○○君の遺体を見ましたか?・・・私は見ていませんが、うちのメイド長の話によれば全身が焼け焦げて赤黒くなり、肉は削がれ、首は折れ曲がって眼球は左右共にえぐられていたそうです。歯並びで辛うじて本人だと分かるくらい酷い有り様だったと、竹林の薬師も言っていました。」
彼女はうつむいて黙りこんだ。
泣くことを耐えているのだろうか?
小刻みに肩が震えている。何にせよ、もう沢山である。
彼女とはあまり話をしていたくない。
感情にまかせて殴りかかる自分を抑える自信が無いから。
「きっと素直な○○君は、お腹を空かせたずる賢い妖怪に騙されたんでしょう。助けてとかなんとか言って人気のない森の中に呼び出され、丸焼きにして食べられた。・・・ああ、それなら確かに困っている妖怪を○○君は助けましたね。自分が餌になって。」
・・・・・・小さな嗚咽が漏れ聞こえてくる。
そうやって泣くくらいなら、始めからあんなことを○○君に言わないで欲しかった。
「さあ、分かったらどうぞお引き取り下さい。」
◇◇◇
「美鈴、来客は帰ったのかしら?」
「ええ、今しがた命蓮寺の聖白蓮さんがお帰りになられました。」
聖白蓮。
その名を聞いた途端、私は胸の奥底から沸き上がる黒いものを感じた。
私は、いや、この紅魔館に住まう全ての者は彼女を決して許しはしないだろう。
彼女は私達の大切な弟を、間接的にとはいえ永久に奪っていったのだから・・・
「アアァァァァッ!!」
「「っ!!!」」
突如響き渡る絶叫。
地下から怨嗟にまみれた声が轟く。
「妹様、今日は一段と荒れているみたいですね・・・」
「・・・美鈴、私も地下室へ向かうわ。門番の仕事、頼んだわよ。」
「お任せ下さい、咲夜さん。○○君と紅魔館の名に誓って、必ず職務を全うしてみせますから。」
紅魔館地下室。
そこはかつてお父様がフランを恐れて幽閉した場所であり、今また私がフランを閉じ込めている場所である。
○○を喪ったことで落ち着いていた情緒が再び不安定になったフランは、不定期に覚醒して自傷行為を繰り返したり、手当たり次第に破壊しようと暴れまわるようになった。
恐らく、今のフランならば幻想郷を破壊することも然程難しくないだろう。
だが、そうさせる訳にはいかない。
もし幻想郷が壊れれば、○○が生きていた証が全て無くなってしまうのだから。私とフランの絆を取り戻し、館の者達の心を近付けてくれた彼の思い出を私は守りたい。
何より、一番○○を可愛がっていたフランに○○の思い出を消させたくないのだ。
「・・・ふふ、フランや○○を思いやる様なことを言っておきながら、結局やっていることは前と変わらないなんてね。」
○○、君ならどう思うかな?
駄目な姉だと呆れる?
必死になって励ましてくれる?
それとも・・・
私は廊下に響くその声に、はっと我に返る。
「ああ、咲夜か。どうした?」
「いえ、妹様の声が聞こえたものですから。妹様はまた?」
「ああ、今回もパチェが強化した結界を破って部屋から飛び出そうとしたよ。」
「今日も約束の夢を見たのでしょうか?」
「恐らくは、な。」
「約束したのに助けられなかった。その思いが妹様を縛り付け、苦しめているのですね・・・」
「夢は私の能力でも荷が重い。全く、ままならないな・・・」
「お嬢様・・・」
◇◇◇
人里の外れにある命蓮寺。ほんの少し前まで楽しげな声が聞こえたそこは、今ではひっそりと静まりかえっている。
理由は簡単。
○○が死んでしまったからだ。
○○の死後、村沙とぬえは犯人を探すと出ていって戻らず、後追い自殺を図った星は付き添いの
ナズーリンと共に竹林の薬師のもとへ。
時々○○を驚かそうと寺に来ていた傘お化けの娘も、ぱったりと見かけなくなった。
残ったのは私と姐さんと雲山の三人だけ。
○○の死は、私達に大きな変化をもたらしたのだ。
「姐さん、そろそろ帰って来るかな?」
今日は○○の月命日に当たる。
だから私は境内を箒で掃除しつつ、墓参りに出掛けた姐さんの帰りを待つことにした。
そしてそれからしばらくした後、私は石段を上がり寺に近付く姐さんを見つけた。
「姐さん、お墓参りは出来ましたか?・・・姐さん?」
姐さんの顔が心なしかやつれているように見える。
大丈夫だろうか?
「・・・ああ、一輪ですか・・・」
「その様子じゃあ駄目だったんですね・・・」
「一輪、私は・・・私は間違っていたのでしょうか?」
暫しの沈黙の後、姐さんが不意にそう問いかけてきた。
・・・間違い?
「決して救われず、人の手で排斥されるのみの妖怪達を救い、人と妖怪が共に暮らす世界。私はそれを理想としてきました。」
姐さん?
「しかし、○○君は死にました。妖怪に・・・殺されました。」
「姐さん、もういいよ・・・」
「私は弟から法術を学び、弟の死後はさらに魔術や妖術を学んで死を克服しました。・・・当初は若さを維持する妖力のためだった妖怪の救済も、彼等の苦しみを知る内に理想へと繋がっていきました。」
「姐さん、お願いだから・・・」
「○○君は、まさに私の理想を体現した存在。人と妖怪の垣根を越えて、多くの人妖から家族として愛された。でも、私がそれを壊した・・・私が彼を」
「もうやめて下さい!!このままじゃ姐さんまで壊れてしまいます!!」
私は叫んで姐さんの言葉を遮った。
そうしなければ、姐さんの心が潰れてしまうと思ったから。
・・・しかし、何てことだろう。
姐さんがここまで追い詰められていたなんて。
自分の迂濶さが恨めしくなる。
「私は・・・私は・・・」
うわ言の様に同じことを繰り返し呟く姐さんを見て、私は改めて皆の帰る命蓮寺を守ると胸に誓った。
竹林の奥深く。
そこにひっそりと佇む永遠亭の一室に私はいた。
「・・・やはり何かおかしい。」
椅子に腰かけた私の対面には竹林の薬師こと八意永琳が座っており、私がこの一ヶ月間ずっと
小悪魔に集めさせた情報を確認してそう呟いた。
「貴方もその結論に到るのね、永琳。」
「どうやらそのようね。
パチュリー、貴方が持ってきた情報が正しいならどう考えてもおかしな点があるのよ。」
「○○があの日向かったはずの人里で○○の目撃情報が無いこと。博麗の巫女や人里の守護者、さらにはその友人と人形遣いの魔女まで遺体があった森を隈無く探したが、犯人らしき妖怪は一切見つからなかったこと。さらに、捕食目的にしては無駄が多すぎることも挙げられるわね。」
「あの日、○○は人形遣いの人形劇を見に行くと言って紅魔館から人里へ向かったはず。だけど人里の門番すら○○を見なかったと証言した。犯人らしき妖怪のことにしても、一瞬で人を丸焦げにする力を持った個体があの森にいるとは思えない。」
「何より、遺体の状態からまるで○○が死んだことを見せつける様な執拗さが感じられる。」
「だとすれば、死なせたと周囲に理解させることが重要・・・?」
妙な薬物が人里の若者の間で流行り、黒幕として疑われて可哀想だから助けてあげてパチュリーおねーちゃんと紹介された時も思ったが、永琳は頭が良い。
情報から、真実の一端に到ろうとしている。
「・・・もうそこに行き着くなんて、流石に月の頭脳は伊達じゃないわね。実は私もその可能性に思い到り、小悪魔に追加で調べさせているの。」
「それは一体・・・?」
「ああ、それは・・・ん、失礼。小悪魔から報告がきたわ。・・・ええ・・・それで・・・そう、ありがとう。・・・ええ、それじゃ。」
「○○の事件、真犯人が分かったわ。」
「本当に!?」
「ええ、ほぼ間違い無い。だけど急がなくては手遅れになるかもしれないわ。私はこれから犯人のところへ向かうけど、永琳、貴方も同行してくれる?多分彼は衰弱しているだろうから・・・」
「ちょっと待って頂戴!!状況がさっぱり分からないわ。」
「悪いけど、事態は急を要するの。説明は道中でするわ。」
さあ、この馬鹿げた茶番を終わらせましょう。
悪夢のような日々はもう要らない。
「よお、パチュリー。今日は随分珍しい奴と一緒なんだな。」
彼女、霧雨魔理沙は人懐っこい笑顔を浮かべてそう言った。
その様子からは、いつもと異なるところは見受けられない。
「実は貴方に話があるのだけど、今大丈夫かしら?」
「ああ、別に構わないぜ。永琳が一緒なのもその関係か?」
「ええ、そうよ。」
「まあ、立ち話もなんだ。上がっていけよ。」
「それじゃ、お邪魔させて貰うわね。」
その言葉とともに、私と永琳は
魔理沙の家に入る。
中は雑多な品物が散乱していた。
地震が来たらすぐに崩れそうだ。
「・・・で?話って何なんだ。」
数分後、紅茶を片手に魔理沙がそう聞いてくる。
証拠は十分に有るのだ、単刀直入に行こう。
「貴方に返して欲しいものがあるの。」
「おいおい、結局いつもの本返却の催促か?だったら毎度言っているだろ?死んだら返すってさ。」
「違う。○○のことよ。」
途端、魔理沙の表情が凍りつく。
「何言ってるんだ?死人は返せないし、第一私はそんなの持ってないぜ。」
「○○の葬儀に来たとき、貴方は○○が丸焦げになったことを知っていた。文文。新聞が報道を自粛した以上、貴方は知っているはずが無かったのに。」
「葬儀に出ていた妖精メイドに聞いたんだ。」
「貴方がこの一ヶ月に人里で買った食料。どう考えても、今までの二倍あるわ。」
ほら、と小悪魔の調べた情報をメモした紙を見せる。
「最近ちゃんと食事を摂るようになったんだ。前が少な過ぎたんだぜ。」
「○○が死んだ日、貴方が人里近くの森を飛んでいるのを目撃したと人里の門番は証言したわ。そして、その森は○○の遺体が発見された場所よ。」
「その日は人里にちょっと用事があったんだ。」
「そう・・・あくまで白を切るつもりなのね。なら、奥の部屋を見せて頂戴。」
「いや、それはその・・・ほら・・・」
「魔理沙、あそこに何か私達に見られて困るものがあるの?」
「いや、だから・・・そう!!危険なんだ!!危ない薬品がゴロゴロしてるから入らない方が良いぜ?」
「私は魔女、永琳は薬師。魔法薬にしろ普通の薬品にしろ、扱いには慣れているから大丈夫よ。」
そう言って私は扉に手をかけ・・・
「ヤメロォォォォォォォ!!」
咆哮。
まるで悪鬼羅刹のような形相で、魔理沙が叫ぶ。
「後ちょっとなんだ・・・後ちょっとで・・・後ちょっとで、○○は私だけのものになるんだ。だから・・・邪魔すんなぁぁぁぁぁぁ!!」
魔理沙の八卦炉に火が入り、妄執にまみれ歪んだ悪意の光が走る。
スペルカードルールを無視した、相手を消すための魔法が私達に迫り、しかし目前で掻き消えた。
目の前には気絶した魔理沙と注射器を持った永琳が立っていた。
「鬼でも眠る鎮静剤よ。流石にこんな用途は想定外だけど・・・」
◇◇◇
あの後、○○は奥の部屋で無事発見された。
一ヶ月近く監禁されたせいでかなり衰弱していたが、命に別状はないとのことだ。
そして私の予想通り、魔理沙の部屋からは犯行を裏付ける証拠が出てきた。
人体生成に関する書籍や魔道具。
人体のもととなる物質。
出所不明な博麗大結界の操作に関する巻物。
魔理沙はこれらを用いて偽の死体を作り、周囲を欺いた後で○○を連れて幻想郷から逃げ出そうとしていたのだ。
「しかし、部屋の位相をずらして閉じ込めていたなんて。それじゃあ命蓮寺のネズミでも見つけられないわね。」
ともあれ、○○が帰ってきた。
巻物のことや八雲紫が最後まで何もしなかったことなど、いくつか気になる点はあるものの、まずは喜びたい。
おかえり、○○。
終。
694です。
フランは、○○が帰ってきたことで一先ず暴れなくなります。
しかし、魔理沙と聖は月夜に気を付けろフラグが立ちました。
生命の危機という意味で。
以下簡単な補足
魔理沙
永遠亭で療養中。犯人。
フラン
○○が帰ってきて大喜び。そしてどこでもべったりな心配症に。
危険防止のため、魔理沙が犯人だったことは知らされていない。
永琳
多分まともな人。魔理沙を狙ってコンスタントに襲撃する舟幽霊・鵺・傘お化け・妖精メイド達・烏天狗をいなす日々。
星
○○が死んだと聞いて、悲しみの余り切腹チャレンジした。
今は魔理沙をどうしてくれようか思案中。
魔理沙にげてー。
なお、全裸で○○の前に行き、¨服をなくしました、人肌で暖めてください¨と言ったことがある。
ナズーリン
星の付き添いで永遠亭にいる。
星を変態と馬鹿にしているが、本人も自覚のないナチュラル変態。
○○の寝た布団の臭いをかいだりする。
魔理沙の話を聞いて、その手があったかと驚いた。
聖
新感覚撲殺系魔法使い。
事件を経て、弱い自己と向き合いハイパー化。
○○も不死になればいいじゃない。
お姉さんが手取り足取り教えてあげる。
パチュリー
多分まともな人2
紅魔館総出の○○おかえりパーティで、死ぬほど酒を飲まされる。
頭痛い・・・
小悪魔
本編影の功労者。
しかし変態である。
○○にはちみつ授業と称してセクハラを繰り返し、給料を下げられた過去を持つ。
下着など飾りだ、というノーパンスタイリスト。
しかし変態である。
写命丸 文
表は新聞記者。裏は○○の秘蔵写真ブローカー。
部屋は○○の写真でいっぱい。
文は走り続ける。
性欲が満ち足りるその時まで。
鈴仙
残念なストーカー。
全裸がデフォルト。
私は変態じゃありません。変態という名のノーパンです。
やりたいネタはまだあるので、多分続きを投下すると思います。
その時は、よろしく。
最終更新:2011年09月29日 20:49