ごほ、ごほ。
小さな我が家に音が響く。
どうも風邪をひいてしまったらしいな。
体中が痛い。こりゃ今日は動けそうにないな。
妖夢に遭いに行きたかったが、体を休める事が先決だな。
そう思い、もう一度布団をかぶり直した。
しかし……風邪をひいてしまったときと言うのはどうしてこんなにも心細いのだろうか。
どうにも元気が出てこない。後ろ向きな考えばかりが思い浮かんでしまう。
例えば……このまま自分が死んでしまうとか。
ああ、妖夢にはこの間告白をして付き合い始めたばかりだったというのに。
いや、馬鹿らしい。ただの風邪だ。そんなことはあるわけがない。
そうだ、心を強く持つんだ。
「○○さん、○○さん」
……今妖夢の声が?
いや、違う。彼女は今、白玉楼に居るはずだ。だからさっきのはただの空耳だろう。
「○○さん、○○さん」
空耳では、無いな。どうやら幻聴の方だったようだ。
ただの風邪かと思っていたが幻聴まで聞こえてくるとはもしかするともしかするかもな。
聞こえてきたのが愛する人の声だったからまだましか。
「俺はこのまま死んでしまうのだろうか」
そう呟いてみた。
「そんなことはありません。ちゃんとよくなりますからしっかりしてください」
「励ましてくれてありがとう妖夢。でも駄目かもしれない。俺、死んだらどうなっちまうのかな」
「それなら安心してください。
幽々子様に行って○○さんの魂は白玉楼に連れてきてもらう約束をしていますから」
そうか、それを聞いて幾分か安心した。死後の内定はもうすでにちゃんと決まっているらしい。
……っと、まて。どういうことだ。妖夢の声がはっきり聞こえる上に会話をしている?
これは幻聴なんかじゃない。近くに妖夢がいる。
「妖夢。どこにいるんだ。隠れてないで出てきてくれないか」
「それは無理ですね。○○さん、声がどこから聞こえてくるかよく耳を澄ませてくれませんか」
どういうことだ? どこから声が聞こえてくるか耳を澄ませてみろ?
声が聞こえてくるのは……頭の中!?
「妖夢、これはいったいどういうことだ。頭の中から妖夢の声が聞こえるんだが?」
「それはもちろん私と貴方が一つになったからですよ、と言ってもわかりませんよね。
○○さん、思い出してください。前にもこうやって寝込んでしまった事があるでしょう。
それも、白玉楼で」
妖夢に言われて思い返してみると、確かにそんな事もあった。
白玉楼に遊びに行っている時に倒れてしまったのだ。
とても親切に介護をされた記憶がある。確かその時は妖夢にもらったくすりで……
「なあ、妖夢。そういえばあの時もらった薬はいったい何だったんだ? 白くてふにふにして」
「その時も言ったじゃないですか、私特製の薬だって。まあ、それのおかげで今の状態あるのですけど」
まてまてまて、話が見えてこない。
「妖夢。順を追って説明してくれないか」
「もちろんそのつもりです。いいですか、○○さん。
あの時より少し前に○○さんが私に告白をしてくれたじゃないですか。
私にはその告白がとても嬉しかった。○○さんが私の事を愛していてくれた事が。
しかし、同時に怖くなった。私なんかが○○さんを繋ぎとめておけるかどうか。
もし万が一愛想を尽かされてしまったら。その事で頭がいっぱいになりました。
悩んで悩んで、どこかに閉じ込めておこうかとか、動けなくしてしまおうとか、
いっそ殺して一緒になろうかとか。
そう悩んでいたときに幽々子様がこの方法を教えてくださったのです。
一つになってしまえばいいじゃないかと。
結論から言いますとあのお薬は私の半霊の一部です。あれを○○さんが飲んでくれた事によって、
私は今、○○さんに取り憑いてるのと同じ状態にあります。
正直、幽々子さまや紫さまのご協力がなければここまではできませんでしたが、
お二方とも私の恋を応援してくれると言ってくださって助かりました。
いいですか、私は今貴方に取り憑いているのと同じような状態です。
と言っても私の肉体や半霊は今、白玉楼にあります。
しかし、その気になれば○○さんの声を聞き、姿を見、会話をする事が出来ます。
つまり私が四六時中一緒にいるのと同じわけです」
正直言うとよく事態が呑み込めなかったが、どうも妖夢が俺に取り憑いているのと同じらしい、
という事だけはわかった。繋がりっぱなしの電話のようなものだろうか?
……途中の言葉に幾つか不穏な言葉があったのは気にしない。気にしてはいけない。
「幽々子様はいつでも歓迎すると仰っていますが、よく考えれば○○さんが死ぬにはまだ少し早いです。
それに私も付いています。だから元気出してください。
あと、幽々子様から伝言があるようです。……っえ、私も彼氏がほしい?
なんでそれを今言うのですか! 冗談? そうですか。
では、あらためて。○○、もし妖夢を泣かせるような事をしたら肉体とおさらばよ。だそうです。
それでは実際に私も貴方の所へ今から向かいます。まっていてくださいね」
……なんだかよく判らないまま話が進んでしまったが妖夢が来てくれるのは嬉しい。
その後の事については後でゆっくり話し合おう。
そして俺はまた妖夢が来るまで眠ることにした。
……この先に待ち構えていた妖夢との生活の苦労も知らずに。
まあ、妖夢が好きだからいいのだけれども。
最終更新:2011年03月04日 01:07