自分を棚に上げるような物言いだけど、
白黒だって本を返さないじゃないか。
なんでまた僕ばっかこんな目にあうのさ。
最初はまあ、公開ちゅーとかねえ。
確かに自分が恥ずかしいだけで、それを楽しんでたかもしれないけど。
ある時、いつもどおり返却期限の過ぎた本を返しに来るとこあが深くため息をついた。
「まったく、あなたも懲りない人ですね」
「いやあ、ははは・・・」
「あのですね、そりゃあ私だって楽しんでお仕置きをしてますけどね、
だからといって返却期限を守らなくて良いって訳じゃないんですよ」
「うん、ごめん・・・ちょっと甘え過ぎてたかな」
こあは僕を指差して次の罰を宣告した。
「ちょっとお仕置きじゃすまない約束をさせて貰いますね。
次、返却期限を破った場合◯◯さんの体も魂も私の物になって貰いますね」
こあはいつになく真剣な顔持ちでそう言った。
「分かったよ、良い手段じゃないけど、
守れない可能性もあるし、本を借りるのは諦めるよ」
こあが一方的に契約を結んでしまった以上下手に本を借りる方が危ない。
彼女を信用していない訳ではないが、
半ば口約束で結んだ契約がどんな効果を持つか分からないからだ。
「ええ~、でもそれだと◯◯さんが・・・」
「大丈夫、借りない分ちょくちょく読みに来るからさ」
こあは不満そうだったが、自分が一方的に契約を結んだ立場その内容を変える訳にはいかない。
仕方なしに引き下がって、僕を見送ってくれた。
返却期限は一週間、
とはいえカレンダーなんて文明的なものはそれこそ紅魔館くらいにしか無い訳で。
さっさと幻想入りすれば良いのに。
しかし借りた本が無い以上それに追われる事も無くなった。
その分、寂しがりなこあに会いに行かなきゃならないけどね。
本を借りない分荷物が減った。
具体的には外から唯一持込た鞄。
やたら重い割に物が入るでもない品。
無いと無いでスペルカードを持ち歩くのに困る。
そういえばこあは持ってなかったっけか、
戦う事なんて滅多に無いからと言ってたが、
それならそれで回避用の弾無しボムでも持てば良いのに。
一週間経った、
カレンダーが無いとか言った割に偶然それを覚えていた。
ああ、意識すればなんとかなるもんだなあと思いながらいつも通りに紅魔館に遊びに行ったのだった。
しかし、何故か今日は、美鈴が立ちはだかった。
「すいません◯◯さん、今日は貴方を入れないようにって命令されたんです・・・」
「ええ?じゃあ一旦引き下がるよ。
しかしなんでまたそんな事に?」
「詳しくはわからないのですが・・・誰かが奏上したのをお嬢様が聞き届けたようです。
◯◯さんは結構親密なお客さんですし、逆にたいした用事じゃないと思うんですがね」
美鈴も疑問を持ってる様子だったが、
お互いに納得し家に帰る事にした。
そういえば一週間、返却期限、ああ。
まさかと思って家に帰ってすぐに鞄を探る。
あった。
小さな白紙の束が鞄の内ポケットに隠されており、
とってつけたように図書館所有の印が押してあった。
「冗談じゃ済まんよ・・・」
急いで紅魔館に引き返した。
事の顛末を話すと美鈴はあっさりと通してくれた。
信用されているのか、お人好しなのか。
止めようとする咲夜さんに素直に従い、
レミリアの所まで連れて行かれる。
「あの子も中々大胆な事するのね・・・」
レミリアはこあの行動に暫く驚いた後、
契約の都合上どちらかの味方は出来ないと言った。
こちらとしては行く手を阻まれないだけで十分だ。
急いで図書館に向かった。
図書館の扉を開けてすぐの所にこあは居た。
「ああ、案外気づくのが遅かったんですね」
「今回のは冗談じゃ・・・痛っ!」
図書館に入ろうとした瞬間、見えない壁に行く手を阻まれた。
「明日まで結界の外で待ってて下さいね」
ああ、しまった。
彼女たち、他の紅魔館の面子が手を貸さないんじゃあ、
こういう結界の類いは破れない。
「クソっ・・・」
殴ったところでどうにもならないが、気が晴れん。
「大丈夫ですよ、数時間もすれば永遠に一緒に居られますし」
「うるさい・・・!この卑怯者!」
「悪魔ですから、そんなに褒めないで下さいよ」
暫くして、12時の鐘が鳴り、結界は解け、
「おいで」
言葉通りに体は動く。
「今の◯◯さんは私の汚い所も知ってますからね。
だから要らない事は洗い流しましょう?
私の全部なんて知らなくて良いんです。
ただ無邪気に私を愛してくれれば良いんです・・・」
声も出ぬまま、意識を失った。
ーーー嬉しかったんです。
愛される事が、愛する事が。
そんな事とは真逆の種族ですのに、皮肉ですよね?
だからごめんなさい、恋愛の駆け引きなんて知らないんです。
嫌いにならないで、私を好きでいて、
それだけが私の願いです。
そんな会話、
走馬灯のように頭を駆け巡る。
何かは一瞬躊躇しつつその記憶を洗い流した。
誰ともなく、哀しさだけが残った、気がした。
最終更新:2010年08月26日 23:43