八雲紫編
博麗神社
もう何回目になるのか誰も分からない回数になった宴会がまた博麗神社で開かれていた
今回、話題になったのは恋人同士になった○○と紫の件である
○○は競争率がとても高く、大穴扱いだった紫が○○の恋人になるとは誰も思わなかった
「○○と一緒に神社に住みたかったのに」
「○○と一緒に大図書館に行ったら
パチュリーも喜んで本を貸してくれたろうに」
「○○と一緒に飲む紅茶は最高の味になったでしょうに」
「○○と一緒にゴハンを沢山食べたかったのに~~~」
「○○と一緒に仲良くネットゲームが出来ると思ったのに」
「○○と一緒に信仰集めがしたかったんだけどねえ」
○○争奪戦に敗れた者達が次々と愚痴を溢して言ったが
それとは対照に紫はご機嫌だった
「みんなごめんねえ~~永遠の美少女ゆかりん17歳の大勝利よ~~~」
「おいおい紫」
そんな紫に○○は苦笑した
「でも紫、これで勝ったと思わない事ね」
「レミリア、何が言いたいのかしら」
レミリアの言葉の所為で紫は少し不機嫌になっていた
「後1ヶ月くらいで、貴方は冬眠に入る筈よね」
「それがどうかしたのかしら」
「その冬眠の間に私達が○○に何もちょっかいを出さないと思っているのかしら」
「なっ、なんですって~~~~~!!」
紫は少しどころか、かなり不機嫌になってしまった
「そうよえ、○○を神社に連れて来るかもしれないしねえ」
霊夢もレミリアに続き、それから次々と○○争奪戦に敗れた者達の言葉が続いた
「○○は絶対に渡さないわよ!!」
「おい紫、うわっ」
紫は宴会の途中だったが○○を連れてスキマで帰っていった
「ちょっとからかい過ぎたかしら」
レミリアが少し罪悪感を感じながら言った
レミリア達は紫にあんな事を言ったが、紫から○○を奪う気は全くなかった
宴会の席での軽い冗談だったのだが、紫は本気にしてしまったらしい
八雲家 紫の部屋
「全く何なのよアイツ等は、素直に負けを認めなさいよ」
宴会から帰って来た紫はまだ不機嫌だった
「紫様、彼女達も本気で言ったのではないと思いますが」
「そんなの、分るもんですか!」
藍は紫の不機嫌さを何とかしようとしたが、紫は相手にしなかった
「あと1ヶ月くらいで私は冬眠に入ってしまう、何とかしないと」
「紫様、○○さんの事を信じましょう、紫様という恋人がいるんですから他の女になんて‥‥‥」
「どうしたらいいの‥‥どうしたらいいの‥‥どうしたら‥‥‥」
藍の言葉は耳に入らず、紫はブツブツと呟くだけだった
3週間後 永遠亭 診療所
「頼んでいた物は出来たかしら永琳」
永遠亭にやってきた紫は、今までにない真剣な眼差しで永琳に聞いた
「ええ、出来てるわよ、貴方専用の睡眠薬が」
紫は永琳に自分が不眠症になって、このままでは冬眠出来ないと嘘を付いて睡眠薬を作らせた
ある目的の為に
「大妖怪の貴方を眠らせる程の強力な睡眠薬よ、絶対に他の人に飲ませては駄目よ」
「分ってるわよ、これで私は3ヶ月間グッスリ眠れるわね」
睡眠薬を受け取った紫はとても機嫌が良さそうだった、3週間前の不機嫌さが嘘の様に
「じゃあね、ありがとう永琳」
そう言って紫はスキマで帰って行った
「まさか、あのスキマ妖怪が不眠症になるなんてね」
「輝夜、来ていたの」
「ええ、永琳とスキマ妖怪が話し中だったので声をかけれなかったけどね」
輝夜は永琳の傍に近づいて、腰を下ろした
「ねえ永琳、あの睡眠薬を他の人が飲んだらどうなるの?」
大妖怪を3ヶ月間も眠らせる睡眠薬の効果に興味を持った輝夜が永琳に尋ねた
「普通の妖怪が飲んだら10年間は眠ったままになるわ」
「10年間も、じゃあ普通の人間が飲んだら?」
「60年間はグッスリでしょうね」
「ろ、60年間も」
輝夜は予想以上の効果に驚愕した
「じゃあ○○があの睡眠薬を飲んだら、60年間もグッスリ眠ったままになるのね」
「そうね、でも大丈夫よ飲むのは紫なんだから」
「そうよね」
紫の目的はこれが正解であった
八雲家 紫の部屋
(これで○○も一緒に冬眠させれば全てがOKよ)
永琳から受け取った睡眠薬を入りのお茶を目の前にして紫はそう思っていた
普通の人間に自分専用の睡眠薬を飲ませたらどうなるかも知らずに
「紫、用事って何だい」
紫に呼ばれた○○が予想より早くやってきた
「いいお茶を手に入れたから、二人で飲もうと思ってね」
「藍さん達はいいのかい?」
「彼女達には後で飲ませるわ、今は貴方と二人で飲みたいのよ」
そう言って紫は睡眠薬入りのお茶を○○に勧めた
「じゃあ、いただくよ」
「ええ、どうぞ」
そして○○は飲み終わったと同時に深く永い眠りに落ちていった
「○○、お互い来年の春になったら会いましょう」
来年の春になっても○○が目覚めない事を知らない紫は、眠っている○○の耳元でささやいた
4ヶ月後 博麗神社
神社の境内を箒で掃いていた霊夢の元に何時も急に現れる客がまた現れた
「やっほ~霊夢」
「こんにちわ霊夢」
恋人同士である紫と○○だった
「こんにちわ○○、今日はお賽銭でも入れに来てくれたの?」
「会ったら何時もそればっかりだな」
何時もと変わらない霊夢に○○はやれやれという表情だった
「ちょっと霊夢、私は無視ですか!」
来てから霊夢にまるで相手にされない紫が抗議した
「フンだ、○○を60年間も眠らそうとした馬鹿と話す事はありません」
「ひど~~~い!」
永琳は紫に渡す薬を間違えていたのだ、紫に渡したのは普通の睡眠薬で数時間で目が覚める物だった
「永琳が渡す薬を間違えていなかったら、どうなってたと思っているのよ!!」
「だから人間に飲ませたら60年間もグッスリだなんて知らなかったのよ!!」
「知らなかったで済むか!馬鹿!!」
「二度も馬鹿って言った~~~!私も反省してるのに~~~!!」
紫は本当に反省している様だった
「まあまあ霊夢、俺は大丈夫だったんだからもういいよ」
「○○は甘いわよ、こういうのはビシッと言わないと」
○○は霊夢に甘いとは言われたが紫を責める気はなかった
「それより霊夢、お饅頭を持ってきたんだ一緒に食べないか?」
「いいわね、二人で食べましょう」
「ちょっと、三人よ霊夢!」
自分をまたもや無視された紫が再び霊夢に抗議した
「どちら様?」
「永遠の美少女ゆかりん17歳よ!!」
「冗談よ、紫も食べるんでしょ、お茶を入れるから二人共上がってよ」
「うー、霊夢の極悪人」
「あんたが言うな~~~!!」
紫はこんな日常が永遠に続けばいいと願った
しかしこの日常は意外な終わり方する
「紫様、ボーーーッとしてどうしたんですか?」
「えっ」
八雲家 紫の部屋
藍に声をかけられた紫が我に返った
「ら、藍?ここは私の部屋?私は博麗神社に○○と霊夢の三人でいた筈なのに」
「何を言ってるんですか、○○さんはご自分の部屋で眠られてるじゃないですか」
「そうだったわね‥‥私が4ヶ月前、○○に睡眠薬を飲ませたんだっけ」
「そうですよ‥‥おかげで○○さんが目を覚ますのは59年と8ヶ月後です‥‥‥」
あの永琳が薬を間違えて渡すなど決してありえない事である
今までの日常は紫のこうだったらよかったのにと思った妄想の日常だった
○○を眠らせてしまってから紫は今の様な妄想の日常を度々考える様になっていた
そして現実に戻っては悲しい気分を味わっているのであった
「霊夢の所にでも言って来るわ‥‥‥」
「紫様、行かない方が‥‥‥」
藍が止めるのも聞かず、博麗神社に紫は向かった
博麗神社
霊夢は神社の境内を箒で掃いていた
「やっほ~霊夢」
「紫‥‥‥」
スキマでやってきた紫を見た霊夢は急に表情を険しくした
「もうここには来ないでって言ったでしょう!紫!!」
「霊夢‥‥‥」
「○○を60年間も眠らせるなんて!許せないわ!!」
紫は霊夢に拒絶される様になっていた
霊夢だけではない、藍を除く○○を知る人物全員が紫を拒絶する様になっていた
これが今の紫の現実の日常だった
「あんたが冬眠してる間に私達は必死で○○を目覚めさせる方法を考えていたの!!」
「でも駄目だった‥‥○○を目覚めさせる事は出来なかった」
「私達全員が絶望して泣いたわ!でも私達がこれだけ苦しんでいたのに、あんたは寝てたのよ!!」
霊夢は涙を流しながら紫に怒りをぶつけた
「霊夢‥‥私が冬眠しないでいるのは無理なのよ‥‥‥」
「あんたの寝顔を見た時、私達はあんたをコロしてやろうかと思ったわ、でも藍が泣いて止めるからコロさなかったのよ」
「霊夢‥‥‥」
「早く帰れ!今度来たら本当にコロすわよ!!」
「くっ‥‥‥」
紫は目に涙を浮かべながら博麗神社を去っていった
八雲家 紫の部屋
「戻られましたか紫様」
「ええ‥‥‥」
「その様子だと‥‥また拒絶されたみたいですね」
藍は紫にそれだけしか言わなかった
「橙はどうしたの?」
「紫様とは話したくないと言って部屋を出てきません」
「そう‥‥悪いわね‥‥藍」
橙でさえ紫を拒絶する様になっていた
「いいんですよ‥‥これくらい‥‥私は紫様の式神ですから」
藍の表情は誰が見ても、納得している表情ではなかった
「私は何て事をしてしまったの‥‥‥」
今までならここで藍が紫を慰める言葉を口に出していた
しかし藍は何も口に出さなかった
藍ですら紫を拒絶しかけているのだ
3ヶ月後 八雲家 ○○の部屋
「ついに貴方と私の二人になってしまったわね‥‥‥」
眠っている○○に向かって紫は言葉を投げた、言葉は返ってこない事を知りながら
藍も橙も八雲家から出て行った、八雲家にいるのは紫と眠っている○○だけとなっていた
外に出ても、もう誰も紫と口を聞く者はいなかった
以前は拒絶の言葉を紫に向けていたが、今では一言も紫に言葉を向けなくなった
紫の現実の日常は孤独だった
いや現実だけではない、妄想の日常でも登場人物は最初は霊夢を始め沢山登場していたが
今ではついに登場人物は紫と○○だけになっていた
現実で霊夢達全員に言葉すら向けてもらえない様になり、藍と橙にも出て行かれて、妄想の日常に登場させるのをやめたのだ
その方が現実に戻った時に悲しくないからである
「今の現実の世界と妄想の世界、どちらが幸せなのかしら」
紫は答えを出そうと考えていた、この答えが紫の運命を変えるだろう
(現実の世界では○○は眠っている‥‥‥霊夢達には拒絶されているから霊夢達はいないのと同じ」
(妄想の世界では○○は起きていて私を愛してくれている、霊夢達は登場しなくなったけど、もう登場させる気もないわ)
(だって‥‥私を拒絶するなんて許せなくなっちゃったし)
(よし‥‥答えは決まったわ)
2日後
八雲家 ○○の部屋
「○○~~~」
「おいおい、いきなり抱きつくなよ紫」
「だって嬉しいんだもん、また一緒に暮らしていけるんだから」
「またって、恋人同士になってからは一緒に暮らしてたじゃないか」
○○は紫の言葉の意味を理解出来なかった
紫が現実の世界と妄想の世界の境界を弄って入れ替えた事に気付いていないのだから当然だろう
妄想の世界が現実という事になったのだ、だから○○は起きている
「なあ紫、霊夢達は本当に何処に行ったんだろうな」
「さあ分らないわ‥‥でも○○さえ居てくれたらそれでいいわ」
「でも今の幻想郷には俺と紫の二人しかいないんだろう、これからどうするんだ?」
「どうもしないわよ、二人だけで幸せに暮らしていくだけよ」
妄想の世界では霊夢達は何処かに行ってしまった事になっていた、その妄想の世界が現実となったのだから
霊夢達はいなくなった、もう存在すらしていないのだ
「○○、二人だけの幻想郷の歴史が始まるのよ‥‥‥」
「二人だけの‥‥‥」
こうして紫は○○と二人だけの幻想郷で幸せに暮らした、○○以外の全てを失う事を引き換えに
最終更新:2010年11月29日 21:24