魔法の森の雑貨屋に住む○○はトコトン気の長い青年だった。

今日も来店した巫女と魔女にはお茶、人形使いには偶に来るメイドに分けて貰った紅茶を淹れてあげる。
最初は何だかんだ言って掛け合い漫才っぽく喋る姦しい3人だが、最近は何やら剣呑な雰囲気が裏に隠れているような。
しかしそれを感じ取っているのは裏口から嘆息混じりに覗いている店主であり。
番台でのんびり3人の前で茶を啜っている○○には感じてないようだ。
気が長いのか鈍感なのか、区別には難しい所である。

それから暫くして、○○が昼間番台でウツラウツラとする事が多くなった。

客なんて本当に数える程しか来ないこの店だから大して問題ない。
しかし、仕事自体はきっちり真面目にこなす○○の事、店主は大丈夫かと問い質した。
少し頬がこけた○○はエヘヘと笑って「最近、変な夢ばかり見るんですよ」と笑った。


溜息を付きながら夜空を見上げる店主。
○○は寝るのが早いので既に熟睡しているだろう。

「全く家を何だと思ってるんだあの3人は」

三つの弾幕が夜空を掛けて交差している。
恐らく、今夜は運悪く『かち合った』のだろう。

「女性らしくなるのは構わないが全く、はしたない……成長を見守ってきた存在としては不本意だよ」

あんまり見上げていては目に毒だし、見つかったら悲鳴と同時に弾幕をプレゼントされかねない。
店主は早々に寝床へと向かっていった。

その晩は店主がやや寝不足になるほど弾幕戦は続いた。
しかし、○○はぐっすりと朝まで寝こけていたという。

それから三ヶ月後。

○○は3人と一緒に何時も通り茶を飲んでいた。
巫女は昆布をタップリ入れた昆布茶、魔女は渋く淹れた黒豆黒茶、人形使いは通常の三倍レモンを入れたダージリン。
お茶請けはウメボシに酢蛸に酢コンブ、レモンとオレンジのシロップ漬け。

3人は言葉が少なく、○○が話す言葉に相づちを打つか互いをチラリチラリと牽制するように見合っている。


そして、3人が同時にお茶のお代わりを希望した時、それはやって来た。

「「「うっ……!」」」

巫女は、番台の近くで朗らかな笑顔を浮かべる紳士からバケツを奪った。
巫女は緑色の蛙の首を引っこ抜き、がらんどうの動体へ口を開け放つ。
人形使いはブッチャーも真っ青な貫き手でオレンジ色の象の首を刎ね、同じくがらんどうの動体へ口を開け放つ。

そして、唱和。

「「「おえ~えれえれえれえれ(ry」」」



突然の事で呆然と番台に立ち尽くす○○。
奥の部屋で様子を伺っていた店主は、やれやれと溜息を付いた。
いい加減気付け、思い詰めた相手から刺されるか監禁されても知らないぞと。

「しかしまぁ、頼むから痴話喧嘩と弾幕は店外でやってくれよ」

店主の言葉は、空しく天井に吸い込まれた。

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最終更新:2011年03月04日 02:00