「お嬢様、お慕いしております」
「私もだよ、○○」
紅い屋敷の地下の底、いつもの誓約が響く
何でも壊す吸血鬼の私を好きと、愛すると誓った執事
それが私の恋人
私たちが一緒になるまでのエピソードは省略
だって別に、ドラマもロマンチックも何にも無いんだもの
お姉さまに言われて私の世話をしていた男が私を好きになって、私も彼を好きになった。それだけ
誰にも知られてない関係だけど、いいの
もしもバレたら、○○がお姉さまに何を言われるか分からないもの
「ねえ○○。もういいかげんお嬢様じゃなくて、フランって呼んでよ。恋人同士なんだから」
「ご容赦ください。その呼び方に慣れ、万一
レミリア様の前でそう呼んでしまってはまずいのです
そうなればよくて叱責、悪くすればお嬢様のお世話係を外されてしまうかもしれません。それだけは避けたいのです」
「……そうだね」
○○がここに来てくれなくなる
そんなことを思うだけで体に震えが走り、怖くて怖くてしかたなくなってくる
駄目。それだけは駄目。絶対に、それだけは駄目
この人は私のすべて。この人がいなくなったら、私はもう生きていけない
「それでは戻ります、お嬢様。また明日、この時間に」
「……うん」
彼がいなくなった地下は、火が消えたように暗く、冷たく、さみしかった
―――行かないで
その言葉は、必死で飲み込んだ
言っても彼を苦しめるだけ。今の私たちの関係を壊してしまうかもしれない
それでも、その言葉は外に出たいと、私の胸の中で暴れまわっていた
『だったら、全部私のものにしてしまえばいいのに』
……まただ
私の中の『私』
何もかもを壊したがる、私の中の破壊衝動そのもの
今までずっと押さえつけてきたのに、最近では日に何度も私の中に出てくる
強く現れだした時期的に考えて、私が○○を欲しいと思えば思うほど、この『私』は強くなるみたいだ
『何を怖がってるのよ。何もかもを壊して○○を手に入れるの。簡単なことでしょ?』
「やだ! ○○も私も、そんなこと望んでない!」
『強がっちゃって。ここに私を閉じ込めたお姉さまも、ここで働いてる誰もが私のことを厄介者と思ってる
ただ一人、○○を除いてはね』
「………」
『○○だけは私を愛してくれている。私にとって○○は世界一大好きな人。だったら、二人を邪魔するものは排除しなきゃ
全て壊しましょう? そうすればずっと二人きりで生きていけるじゃない。私は、○○が欲しくないの?」
「……なんで」
『えっ?』
「なんで○○だけは壊さないの……? 『私』は、私の破壊衝動じゃないの……?」
『ふざけないでっ!!』
これは全て私が一人で行っている会話
けれどその怒声は、まるで私の魂を殴りつけるような痛みを与えてきた
『『私』は、私と同じように○○を愛してるの! 彼と二人で生きていけるのならこの力だって捨てられる!
ただの吸血鬼の女の子として、○○と生きていきたいの!』
「そんな……『私』は破壊衝動そのものであるはずなのに、自分自身を否定してまでも、○○を求めるの?」
『ええ、うすうす感づいてたんじゃない? 私が○○を愛しただけ『私』が強くなるって
ただ全てを破壊するんじゃなくて、○○と生きていくために破壊したがってるって』
「そっ、か」
生まれて初めて、私は『私』に親近感を抱いた
求めているのは○○ただ一人
方法はともかく、『私』も私と同じように、いや、私以上に○○を欲していた
けれど、それでも―――
「やっぱり、だめ。私は壊さない」
『どうして』
「○○が好きって言ってくれるのは、今の私だから。頑張って破壊衝動――『私』を抑えている私だから」
『無理よ。今は私の自我で抑えていても、本当に『私』を抑えているのは○○だけ
彼がそばにいてくれなくちゃ『私』はどんどん膨れ上がって、いずれは………』
「うん。それでも頑張る。せめて○○が生きていてくれる、数十年の間は」
『………『私』が言うのもおかしいけど……がんばってね』
……本当は、自信なんて無い
今この瞬間にも○○を求めて暴れだしてしまいそうだ
それでも、私はやり遂げて見せる
館のみんなとお姉さま、大好きな○○。そして、同じように○○を愛している、もう一人の『私』のために
やっぱ俺は微病みしか書けんと再認識した
最終更新:2010年12月05日 19:00