「ゲホッ……!」
 心配した彼が、私を抱き止める。
 朦朧とする意識の中。
 彼を心配させないよう、手を添えて応えようとする。
「だい……じょうぶっ……だか……」
 がくん。

 ふらり。

 だけど、私の体は

 ゆうことをきいてくれなくて――









 体が、重い。
 私は……どうなった?
「……お目覚めですか?」
 傍で、聞き覚えのある声が私を気遣う。
 ……この声は……
「……小……悪魔?」
「はい」
 身を起こそうと、体を動かす。だが――
「――っ!ぁぐっ、ゴホッ!ゲホッ!!」
「パチュリー様っ!!」
 体を走る激痛と、喘息が、私の行動を阻む。
 小悪魔が私を支えようとしたものの、私の体はそのまま床に投げ出される。
「……あっ……」
 そして私の意識は、また――


「……以後は絶対安静です。いいですね?」
 永遠亭の薬師に礼を言うと、そのまま小悪魔は部屋を出た。
 ……どうやら、この薬師はまだ、私に用があるらしい。
「聞こえるかしら。……意識は、あるのよね?」
「……ええ」
 とはいうものの、かなり辛い。
 永琳の声も、何処か遠くから聞こえるような……
 そんな感覚に、なってしまっている。
「返事はしなくていいわ。
 今のあなたでは、それさえ酷でしょうから」
 言い返す気力すら沸かず、そのまま話を続けさせる。
「……あなた、以前からの喘息持ちだったみたいね。
 それが原因かは、分からないけれど……

 あなたの今の状態は、ただの体力の低下ではない。
 正直な所、今生きてるのが不思議な位ね」

 え?

「魔力の素養のお陰かしら。
 本当なら、私が診た時点から、
 とっくに助かってはいないはずなのだけど……

 痛み止めを処方する位しか、手立てはなかったわ」
 表情一つ変えずに話を終え、後ろを向いて立ち去ろうとする。
 ……ドアを開けようとする直前、気付いたように振り向いてこう言った。
「限りある、残り少ないその命。後悔はしないようにね」
 カチャン。

 あら。

 ……ごゆっくり。


 先程よりも遠く聞こえるあの女の声の横で、違う声が聞こえた。
 ……彼だ。

 私の横に、椅子を置いて座ると。
 ……何も言わず、手を握る。
「来て……くれたのね」
 力を振り絞り、彼が来た事に応える。
 彼の気遣いの言葉を他所に、今度は私が話し続けた。
「ただ苦しいだけだと思ってた……
 いつも、邪魔なだけだって

 魔法の勉強の時、体力が何時も足りなくて

 実践での詠唱では、いつも咳き込んでしまって失敗して

 あなたと、一緒に居る時も……ずっ、ゴホッ!」

 激しい咳と共にくる、激痛。
 そして、その痛みから……浮かぶように沸く、感覚――


 ああ。

 死ぬんだ

 咳が収まると、彼に身を委ね。
 うずもれるように、喋った。
「……そう、ずっと。
 この持病が嫌だった。
 あなたに会えて、こんなにも幸せになれたのに

 なれたのに

 なれたのにっ……!

 どうして、治ってくれないの!!
 なんで、酷くなるのよっ!!

 私に、別の幸せをくれたあなたと……
 これからも、そう、ずっと……

 ○○と一緒に居る事が幸せなのっ!
 もっともっと、知りたいのよ!!

 あなたと過ごす、この世界を!

 だから、まだ、私はっ」
 かくん。

 血の気が急速に引いてゆき、口が動かなくなる。
 そして、立っている事も出来なくなり――

 私は、○○ の腕の中 に


 沈んだ


 ……目を覚まし、時計を見る。
 明け方だった。
 目を覚ました事に気付くと、○○が心配そうに私を見る。
 ……ずっと、付き添っていてくれたらしい。
 後ろでは司書長も、壁を背もたれに眠っている。

 何も言わず、彼が手を握る。
 ……柔らかい。
 手、そのものはともかく。

 彼の、優しさが。

 ちょっとだけ、得したかも……
 こんなに優しくしてもらえるなら、なんて。

 嬉しいわ……

 幸せすぎて、死んじゃいそう、なんて


 なんて


 いや

 いやだ。

 いやだ
 いや
 いやだ
 いや
 いやだ!!!!!

「いやっ、やっ、やっやっやっ、いやぁぁぁああああ!!!」
 訳も分からず、私は叫ぶ。
 その反動で咳き込むが、私は止まれなかった。
「死にたくない……死にたくないっ……!!
 私は、まだっ……死にたくないっ!!
 やりたい事があるの!
 一緒に居たい人が居るの!!

 当たり前でいい、普通でいい、それ以上は望んでないっ
 これ以上の幸せなんて、いらないから……

 生きて、いたいの……」
 体がとうとうついてゆかず、崩れ落ちるようにベッドに倒れた。

 薄れゆく意識の中。
 様々な思い出が蘇り、消えてゆく。

 ――走馬灯。
 一瞬そんな事を思ったが。
 その光景の中で一つ。
 ……一つ、気になるものが見えた。

「○、○……」
 倒れたままではあったが、その声に気付くと○○が私の顔を覗き込む。
 ……そうだ。
 私が良くても、彼が拒めば……

 自分でもよく分からずに、ふらふらと手を動かしながら。
 どうしても、聞かなければならない事を尋ねる。
「ね、……何が……あっても。私を好きで居てくれる?」
 躊躇する事無く、○○は頷く。
「どん……な姿を、していて……も?どんな事を……してしまって、いても?」
 少し考えるように、瞬きすると。
 彼は再び頷いた。

 ……良かった。
 それなら……構わない、よね。
 例え失敗したとしても、私は……


 貴方の傍に、居るから。
「うれしいわ……○○……」





 パチュリーはその次の日、行方をくらませた。

 人知れず死を望んだ、などと言うものも居たが、
 紅魔館の皆と○○は、それを信じる事は無く。
 墓石は、立てられないままだった。


 そして、同時に。

 ……七色の人形遣いである、アリス・マーガトロイドも。
 姿を、消していた。


 それから、一週間の月日が流れる。



 何も手につかず、家で塞ぎ込んでいた。
 自棄気味になり、酒を取り出すとコップに注ぎ
 一人の少女を思い浮かべる。

 ドアが、開く音がした。

 が、それさえどうでもいい事だった。
 彼の悲しみは、何よりも深いものだったから。
 悲しみで人が殺せるなら。
 多分、とっくに死んでいただろう。
「○○」

 聞きなれない声が、男を呼ぶ。
 ……その妙な違和感に、意識は呼び戻された。
「久しぶりね……と、言っても一週間程だけど。
 ……私が居ないだけで、此処まで荒れなくても」
 慣れた手つきで、男の頭を撫でると、顔を向けさせる。

 金髪の、少女だった。

 誰だ。
「……さぁ?誰かしら」
 そう言った男の言葉にそう答える。
 が、何処か知っている手つき。
 覚えのある、喋り方。

 それは紛れも無く、彼の、知っている――

「不思議そうな顔をしてるわね……?
 でも、大した事はしてないわ」


「死ぬ気になってれば、何だって出来るのよ。
 ……そう、あなたの為ならね」
 そういって、一つの人形を取り出す。
 ……上海人形、だった。

「もう、喘息や貧血に縛られる事も無く……
 これでずっと……ずっと、一緒に居られるわ」
 心から嬉しそうに微笑むと。
 女は、男を抱きしめた。



 彼女が何をしたのかは――
 彼女しか、知らない。

「どんな姿になったとしても、
 例え何をしてでも……ずっとあなたの傍に居るわ。○○……」

 そう言った彼女を遮るモノは、もう



 何一つ、存在しなかった










































(IF)

「本当にこれで良かったのですか?」
「パチェが望んだ事だから。……お願い、咲夜」
 パチュリーは生きる事を諦めた。
 だが、同時に咲夜の存在を思い出し、それを利用しようと考えた。

 愛する男とずっと一緒に居たい。

 それが、パチュリーの願い。
 ○○を拘束し、禁呪と呼ばれる魔法を詠唱し。
 最後に、咲夜の力を使わせる。


 ……こうして、パチュリーと○○は。
 永遠に閉じた時間と空間ので、生き続ける。

 もう、死ぬ事も無いけれど


「それでも、あなたと離れたく、なかった……」

 ○○の手を握り、永遠に眠り続ける。
 二人で過ごす、夢を、見ながら。

 ___

 書いてる最中に思いつきましたが、時間が無いので書き留める程度に。
 肩を寄せながら、一緒に本を読む。
 少し離すと、気付いたようにまた寄せたり、寄せてきたり。
 というシチュエーションは本スレ向けなので使わなかったとか。

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最終更新:2010年08月26日 23:48