「ただいま」
帰ってくると家の中に明かりが一つもついていなかった。
こんなことは今までになく、しっかり者の慧音にしては非常に珍しいことだった。
買い物の荷物を手にしたまま、記憶と手探りを頼りに家の中を進んでいく。
居間の縁側に慧音はいた。
真っ暗な家の中で、そこだけが月の光を浴びて青白い明かりに包まれていた。
「どうした慧音」
声を掛けると慧音がゆっくりと振り向いた。
「今まで何処に行っていた?」
妙に刺々しい声で言い、冷たい目で俺を睨んだ。
いつもより遅く帰ってきたことで心配させてしまったようだ。
夜は妖怪の領分だ。里の中とはいえ完全に安心できるわけではない。
「すまん、遅くなったな。買い物に行ってたんだ」
両手に抱えた荷物を見せる。
「霊夢と話をしていたな」
敵意というよりも、殺意を感じる言い方にぞっとする。
背中を嫌な感じで声が滑り落ちていく。
「通りがかりに挨拶くらいするだろ」
「他にもいろんな女と話をしていたじゃないか」
そう言って、俺が今日話した女性全員の名前を挙げていく。
その一人一人に、先ほど霊夢の名前を呼んだときと同じように殺意をこめて。
「お前は……私のこと好きだよな?」
「あ、あぁ、もちろん」
「じゃぁ……どうして、他の女と楽しそうに話をするんだ?
私が好きなら、他のヤツと話をする必要なんてないじゃないかっ!!」
「ちょ、ちょっと落ち着けよ」
「落ち着いてるさ!!」
「落ち着いてねぇ!」
「私だけを見て欲しいんだ!! 私の事だけを考えて欲しいんだ!!」
泣き顔の慧音が圧しかかってくる。
「私はお前だけがいればいい」
慧音はそのまま俺を押し倒して唇をおしあてた。
口の中に舌を捩じ込み、荒々しく口腔をかき回す。
息苦しくなってもお構いなしにその行為は続けられ、肺の空気が全部搾り出される寸前で唇が離れる。
その瞬間、
「……ッ!!」
右足に激痛。悲鳴を上げることさえ出来ないほどの痛みが走る。
いつの間にか太ももの辺りに剣が生えていた。それを確認してからようやく悲鳴が上がる。
「心配するな。私がきちんと治療してやる。だから我慢しろ」
傷つけた本人はむしろ酷く優しい声で言った。
そうしてもう一振り剣を取り出す。
「や、やめ……ろ」
「大丈夫。お前が私だけを見てくれるようにするだけだ」
二度目も容赦がなかった。
「私たち二人だけの歴史を創ろう」
目の前では満月の光を浴びて異形と化した慧音が優しく微笑んでいた。
「ただいま」
「あぁ、おかえり慧音」
私が横になる○○の隣に座り微笑むと、○○も同じように笑みを返してくれる。
「具合はどうだ?」
こんなことを言うとお前は『俺みたいなやつといてもお前が不幸になる』といって怒るだろう。
でも、私は今すごく幸せだ。
「最近は痛みも引いた。それでも時々なくなった場所が痛むけどな」
誰の邪魔も入ることがなく。
「だ、大丈夫なのか?」
「はは、心配しすぎだ」
お前がどこかに行く心配をすることもなく。
「そ、そうか……」
お前を私一人で世話する。
「それにしても毎日毎日すまん。こんな足でさえなければ……」
「そんなこと気にするな」
「ありがとう」
これほど幸せなことはない。
「そういえば、誰か来たか?」
「? 変なこと聞くな。俺には慧音以外知り合いなんて誰もいないじゃないか」
「そう……だな」
だが、この幸せを邪魔することが出来る妖怪が少なからずいる。
「あぁ、いつまでも私が……私だけがお前の面倒を見てやる」
「女の子の台詞じゃないな。でもありがとう」
「気にするなと言ってるだろう。私はお前が笑ってくれるだけで嬉しい」
「俺もだよ。慧音」
絶対誰にも邪魔はさせない。
絶対に……
うpろだ502
最終更新:2011年01月05日 01:25