私は地味だし、友達も少ないし、好きになってくれる人なんているはず無い
さみしいけど、私だってそのくらいは分かってるよ
私が本当に心を許せるのは、感情のない冷たい機械だけ
河童と人間は盟友だけど、私個人を好きになってくれる人間なんていない
わかってる。わかってるよ。でも、それでも―――

「この人だけは、誰にもわたさない」

ラボのベッドに寝かされてるのは、私の愛した唯一の人
こんな私のところに遊びに来てくれるたった一人の人間
人見知りして逃げてばっかりの私をつかまえて、ラボの機械を見て目を輝かせて、私を友達といってくれた人
でも私は、この人をもう友達として見ることなんてできない
私を見てほしい
私を抱きしめてほしい
私を、愛してほしい

「あはは、あははははは………」

自嘲の笑いが漏れる
私って、なんておこがましいんだろう
妖怪が人間に愛してもらうなんて、そんなのおとぎばなしの中だけなんだから

だから、私はこの人に呪いをかける

全身麻酔で深く眠っている彼の左腕に回転ノコギリを近づける
ごめんね。ごめんね
許してほしいなんて言わない
私を憎んでくれたっていい
でも、忘れないで
唾棄すべき存在としてでも、あなたの中に私を残して
それだけが、私の望みだから


[愛する者を奪いつくす程度の能力]

そんなふうに言われた銃の話を聞いたことがある
左腕に装着して精神力をレーザーに変換する魔法みたいな力の代わりに、愛した人が絶対に死んでいく呪いの銃
その模造品を、彼の無くなった左腕に取り付けた
彼が愛した人は、この銃から自動的に放たれる、愛という精神力を変換したレーザーに貫かれる
それが私特製の呪い
これよりも惨い発明なんてこの世にあるのかな?
そんな枷を彼にはめる私は、きっと幻想郷一の大罪人だ
でも、私はきっと後悔なんてしない
この人が誰かのものになるくらいなら、何もかも壊れてしまえばいいんだ
きっと彼が目を覚ましたとき、愛した人を撃ち抜いたとき、私を憎むんだろう
それでいい
その憎しみが深ければ深いほど、私はこの人の中にいることができるんだから

「……あっ」

うっすらと彼のまぶたが開く
大丈夫かな? 左腕、もう痛くないかな?
彼は顔を横に向け、私の姿を見て、小さく微笑んでくれた
きっと、これが私の見る彼の最後の笑顔なんだろうな
そして、彼がゆっくりと左腕を私に向け―――



バカだよね、私
どうして最初から諦めていたんだろう
たとえ無理だったとしても、どうして彼に気持ちを伝えなかったんだろう
目の前が暗くなる
でも頑張って目をこすりながら耐える
まだ、まだ寝ちゃ駄目
彼の呪いを解くまでは、私はまだ眠れない
胸に大穴が開いた程度じゃんか
この大穴は、私が本当に望んでいた彼の気持ちじゃんか
だから、この激痛も愛おしく思えるんだ
彼が泣きながら私に何か言ってる
ごめんね。私、もう何にも聞こえないんだ
それでも、あなたの呪いだけは絶対に解いてみせるよ
彼に私を殺させちゃったし、切り落とした左腕ももう帰ってはこない
だからこんなことしても贖罪になんてならないってわかってる
それでもこの悪魔の銃だけは残してはおけない
彼も私を愛してくれていた。その気持ちを踏みにじることになっちゃった、この銃だけは

「ごめんね……ひだりて……ごめんね………。でも、わたし…あなたが…………だいすき………」

彼の言葉は聞こえないけど、ただそれだけは伝えたい
何て言ってくれてるのか聞こえないけれど、よくわかってる
この消し飛んだ胸の痛みが、彼の気持ちを雄弁に教えてくれる

「やっ………た」

外れた
悪魔の銃は、愛した人の左腕を放した
それを確認した瞬間、張り詰めていた緊張の糸も切れた
視界が閉ざされる
体が前のめりに倒れる
けれど体に感じたのは冷たい床の感触じゃなく、もっと暖かいもの
彼に抱かれている
右腕一本で、私の体を支えてくれている
……あはは。私の夢、かなっちゃった

私を見てほしい
私を抱きしめてほしい
私を、愛してほしい

みんな、みんな、かなっちゃった
こんなに酷いことをしちゃったのに、私の夢をかなえてくれるなんて
私は、この人を好きになって、ほんとうによかった



もしも、もう一度だけやり直すことができるなら、私から彼に告白しよう
気のきいた言葉なんて、恥ずかしくて言えない
それでも、精一杯彼に気持ちを伝えよう
恋人になれなくっても、友達だっていい
笑って、彼の近くにいられれば、それだけでいい

―――それが、私の最期の思考だった

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最終更新:2011年03月04日 01:30