俺は○○、今はこの幻想郷という世界で孤独に洞窟暮らしをしている。

山歩きの途中で霧に出会い、じっとしていたらいつの間にか別の山にいた。
遠くに熊の化け物がいて驚き、慌てて逃げて行くにつれ、俺は今いる場所が今までいた場所と全く異なる事に気付いた。

途方にくれ、辺りに怯えながらも歩き続けて半日。
俺は音もなく茂みの中に引き込まれた。

「動くな……お前、まさか、外から来たのか!?」

そう言った男は、まるで野伏か擬装した旧日本軍敗残兵のような姿をしていた。
俺が何とか落ち着き、自分の事情を話すと警戒を解き、自分達の住処へと案内してくれた。

「そうか、お前も似たような感じで来たんだな」「俺は廃墟の神社捜索中」「僕、田舎の裏山で散策してただけなんだけどね……」

内部を木組みで補強した洞窟の中、彼らの居住区で暫しお互いの身の内を語り合った。
どうやら、この世界は外界から遮断された世界で、こっち側から出る事は出来ないらしい。
いや、一応手段はあるのだが巫女が男を作り、送還作業をかまけている所為で戻れないとか。

「しかし、なんでこんな場所に住んでいるんです……?」「「「女だよ」」」

見事にハモった。女? 俺が首を傾げると3人は顔色を青ざめさせて体験談を語った。
最初は3人とも里と呼ばれる大きな集落で生活をしていたらしい。だが、生活の途中で出会った女性に一方的にせまられ、里から逃げ出したようだ。

「痴話喧嘩とかそんな甘いレベルじゃないよ」「まともに付き合ってたらこっちまで精神を病むぜ」「生肝怖い」

……どうやら尋常ではないようだ。俺にも里へは近付かないように忠告してくれた。
流石にそこまで恐れられたら俺も里に行く気にはならず、俺は彼らと生活する事にした……。

一ヶ月後、俺は1人になった。
洞窟の斜面を降りて洗濯物を洗い、心地よい陽射しに居眠りをしてしまい数時間眠りこけてしまった。

怒られると思い慌てて帰ると、洞窟の中に彼らの姿は無かった。

争ったような形跡はあるものの、物取りはされてない。
ただ、彼らの姿のみが忽然と消え去っていた……。

「?」

床を俺は慎重に見詰めた。鴉の羽、白銀の毛、不自然な焦げ跡が僅かに残っている。
俺は天を仰いだ。どうやら、彼らは彼らが一番恐れていた存在に見つかり、連れ戻されてしまったのだ。
多分、彼らが此処に戻ってくる事は無いだろう。俺は再び、独り暮らしに戻った。

それから、俺は1人静かに暮らしている。山の幸と、仲間から教えて貰った罠で川魚や小動物を獲って生き存えている。
季節も秋口を迎え、冬を越すための作業に入らないと行けない。
正直不安ではあるが、人里や妖怪達と関わり合いを持つ方が不安というものだ。

今日も疲れ果てた身体を、洞窟の奥にある布団の中に滑り込ませる。
里から持ち込んだという布団はやや草臥れていたが、それでも俺を夜の寒さから守ってくれる。
野外生活に慣れてきたのか、最近この布団の中が温く感じて来た。
俺も一人前になれてきたって事かな。そう言えば、最近食料の減りが早い。
仲間達から聞いた妖精の悪戯か、小動物の仕業だろうか。今度、罠でもしかけてみるか。

疲れの為か、俺の意識は眠りの世界に引き込まれていく。
布団の温もりが一層、強くなったような気がした。



「はぁ、全くあの子は何処に出かけているのかしら……地上に入り浸っているらしいけど」
「なんでも見てて飽きない人間を観察してるそうです。さばいばる・らいふとか何とか」
「さばいばる?」
「ええ、何でも焚き火で食事をしたり寒い洞窟の中で寝たりするのは楽しいって」
「……あの子は。変な人間に興味を持つなって注意しているのに」
「でも、冬越えをするにはあまちゅあみたいです。晩秋辺りになったら連れてきて良いかとの言伝ですがどうします?」
「しょうがないわね。あの子が何かを、特に人間を気に入るなんて珍しいし……不審者だったら叩き出せば良いだけね」


○○は知らない、自分の側で自分の生活を興味深く観察している存在に。
○○は知らない、その存在が自分という人間に強い関心を抱いている事に。
その関心が全く異なる感情に昇華し、場合によっては歪な形へと変化する可能性に。

「うーん、温かいなぁ……zzzzz」
「お休み○○……ムニャ」

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最終更新:2011年03月04日 02:03