朝起きたら飼っていた猫が居なくなった
突然だが飼っていた猫が居なくなった
真っ黒い猫で名前は付けていない
とりあえずあいつがどっかへ行ってしまったのだ
俺とあいつが会ったのは地元のとある山でだ
その山にはマヨヒガ、迷い家とも言う古い伝承がある
山奥に迷い込むと大きい立派な屋敷に辿りつくことがある
その屋敷から何か物を取って帰ると幸せになれる――
という感じの伝承である
自分はマヨヒガの存在を信じきっていた訳ではないが、
あったらいいね 程度ぐらいはマヨヒガの存在を少しは信じていた
そんな事を思い出していたがあいつが見つかる訳でもなく
次はあいつが居なくなった前夜の事を思い出していた
あの黒いのは本当に人懐っこい奴だった
といっても俺にばかり懐いていたが
俺が帰ってくればまるで犬みたいにすぐ駆け寄ったり
休日で俺が家に居ればずっと食入るようにどこにも行かず俺の事を見つめているのだ
まるで犬みたいな猫だった
それでもあいつは彼女も友人も居ない俺にとってはいい心の拠り所だった
いつも毛並みが揃ってて毛なんか落ちているのを見た事ぐらい衛生的で、それでいて部屋も散らかさない
どうやらあいつはメスらしく、もしも人間になったら教養のある綺麗な女性にでもなるんだろうなとも思ったことがある
そして俺はあいつが居なくなる前夜の会話も思い出していた
確か、布団の中であいつと一緒に色々と話していた
「お前は本当に可愛い奴だよ」 「ニャー」
「お前が人間だったら多分俺は結婚を申し込んでただろうな」 「ニャー!」
「といってもお前は猫だしな」 「ニャー…」
「お前は俺の事好きか」 「ニャー!ニャー!」
「といってもお前何言ってか分かんねえしな」 「ニャー……」
「それでも俺はお前が好きだぜ」 「……」
「嫌いになったらいつでも出て行っ…てもいい……んだぜ……zzz……」 「………………」
…やはりあの会話だよな
つまりあいつは俺の嫌いになったってことなんだろうか
まあいきなり飼い主に好き好き言われるあいつの気持ちも分からんわけでもないが
そんなことを思いつつ、あいつが見つからないまま時は過ぎていった
あいつが居なくなってからどのくらい経っただろうか
多分1年は経ったかな
相変わらず俺は彼女も友人も出来ず何の変化も無い独り身の生活をしていた
変化といったら何故か前よりも時間の進みが速くなった気がする それぐらい
しばらく経って夏休暇が始まった
特にやることも無くだらだらと休みを潰していった
後に休暇が終わりが近づきつつもだらだら過ごしていた
しかしある日自分が思い残りだったことがあった
夏の最後だったし一度故郷へ帰ろう
駅から出てタクシーで真っ直ぐ実家へ行く
父と母に挨拶し、色々と話して暇潰しにそのまま家の近くの河童が出るらしい淵へと向かった
夏休み期間中なのに全く人が居なかった というか俺を除いて一人だけだ
緑の帽子に大きいリュックの水色の服を着た風変わりな少女が淵辺にちょこんと座っていた
そういや河童捕獲許可証ってものがあるらしいが淵には勿論河童は居ない
代わりにこの珍しい風変わりな少女を捕獲して賞金をもらえないだろうか
そんな野暮な事を考えながら俺は場所へと向かっていた
着いた先は昔は姥捨て山だったらしい場所
観光客は数人居た 大学生っぽい女性二人とハンチング帽を被った眼鏡の男性一人
小さい頃から思っていたが、ここは本当に何にも無い所だ一応心霊スポットらしい
色々と回っている内にもう夜になっていた
しかし帰ろうという気は出ず、そのまま俺はとある山まで行っていた
山はもう暗く懐中電灯を使ってもよく道が分からなかった
それでも俺は会いたかったんだ あいつ に
相当歩いただろうか自分の歩いていた道さえも分からなくなりモロ遭難していた
遭難するぐらい大きな山ではなかった筈なんだが
体力も無くなりかけ、近くの木に倒れるようにもたれかかった
俺はもうあいつには会えないのだろうか
そんなことを思いながら俺は意識をなく…そうと思ったが突然草木を分け向かってくる人影を見て意識をはっきりさせた
あれはなんだろうか人影だがあれは…
ドガガバササッバキ
何かが俺に突進してきた その衝撃で意識を失いかけて俺の意識はまた朦朧としてきた
影の正体は少女だった 頭に猫耳を生やしていたが
―ごめんねごめんね
―ん?
―一つは突進したこと、もう一つは勝手に居なくなっちゃたこと
―お前黒いの、か?
―うん
―随分と成長したな それどころか猫の枠を超えてるぞ
―それについても話さないとね
―ふむ
―私はね、○○が私の事を好きっていってくれた時、決心したの
―なんよ?
―人間になること
―随分とファンタジーな決心な
―それにはね一度私の住処に帰って妖力を溜める必要があった訳
―へえ
―そこで一通り妖力を溜めてね、藍様っていう凄い方の式になったの
―式?方程式的な?
―そして私は人間になれたの 正確には人間じゃないけど
―ファンタジー
―そしてね、貴方には付けて貰えなかったけど 橙っていう名も授かったの
―チェン?ジャッキー的な?
―ねえ○○
―何
―これで○○との隔たりは無くなったよね?
―恐らく
―じゃあ結こn ―待てそのりくつはおかしい
―なんで…
―といってもお前は猫だs
―また言った…なんで…なんでなんでなんで…
―いやお前ねk
―やだ!聞ききたくない!聞ききたくない!!聞ききたくない!!!
―………えっと…
―ねえ○○この町に伝わる伝承を知ってる?
―ん?
―ある農家の娘が飼い馬と恋仲になり情事まで交わし、馬が殺されても尚想い続け心中した そして夫婦は神になって今も愛慕い続けている…
―…それは………
―馬を愛し慕った娘が居たのよ…一人の男を愛した猫だって居たっていいでしょ……?
―…………
―――ねえ、○○は私の事好き?
ああ 俺はお前が好きだ――――
布団の中で○○と一緒に色々と話していた
今は主人と飼い猫の関係ではない 愛慕う夫婦として
あの馬と娘の夫婦は神になって今も尚愛し続けている
なら私は鬼にも悪魔にもなろうとも○○を離しはしない 絶対に。
最終更新:2017年06月25日 08:27