紅い少女編
迷いの竹林
「ハァ、ハァ、ハァ‥‥‥」
静かな竹林に風の音も虫の鳴き声もない、あるのは二人の紅い少女達の呼吸音だけだった
二人の少女は死ぬ事は無い、どんな傷を負ったとしても肉体は再生される
だが少女達が身に着けている服は違う、少女が傷を負う度に紅く染まる、元の色に戻る事はない
そして呼吸音が消えリボンを付けた少女、藤原妹紅はコロし合いが始まってから体と手足しか動かさなかったが
初めて唇を動かした
「今日はこれくらいにしておくぜ、でもな○○は渡さないぞ」
黒髪の少女、蓬莱山輝夜もコロし合いが始まってから体と手足しか動かさなかったが
妹紅と同じく初めて唇を動かした
「○○は永遠亭の一員よ、部外者の貴方にそんな事を言われる筋合いはないわ」
「一員でも恋人じゃないんだろ、○○は私の恋人にするからな」
「させないわよ!」
何時も同じだった、○○の事で同じ様にコロし合い、同じ様に言葉をぶつけ合う
そして同じ様に決着が付かない、理由はコロし合いでは少女達は不死である故に
言葉のぶつけ合いでは互いの言葉で納得する事はないからである
「じゃあな、次こそ終わらせるぜ」
「ええ、終わらせるわ絶対に」
お互いに今のままでは終わらせる事は出来ない事を知りつつ、何時もと同じ別れの言葉を口に出して帰って行った
永遠亭
「帰ったわよ」
紅く染まった輝夜が不機嫌な顔で永遠亭に戻ってきた、そんな輝夜を皆が迎える
「お帰りなさい姫様」
「また派手にやったウサねえ」
「服の着替えは用意してるけど、その前にお風呂に入ってきなさい輝夜」
鈴仙、てゐ、永琳が順番に輝夜に話しかけていったが○○は何も話さなかった、まるで自分は順番には入っていないみたいに
「どうしたの○○?」
○○が何も話さないので○○の順番を無視して、輝夜が○○に話しかけた
「あ、ああ‥‥ごめん‥‥派手に戦ったみたいで驚いて言葉が出なかったんだ、おかえり輝夜」
不自然な口調で○○は輝夜に答えた、以前の彼からは考えられない事だった
「そう‥‥じゃあ私、お風呂に入ってくるわ」
○○が変だとは思ったが、輝夜はそれだけ言って浴場に向かった
鈴仙とてゐと○○は輝夜の後姿を見ていたが永琳だけが○○を見ていた
永琳の部屋
「話って何です?永琳さん」
○○は永琳に呼ばれ、自身の部屋に招かれていた
「○○さん、もしかして輝夜が怖いの?」
「えっ!」
予想外の永琳の言葉に○○は動揺した、その○○の様子で永琳の言葉は正しいと証明する事になった
「やっぱりね‥‥どういう事か説明して貰えるかしら」
永琳の表情も口調も真剣だった、患者を診察している時ですら、こんな真剣な永琳を○○は見た事がなかった
「この前に見てしまったんですよ、輝夜と妹紅のコロし合いを‥‥途中で逃げましたが‥‥‥
それから二人が怖くなりました」
その言葉だけで永琳は納得した
以前は何回もコロし合いをした輝夜と妹紅だったが1ヶ月前まではケンカ友達みたいな間柄だった
だが○○が現れてから5ヵ月後、つまり1ヶ月前から、また以前の様にコロし合い憎み合う間柄に戻っていた
しかも以前とは比べ物にならない位に壮絶なコロし合いに変わっていた
永琳も2週間前に、そのコロし合いを目撃したが、普通の人間があれを見れば恐怖するであろう事は理解していた
「○○さんが怖がるのは分ります‥‥ですが‥‥‥」
永琳は輝夜が○○の事を愛している事を知っていた、妹紅も同じ気持ちであり、二人が以前の間柄に戻ったのは
同じ男を二人が愛してしまった事が原因である事も知っていた
しかし○○は二人が自分を愛している事にも、以前の間柄に戻った原因が自分にある事にも気付いていなかったのだ
この事を○○に伝えようかと迷った永琳だったが、二人を怖がっている今の○○に伝えても逆効果になると思い伝えなかった
だが輝夜が○○に愛されるのならともかく怖がられるのは避けたかった
そして永琳が一番避けたかったのは
「○○さん、永遠亭から出て行ったりはしないで下さいお願いします」
「出て行ったりはしませんよ‥‥‥」
○○はそう答えたが、その表情と口調には迷いがあった
(へえ、そうなんだ‥‥○○‥‥‥)
○○と永琳の会話を輝夜が盗み聞きしていた事に気付いた者は誰もいなかった
1時間後 輝夜の部屋
「○○が変だとは思っていたけど、私と妹紅を怖がっていたなんて‥‥‥」
○○の変だった原因が分ったが、輝夜は気分は晴れなかった
そして彼女は焦っていた、このままでは○○は何処かに行ってしまうのではないかと
「怖がるのは妹紅だけにしてくれていたら良かったのに‥‥そうだ‥‥良い事を思い付いちゃった‥‥‥」
今の輝夜の表情を○○が見たら、彼は永遠亭を去っただろう
次の日 輝夜の部屋
「どうしたんだい輝夜、急に呼び出して‥‥‥」
○○は自分が彼女に恐怖を懐いている事を悟られずにしようと平静を装いながら話しかけた
既にバレているとも知らずに
「妹紅の事で話があるのよ」
「妹紅の事?」
「妹紅は貴方をコロすつもりよ‥‥‥」
「えっ!いったいどうして!!」
○○は自分は妹紅からは憎まれてはいないと思っていたので、理由が分らなかった
いや、妹紅に恐怖の感情を懐いていない以前であれば輝夜の言葉を信じはしなかったであろう
「理由は私が○○を愛してしまったから‥‥私にとって貴方が一番大切な存在になったからよ」
「か‥‥輝夜‥‥‥」
「私の一番大切な存在を奪いたいのよ妹紅は‥‥‥」
妹紅が自分をコロそうとしている事には驚いたが、輝夜が自分を愛している事にはさらに驚いた
「この1ヶ月、貴方を守る為に妹紅と戦ったけど、一応は妹紅の目的を知っておいて欲しかったの」
この1ヶ月に妹紅は○○の前に現れていない、実際は永遠亭に向かう妹紅を輝夜が邪魔をして
コロし合いを仕掛けたのが原因だったのだが
○○は輝夜が自分を守っていたから妹紅は現れなかったと解釈してしまった
「うっ、うっ‥‥‥」
「どうしたの○○、泣いてるの?」
○○は涙した、妹紅から命を狙われている恐怖からではなかった
「ごめんよ輝夜!俺は輝夜の事が怖くなっていたんだ!!」
「○○‥‥‥」
「輝夜が俺を守る為に紅く染まりながら戦ってくれていたのに‥‥最低な男だよ‥‥俺は」
「いいのよ‥‥あんな紅く染まった私を怖がるのは当然だもの、貴方が私をいくら怖がっても絶対に妹紅から守って見せるわ
だから貴方を愛する事を許して頂戴、私を愛さなくてもいいから」
輝夜も○○と同じく泣いていた、そんな輝夜を○○は強く抱きしめた
「愛してるよ輝夜!愛してるよ輝夜!」
「う、うれしいわ○○‥‥‥」
輝夜の話も涙も偽りだった、1つだけ本当の事があるとすれば○○への愛だけだった
(私には愛情を懐き、妹紅には恐怖を懐く‥‥こんなにうまくいくなんて)
それからしばらくして○○と輝夜は結婚し、それを知った妹紅は幻想郷から姿を消した
最終更新:2011年01月15日 19:24