「ほら、○○起きなさい」
「ん…おはよう咲夜」
ええ、おはようと言いながらカーテンを開ける、朝日が差し込んだ。
咲夜に近づいて軽くキスをする。咲夜と結ばれてからは日課と化していた。
「ふふ…朝食の準備があるから先に行くわね」
もう一度キスをし咲夜は部屋を出て行った。
俺も急いで着替えをし、後を追った。
俺は紅魔館に住み込みで働いているがこれといって決まった仕事は無い、手伝いを頼まれたらそれをやるというものだ。
この日は
パチュリー様に頼まれて図書館の整理をやる。
一通り片付いたところでパチュリー様に声をかけられた。
「○○今日呼んだのは本の整理のためじゃないのよ」
さんざんやらせておいてこの文句には少々脱力してしまった。
が直ぐに身構える。本の整理以外の頼まれごととなると魔法の実験台くらいしか思いつかないからだ。
それで以前痛い目にあった。その時は咲夜さんが駆けつけてくれて事なきを得たがその後が大変だった。
いつも冷静な咲夜が本気で怒りパチュリー様に襲い掛かったからだ。
俺自身は戦闘時の衝撃で気絶していて事の顛末は知らないがお嬢様がなんとか場を収めてくれたらしい。
その件以来俺と咲夜は付き合い始め、めでたく今は結ばれた。もう紅魔館では笑い話になっているが咲夜がこの話で笑ったことはなかった。
「実はね咲夜のことなんだけど…」
とパチュリー様が話し始める。
なんでも最近少し変なところがあるとか。
具体的に聞いてみると俺の使用済みの食器や衣類なんかがそのまま洗い場行きではなく咲夜が個人的に持ち出していることや。
カバンに荷物を入れて旅行支度をしているだの色々聞かされた。
最初は話半分に聞いていたものの少し不安になり咲夜に聞いてみることにした。
しかし探せども探せども咲夜には会えなかった。
いつもは毎日これでもかと言うほど廊下ですれ違ったりお茶を差し入れてくれたりして会ったのだが今日はさっぱりだった。
思えば今までも少しおかしかったのだ。紅魔館は結構広いそしてお互いに動いていればそんなしょっちゅう会うのがおかしいのだ。
そうは思うのだがやはりあんな話を聞かされた後では気になった。
その夜一日の仕事を終えて部屋に戻ると咲夜がいた。
お嬢様は人間で言う夜型で咲夜もそれに合わせて生活しているが、俺と結ばれてからは週に何度かはお休みを貰えるようになったらしく夜は一緒に過ごせるようになった。
しかし今日はその日ではなかったはずだ。不安が膨れ上がる。
「咲夜?今日はお嬢様といる日じゃ…」
そこまで言って咲夜がぽつりとつぶやく。
「○○、私のこと好き?愛してる?」
「え?ああ、それはもちろん。それより咲夜、大丈夫か?」
「本当はねちゃんと時間をかけて話し合ってからやろうと思ったんだけどね、パチュリー様に感づかれちゃったみたいだからもう今夜やってしまうことにしたの…」
ぶつぶつと話しかけてくるが要領を得ない、そもそもこちらの声が届いていないようだった。
不安は確信になった。
「咲夜とりあえずパチュリー様のところへ行こう」
そう言い手を握ろうとしたところで咲夜の姿が消えた。
「お休みなさい、○○」
背後からそう声が聞こえた途端意識が遠のいた。
「ほら、○○起きなさい」
そう声が聞こえて目が覚める。
目を開けて天井を見る、木製。
体を起こして周囲を見る。ログハウスのような壁。暖炉が壁の一角にあった。
紅魔館は石造りだった、ここは明らかに紅魔館ではない。
カーテンを開ける音がしてそちらを見る。いつもと変わらぬ咲夜がいた。
「咲夜!ここはいったいなんだ!」
そう言いながら咲夜に近づく、そして外の光景を見て目を疑った。
地面には青色の草が生え、遠くに目を向ければきらきらと光る森のようなものが見え、山は紫色をしていた。
明らかに幻想郷ではない、地球かどうかも怪しい。
その光景を見て動けずにいると咲夜がキスをしてきた。
「大丈夫?外は寝る前とちょっと違うかも知れないけど安心して?私はなんにも変わってないから」
もう一度キスをされる。
でもここまで大変だったのよ?どれくらい時間が経ったのかも忘れちゃったし。みんな私たちを探すし。でもそれもおしまい、もうあの頃の連中はみんないなくなったから。
その言葉をぼんやり聞いてこの世界が元の世界から遠く離れたこと、もう戻れないことを悟った。
目の前にいる咲夜を見下ろす。外と違って何一つ変わらず笑ってくれる咲夜。
思わず膝を突いて咲夜の体に顔を埋め抱きしめる。
「あら○○ったら甘えん坊ね」
そう言いながら頭を撫でられる。
咲夜だけが元の世界を感じさせてくれた。
最終更新:2010年08月26日 23:53