最近、メイド長がお嬢様の命令で森の雑貨屋から大型テレビとビデオデッキとビデオを買ってきた。
どうやら、以前パチュリーの命令で雑貨屋に行った時に見かけたものを、みんなでお茶会をしてる時に話したのを覚えていたらしい。

河童の協力で機器を直し、電力(暇をしていた竜宮の使いに頼んだ)を確保。
試行錯誤の末にテレビを見れるようになった。ああ、そう言えば3年振りだな。

ビデオテープは洋画が数本だった。
最初に入れてみたのは、ある意味有名な映画である。

とあるベストセラー作家が、雪山で事故に遭い、彼のファンに助けられる。
彼は幸運を喜ぶが、それは悪夢の始まりだったのだ。
彼の書く物語に異常な執着を見せ、狂気を発露させるファンを前に作家は―――。

「詰まらないわね」

隣で映画を観ていた彼女が食べかけのポップコーンを僕の口に押し込みながら呟く。

「あの女は作家が描く物語『のみ』に偏執な愛を抱いていた。
私ならそんな物語を描ける男をこそ愛せるのに」

僕の唾液が付いた自分の指をペロリとなめ取りながら、パチュリーは妖しく笑う。

「紙の物語は1回読めば終わり。でも、貴方という人間は読めば読むほど深く知りたくなるわ」


作家はファンの妄執から逃げる事が出来た。彼女は所詮人間であり、彼女が愛してたのは物語。
だからこそ隙をつけて最後の逆転に繋がった。

しかし、魔女に囚われた僕はどうなるのだろうか。
魔女は僕を逃がす事はなく、僕の心も彼女に犯されたように染まっていく。

「どうしたんですか○○さん、お飲み物をどうぞ」

ワゴンを押してきた小悪魔さんがにこりと笑う。
僕の注意が逸れたのが気にくわないのか、パチェが不満そうに袖を引く。
彼女の笑みはとても綺麗だ。そう、笑みの裏側に思惑が全て隠れてしまうような。

『私は○○さんの一番の味方ですからね』

以前の小悪魔さんの台詞が、僕の脳裏に過ぎる。


誰も観なくなったテレビの画面では、レストランで会食する作家と出版社の担当が話している。
そして、側にやって来たウェイトレスが満面の笑みで作家に言うのだ。

「私、あなたの一番のファンなんです」

そう言えば、元看護婦も劇中でしきりに「一番のファン」と言ってたな。
2人に挟まれ硬直する僕は、スタッフロールを横目に観ながらそんな事を考えていた。

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最終更新:2011年01月15日 23:09