狭く薄暗い穴倉、それが俺の全てだった。
僅かな食料を食いつなぎ、一日のほとんどを眠って過ごす毎日は座敷牢に居た頃と何も変わっていない。
でも、この息がつまりそうな生活の中には自由があった。
もう交わる事を強制されるのも、眠れない彼女の話し相手を務める必要も無いのだ! 
ああ、何て素晴らしいことだろう。 これを得るためには、きっと俺は命ですら差し出す。
それほどまでに俺は自由を求めた。
あとは完全な自由を手に入れるために、彼女の寿命が先に尽きることを祈るしかない。
彼女も俺も同じ人間で、年齢も同じぐらい。 だが、時間を操る彼女は必然的にただの人間より多い時間を生きている。
だから、明らかに寿命は此方に分がある筈。


そう、これは俺と彼女の緩慢な殺し合いだ。


例え食料が尽き、土を食み、泥水を啜ろうとも絶対に生き残ってやる。 たとえこの身が老いはてようとも、必死に生にしがみ付いてやる!


それが総ての目的であり、俺に残った僅かな希望なのだ。






「くそっ!」
私は思わず悪態を吐いた。
一体彼は何処へ消えてしまったのだろう?
私の全てである愛しい愛しい恋人は!
……あの時、彼の体を洗う為に拘束を解いてしまったのが失敗だった。
もう一度彼を私の下へ戻す時、両足を切ってしまおうか。
そうだ、そうしよう。 
私を抱いてくれるあの腕も、私に愛を囁くあの口も、私を愛しんでくれるあの眼差しも、私を愛してくれる体は両足をもいでしまっても、何の問題もない。
例え時間を狂わそうと、空間を歪めてしまおうと私の知った事ではない。


もしこの身が老い果て、力尽きようとも必ず探し出す。 仮に死んでいようとも、この世の理を捻じ曲げてでも生き返らせて見せる!


そう、これは彼への愛そのものだ。


彼を見つけて添い遂げる。 それこそが私が主を捨て、館を飛び出した私の目的であり、生きがいなのだ。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2013年03月28日 14:12