「ごちそうさまでした」
「はい、お粗末様でした」
皆の食器を雲山と分けて流しに運ぶ。
今日は○○が命蓮寺に夕食に来ていたので、張り切って作ってみた。
○○が好むように味付けしたおかげか、ちゃんと「美味い!」って言ってもらえたので良かったわ。
「相変わらずよく食べたね、○○」
「いやぁ、飯が美味くてな。何杯でも食べれるんだよ」
「一輪はお料理が上手ですからね」
皆と談笑している○○。
二ヶ月前に人里で倒れているのを偶然保護して以来、そのまま里に住みついた外来人。
私が密かに想いを寄せてる人でもある。
とは言うものの、自分以外にも彼を慕う者は多い。
彼は人間でも妖怪でも分け隔てなく接してしまうから。
私だけを見てほしい、けど焦ることもないかなと思っている。
彼に一番近いのは、恐らく私だから。
一番最初に仲良くなったのも、一番知っているのも私。
後は○○がどう思ってくれてるのか……、それだけが分からないのよね。
「さて、そろそろ帰るとするかな」
あっ、○○が帰っちゃう。まだあんまり話してないんだけど……。
「今日は泊っていかないのですか?」
「はい、少し仕事が残ってるので」
「では誰かに送らせましょう。そうですね……」
「えっ、そんな1人で大丈夫ですって」
「私達なら平気です。それに夜道は何かと物騒ですし」
私が良いな、とぼんやりしてたらいち早く察したのか姐さんはこっちを見て――
「一輪、雲山、送って差し上げなさい」
指名がかかった。
「悪いな。飯だけじゃなくて、送ってもらえるなんて」
「まったくよ。高くつくんだからね?」
「おぉ、そいつは酷いな。こっちは貧乏人だってのに」
2人で冗談を言いながら――雲山が妙にニヤニヤしてるのが気になるけど――夜道を歩く。
こうしてると、やっぱり悪くない関係と思う。
少なくとも彼は楽しげだし、私は顔が熱い。……暗くて助かったわ。
「じゃ、私は帰るわね」
「おぅ。サンキューな」
楽しい時間なんてあっという間で、彼の家にはすぐ着いてしまった。
せめてもう少し命蓮寺から離れてれば……。
「あ、そうだ、一輪」
「何?」
「あー……、ごめん何でもない」
? 呼び止めておいて言わないなんて、逆に気になるじゃないの!
「そんな大したこと……ってわけじゃないんだけど、まぁ明日話すよ」
「むぅ、それなら良いけど……」
本当は今すぐ聞きたいけど、明日聞けるなら我慢しよう。
「ん。じゃあおやすみ」
「はいはい、おやすみなさい」
「○○が言おうとしたことって何かしらね?」
帰り道に雲山に訊ねてみるけど、雲山にも検討がつかないらしい。
まさか告白とか? だったら良いんだけれど。
「早く明日にならないかなぁ……」
けれど、何かが変わる、そんな気がしてならなかった。
その次の日、私は約束通り○○の家へ来ていた。
「もしかしたら」という期待が胸の中に充満していく。
○○は何を話すんだろう、気になって仕方ない。
「で、話って何よ?」
「あぁ、それなんだけどな……」
ズズ、と緑茶を啜った後○○はゆっくりと話しだした。
「俺、告白されたんだ」
ブフッ! 思わず飲んでいた緑茶を吹き出しそうになった!
て言うか、話ってそれ? 私に対する告白じゃなかったの!?
期待外れの返答に思わずガックリ……。
まぁ今までも何人かに告白されて、その度に振ってたらしいけど。
でも、あれ? 確か振った話って前にも聞いたわよね。
こんなに一々畏まる必要ってないんじゃ――
「里長の孫娘なんだけどな、実は昨日の昼に言われたよ。付き合って欲しいって」
まさか、いや、そんなはずは。
私の脳裏に最も恐れていた事態が浮かぶ――そんな、嘘だよね?
「そ、それで何て返事したの……?」
心が警鐘を鳴らしてる、嫌だ、この先は聞きたくない。
何で聞いてしまうの、だめ、ダメ、駄目――
「あぁ、付き合うことにしたよ」
――え?
「いや、実際話してみると可愛い子でさ」
○○は何を言ってるの?
「気も合うし、良いかなーって」
イイカナーッテ――何が良いの?
○○はどうして照れてるの?
「昨日の夕食の時に言っても良かったんだけど、やっぱり「親友」のお前にまず言いたくてな」
親友、その響きは私の心を深く貫いた。
全身の血の気が引くと同時に、起こった事態を把握し――きれない――た。
「そう。お幸せにね」
「へへ、ありがとよ……っておい一輪?」
○○と雲山が何か言ってる。でも聞こえない。
もう何も聞きたくない。もう何も知りたくない。
バーンと勢いよくドアを開けて、私は空へ飛び立った。
その後は覚えてない。気がついたら命蓮寺に着いていて、自分の部屋に居た。
誰かに声をかけられたような気がする。誰だろう。分からない。
雲山が何か言っている。気を落とすな? そうね。
良いじゃないの、好きな人が幸せになったんだもの。
これで良かったんだ。
けれど、考えと反比例するかのように私の心は黒く染まっていた。
――ドウシテワタシジャナイノ?
自分の「地位」に甘えてたんだ、それがいけなかったんだ。ただ、それだけ。
――アノオンナニナニガワカルノ?
きっとあの子も○○のことを沢山知ってるよね。好きになるくらいだから。
――ソンナオンナヨリワタシノホウガイイ!
○○が選んだ人だから、文句なんてない。
――○○ヲイチバンシッテルノハワタシ
うん、○○のことなら何だって分かる。何が好きなのか、よくする癖は何か、何でも。
――イヤダ、イヤダ。○○ヲワタシタクナイ
嫌、○○が他の子だけしか見なくなるなんて。私だって大好きなのに。
でも諦めなきゃ。
これでも沢山アピールしたんだけどな。ご飯作ってあげたし、話もしたよね。
でも今日でそれもお終い? 何で、どうして? ドウシテ?
簡単、○○は取られちゃったから。違う、取られてなんか……。
――チガクナイ
○○は○○は……、
――ワタサナイ
○○は
――ワ タ シ ダ ケ ノ モ ノ
! 私はそこで気付いた。
そうだ、○○は私だけのもの。
他の誰かになんて渡さない。
一番仲良しなのは私、○○を一番知ってるのも私。そう、誰よりもだれよりもダレヨリモ!
分からないなら、分らせれば良いんだ。誰が一番○○を好きなのか。
○○だってすぐに分かるよね、自分が間違ってることぐらい。
待っててね、○○。すぐ行くから。
何よ雲山? 早まるなですって?
のんびりしてたら○○があの女の所に行っちゃうじゃない。
そんなの許さないわ。だから退いて、雲山。
私の能力には逆らえないでしょ? ……そうよ。聞き分けが良くて助かるわ。
お留守番よろしくね。次会う時には「家族」が増えてるかもしれないから。
命蓮寺を飛び出して一気に○○の家へ向かう。辺りは少し暗くなっていた。
あぁ、早く会って伝えたい!
「○○ー!」
「あ、一輪! さっきは突然どうしたんだよ!? 心配したんだぞ!」
私のことを心配してくれるなんて、なんて優しいんだろう。
「どうしたんだよ! ……おい、一輪?」
私は○○に向けて弾幕を放った。もちろん、威力は抑えて。
それでも○○が気絶するには十分だったみたい。
そして○○が気絶している間に私は雲を集めていた。
浮いている雲をたくさんくっ付けて、分厚く分厚く。
試しに乗ってみたけど強度は問題なし。これなら多少暴れても問題ないだろう。
そのまま○○を乗せて浮上。これで○○は私が居なきゃ降りられない。私と常に2人っきり。
あぁ何て素敵なんだろう、何て心地良いんだろう!
「○○、○○。起きて」
十分高度を上げた所で○○を起こす。
「う、う~ん……。一輪?」
「おはよう○○」
「おはよう、それとここはどこだ?」
「雲の上よ」
「そうか、雲の上か……ってなんだってー!?」
彼が戸惑ってるので簡単に――でも要所はきちんと押さえて――説明してあげた。
「冗談じゃない! 今すぐ降ろしてくれ!」
○○ったら、話を聞いていたのかしら?
「そしたら○○はあの女の所に行ってしまうでしょ? そんなの駄目よ」
語気を強めると○○は分かってくれたみたいで、目の色に怯えが見える。
大丈夫よ、○○。貴方もすぐ分かるから。
「愛してるわ、○○」
服を全て脱ぎ捨てて○○に抱きつく。
「うわっ、おい一輪!!」
そんなに照れるなんて、意外にウブなのね。でも私だって恥ずかしいんだから。
愛してるわ、○○。ずっと愛してる。
だから私のことも沢山愛してね?
ダ レ ヨ リ モ シ ア ワ セ ニ ナ リ マ シ ョ ウ?
最終更新:2011年02月11日 13:46