「じゃあ、行ってくるね。良い子にしてるんだよ?」
そう言ってヤマメが部屋を出て行く。
薄暗い部屋に残されたのは俺一人。
出たくても、出られない。
何故かって? ヤマメが出かける時は糸で腕を拘束されるからさ。
流石は妖怪と言うべきか、何をやってもこの糸は切れなかった。
……一体、どうしてこうなったんだろうか。
俺は彼女が好きで、彼女も俺が好きだった。ただ、それだけだったはずなのに。
ぼんやりと天井を見上げながら、俺は溜息を吐いた。
「○○は只の人間だから、私が守ってあげるわ」
彼女はそう言って俺を閉じ込めた。
愛する人を守るため、と言えば聞こえは良いが、こんなのただの監禁だ!
「だからって……! こんなのやり過ぎだ、出してくれよ!!」
懇願するも、彼女は首を縦に振らなかった。
「だーめ。さっきも言ったでしょ? 外は妖怪しか居ないから、危ないんだよ?」
それにね、とヤマメは頬を紅く染めて俯く。
「○○には私以外要らないでしょ? 私も大好きな○○以外要らないよ」
熱い視線と歪んだ笑顔で見つめられて、俺はここから逃げられない事を悟った。
俺は、そこで回想を止めた。
いくら回想に耽っても現実は変わらない。
そして蜘蛛の巣に引っ掛かった獲物は助からないから。
これからも俺は、俺と言う餌を得たヤマメに一生貪られるだけだ。
そこへガチャリ、と音を立ててドアが開く。彼女が帰ってきたのだ。
「ただいま、○○」
ヤマメは真っすぐ俺へと向かってきた。
「私が居なくて寂しかったでしょ? 私も早く会いたかったよ」
「俺は寂しくなかった」
「またそんなこと言って……。○○は照れ屋さんなんだから」
本心の言葉も彼女には届かない。ヤマメは俺に必要とされてると信じて疑わない。
拒絶しても、良いように理解されて意味を成さない。
いっその事暴れてみようかとも考えた。だが、人間の俺では彼女に敵わない。
あっさりと妖怪の力に押さえ込まれるのがオチだろう。
「ふふ、○○……」
思考の海に沈むのを許さないように、彼女が自分の服を緩めてゆっくりとしな垂れかかってきた。
「前にも言ったけど蜘蛛の巣にかかった獲物がどうなるかは……、○○も知ってるよね」
「……さぁな」
返事をするのも億劫で適当に返す。
だがヤマメは――限りない狂気を含ませ――一層歓喜した。
「じゃあまた教えてあげるわ」
目の前の「蜘蛛」はそう言ってペロリ、と舌舐めずりし――
「マ イ ニ チ マ イ ニ チ ワ カ ル マ デ ズ ー ッ ト ネ」
最終更新:2011年02月11日 15:49