※紫の話の筆休めに書いてたら長くなりました^q^
ちなみにこれも前編です。
私と彼の歩む時間は同じだ。
パチュリー様の蔵書の中に『ゾウの時間、ネズミの時間』という一冊があった。
なんでもゾウという大きな生物とネズミの様に小さい生物は、時間の流れ方が違う様に感じるらしい。
これを生理的時間と呼ぶ。
その通り、人間である私が老婆になっても、吸血鬼であるお嬢様は若い、というか幼い御姿のままなのだろう。
それはお嬢様に限らず館内の者、パチュリー様も美鈴も
小悪魔も、そこらにいる妖精メイド達だってそうだ。
ただ一人、彼を抜いて、だ。
彼、○○が紅魔館にやってきたのは、もう半年も前になるのか。
丁度館と霧の湖の中間辺りになるだろうか、○○が見つかったのは。
第一に発見したのが私なのは、彼の幸運だったろう。
服の損傷は非道いかったが目立った外傷もなく、見つけてしまったからには放置するのも後味が悪いので、一先ず館に連れて帰る事にした。
人外、とは言っても女所帯なもので。
そんな中、彼をどうするかと話し合おうとして。
「彼を紅魔館で飼うわ」
さしずめ、蝙蝠の一声と言いましょうか。
主が言うなら従者に是非も無く、美鈴も同様で、パチュリー様は最初から無関心でした。
外来人は貴重なお嬢様の好物だと言うのに、一体どういった風の吹き回しなものか問うてみると。
「面白そうだからよ」
あっけらかんと、悪戯っ子の顔で言うのだ。
飼うと言うと外面が悪いので、一応客人としての扱いで、こうして私達と○○の生活が始まったのでした。
とは言ってもただ飯を食わせる義理も無く、
「○○は廊下の掃除をお願いね」
「へいへい」
こうして馬車馬の如く働かせてるのですが、これが中々筋がよく、案外良い拾い物だったかもしれない。
移り気な妖精メイドと違い指示はきちんとこなす上、意外とマメであり仕事の内容も満足いくものだった。
○○自身にはとんと無頓着な部分があり、そこがなんというか、無性に世話を焼きたくなるのだ。
今も彼は私が見繕った燕尾服を着て、黙々と掃除をしている。
っと。どうやらお嬢様が御呼びみたいね。
後ろ髪引かれる思いを振り切り、その場を後にした。
「○○はどういった様子かしら?」
「はい、覚えもよくミスもありません。お嬢様の慧眼には頭が下がる思いです」
淡々と事実を伝えると、お嬢様は詰まらなそうにカップを置いた。
はて、一体彼女はどういった応答が要望だったのでしょうか。
疑問に思っていると、さぞ良い事を思いついたと言わんばかりの表情で、
「ねぇ咲夜。私と○○に子供が出来たら、どんな子になると思う?」
突拍子も無い質問をしてきたのだ。
瞬間、頭の中が真っ白になった。
一拍を置いて、じわりと、お嬢様の言葉が次第に意味を形作る。
子供? 誰が、お嬢様が、○○と?
理由も分からない動揺が、まるで奈落に落ちていくかの喪失感が、私を襲った。
上手く回らない頭で、何か返さねばと、何を言ったかは覚えていないが。
「お嬢様に似て聡明なお子が産まれることでしょう」
声が震えなかったのは奇跡に近かったろう。
自分でも分からない、制御出来ない仄暗い感情が胸の奥から溢れてきそうで。
これ以上、ここにいてはいけないと、
「では、別の仕事があるので」
「ちょっと、咲―――」
今の表情を見られたくなくて、返事も聞かぬ内にその場を離れた。
「って、全く……」
あの娘、能力まで使う事ないだろうに。
少し意地悪が過ぎただろうか?
「自覚が無いっってのも厄介ね」
しかしそこは吸血鬼、人並みに心砕く事も無く、すぐに考えを改めた。
それもまた、面白そうだな、と。
最終更新:2011年02月11日 16:37