依存というテーマでひとつ。
辺りに広がるのは向日葵畑。
そして、数々の夏野菜の畑と丁寧に管理された花畑。
俺が住んでいる『太陽の丘』の光景だ。
此処に俺は自分の妻と一緒に住んでいる。
いや、顔馴染みになった位の頃に告白され、ちょっと考えさせて……と言ったら強引に連れてこられた。
当時から俺は彼女の事が好きだった。少し、気持ちを整理したかっただけなのに妻は強硬手段に出てしまったのだ。
手段ややり方が強引だったのには閉口したが、それでも俺は彼女の事が好きだ。
外にある実家が複数の農業を営んでいて、土弄りに抵抗が無かったのもプラスに働いたのだろう。
俺は実家の手伝いでの知識を生かし、丘一帯を農耕している。
妻の能力は花を操る能力だが、野菜の多くは花を咲かせる。
妻の能力はそれらにも影響を与えるのだ。
そんなこんなで生きている俺だが、1つだけ悩みがある。
「お……」
強い風で、被っていた麦わら帽子が飛ばされてしまった。
麦わら帽子は畑を越え、丘の向こう側に立っている木に引っ掛かった。
「やれやれ……ちょっと獲ってきてもらうか」
丘から100mも離れてないが、俺は妻に頼み事をすべく丘の中腹にある家へと向かった。
そう、俺はこの太陽の丘から自分1人だけでは出る事を許されてない。
正確に言えば、妻のテリトリーである丘、または彼女自身からだ。
妻はとても強力な妖怪だったが、精神的には意外過ぎるほど弱かった。
始めて好きになったという俺が離れてしまうと、怖くて不安で夜も眠れないそうだ。
(だから、交際が頻繁になり始めた頃、寝不足で顔色を悪くしてたのかと得心を得たが)
こんな調子なので、告白の際俺が拒絶したかと思い此処に閉じ込めたのだ。
その後の説得で誤解こそ解けたものの、依存は尚強まっている。
俺が丘を出るには、妻を同伴するのが必須条件。
それ以外の例外は認められない。
さっきの麦わら帽子にしても、以前同じ事があった時は大変だった。
丘から十数歩離れて帽子を拾い上げた時、背後に妻が立っていた。
目を見開き、ワナワナと全身を震わせ、呂律の回らない口調で何をしているのかと聞いてくる。
俺は妻のただならぬ雰囲気に必死に弁解したが、妻は猛然と俺を家へ連れ帰りベットに放り込んだ。
そのまま壮絶な勢いで求められた後、一晩中抱き締められ拘束されてしまった。
「私、貴方が居ないと何も手が着かなくなっちゃうの」
妻は、俺に依存仕切っている。
でも、ソレが意外に俺にとって悪い事じゃないと思えてきた。
妻は確かに歪んでは居るし常軌を逸してはいるが、それでも俺にとって好きな女性なのだから。
「おーい、麦わら帽子が飛んでってしまったから取ってきてくれないか」
「ええ、解ったわ。○○、一緒に取りに行きましょう」
妻はたおやかに微笑む。この表情も対応1つ間違えれば『発作』で凄い表情になっていただろう。
彼女が『発作』を起こさず、俺と共に穏やかに暮らせていくなら、丘での軟禁生活も悪くない。
そう、俺は思っている……俺って、変なのだろうか?
最終更新:2011年02月11日 17:38