その日は異常なほどに偶然が続いた。
妖怪の賢者が気まぐれに、外の世界から赤子を神隠しした。
神隠しされた直後にその赤子は一匹の変態妖怪に見つかった。
その妖怪にさらわれるところを、これまた古明地こいしが見つけた。
こいしは何の気もなしにその妖怪を殺した。ところが赤子は殺さなかった。
赤子を家に持ち帰った。そうして姉に「この赤子を育てる」と言い放った。
妹が何を考えてるのか姉にはわからず、同時に妹は天敵なので姉は仕方なく許可した。
異常、異常なほどの偶然の続きである。こういうのをご都合主義やら
奇跡やらと言うのだろう。


そうしてその赤子は○○と名付けられ20年、地底で過ごしてきた。
○○はこいしに育てられたからなのか、少々おかしく育ったが
ペット達や、情が移ったさとりにも世話をやかれたからなのか
こいしほど、トンではいなかった……おかしいところは二つ

1つ こいし同様、いつも笑顔でいた
2つ 育ての親のはずであるこいしに恋し、そして結婚した。

DNAが違うというだけで、育ての親にも恋できるのか、
それともこいしの容姿から、親と認識するより幼馴染と認識したのか、
それとも、“こいし”に育てられたからなのかはわからないが、
少々おかしい男と、カナリおかしい女の夫婦が地霊殿にいた。


「こいし、帰ったよ」
「あっお帰り、○○。仕事はどうだった?」
「楽しいよ、現場仲間と一緒に地底を整えていくっていうのは、
 今日は勇儀さんも遊びにきてね、皆してイイトコみせようとしてた。」
「いいなぁ~私も○○のイイトコ見に行きたいな~。」

    駄目よ、そんな大きいお腹して、あなたにも中の子にも悪いわ。

「あ、さとりさん、ただいま。」
「お帰り○○、今日も元気に働いてきたみたいね、いいことだわ。」
「お姉ちゃん、私は妻としてその働いている姿をねぇ。」
「何言ってるの、出産して、落ち着いてからにしなさい。」
「そうだよ、こいし。もう大きいんだから落ち着こうよ。」
「でも…暇なのよねぇ…ねぇ○○…生まれたらどっか連れてってくれる?」
「連れていくよ、こいしと僕とその子三人とでピクニックだ。」
「あら?私やお空にお燐は行っちゃだめなのかしら?」
「そっそんなつもりでいったわけじゃないですよぅ、皆も家族です。」
「ふふっごめんなさいね。まぁ最初は三人で行って地上の山にでも行って
 くるといいわ、秋には紅葉が綺麗だしね。」
「えぇ、夏とかだったら湖にでも。」
「ぶ~お姉ちゃんとばっかり話していないで私にかまってよ~」
「ハハ、ごめんごめん。」

         ドンッ ドンッ ドンッ ドンッ

「あっ○○!お姉ちゃん!今子供がお腹を踊ってるわ!」
「嘘っ!どれどれ……本当だ…蹴ってる…」
「そうね…すごく元気だわ……これなら元気に生まれてくるでしょう。」
「う~ん、早く生まれてこないかしら、待ち遠しいわ。」
「焦っちゃ駄目だよ、静かにずっと待ってよう?」
「そうよ……それじゃそろそろ私はご飯を作ってこようかしら…」
「あっそれなら僕も手伝います、最近は作ってもらってばっかりだし」
「いいのよ、それよりもこいしの傍にいなさいな」
「私は別にいいわ、この音聞いてるだけでも楽しいし、
 ○○,、お姉ちゃんを手伝ってあげて。」
「こいしもこう言ってることですし、さとりさん。」
「う~ん…それじゃお願いしようかしら、こいし、少し旦那さん借りるわね。」
「こいし、少し借りられてくるよ。」
「うん!行ってらっしゃい。美味しいご飯を作ってきてね。」

        ドンッ ドンッ ドンッ ドンッ ドンッ ドンッ

「ふふ、本当に元気ね…本当に元気…○○も喜んでたわ。」

    ドンッ ドンッ ドンッ ドンッ ドンッ ドンッ ドンッ ドンッ ドンッ

「胎児よ胎児よ何故躍る?母親の心がわかっておそろしいのか…なんてね」

              ドンッ!
               ・
               ・
               ・
               ・

「うっ…うっ…こいし…こいし…」
「○○…赤ちゃんは…赤ちゃんは…?」
「っ!うっぅぅぅっぅぅぅぅぅ」
「○○…落ち着いて…」
「うにゅ~泣かないで○○…」
「無理だよ、さとりさん、お空…だっていきなり流産だなんて…」
「それでもよ、今一番つらいのはこいしのはずだってことあなたにもわかるでしょ?」
「そっそうよ!確かに私たち全員つらいけど…あんたがそんなんだったらこいし様を
 支えるの、できない…じゃない…」
「お燐…うん…そうだね…」
「○…○…?」
「こいし?俺はここにいるよ…?」
「あぁ○○もっとよく顔を見せて…お願いだから…」
「こいし…こいし…!うっぅぅぅ…ごめん、こんな情けないのが夫で」
「○○……こんなに泣いてる…


                               テニイレタ」
「えっ…ごめんこいし…よく聞こえなかったよ…」
「……ううん、なんでもないわ…○○…○○…」
「…お空、お燐、出るわよ」
「はい…さとり様…」
「うにゅ~……はい」

「あぁこいし…こいし…こいし…」
「○○…○○…私、また頑張るわ…頑張って今度こそ…」
「っ!あぁ…うぁぁぁわぁぁぁぁ!」
「○○…○○…○○…」
「次の死者、前へ。」
「………」
「形だけですのでそんなに固くならなくていいですよ。
 ここ数千年で地獄もいっぱいになりましてね、
 わたしがたじろぐほどの罪を犯した者しかいれないことに
 なってしまいまして。普通の人間なら速やかに輪廻の輪へ
 あなたのような妖怪なら現世へ戻すことになりましたから。」
「…そう、それはよかったわ、家で沢山の家族が待ってるの。」
「でも形だけでも裁判をやらなくてはね、自分のしたことを
 思いしらせることもできますし、なによりそれが私の仕事ですので。」
「さて、あなたは生前少し殺しすぎた。」
「とはいえ、妖怪ですし長生きですし、今はそれで地獄行きにはなりません…が」
「結婚してからの1回……その1回はそれまでのどれよりもとても重い。」
「…………」
「何故あのようなことをしたのですか?夫のことは愛していたのでしょう?」
「…愛してい“る”よ」
「…これは失礼、あの後ご主人は見事妖怪になられ、今も存命でしたね。」
「えぇ、隙間妖怪に“頼んで”妖怪にしてもらったわ
 そうよ私は夫を愛している、夫のことで知らないことはないし
 見たことない姿なんてない。彼の全てを手に入れているわ。
 夫が赤ちゃんの頃の喜ばし方も知ってる。抱いて空を飛べば喜んでくれた。
 子供の頃の将来の夢も知ってる、私をお嫁さんにすることですって。
 趣味も知ってる、家族皆でピクニックすること。好きな場所は湖。
 嫌いなことも知ってる、せっかく整えた地底が壊されること。
 今代の巫女は結構過激だからね、あんまり来てほしくないと思ってるわ。
 浮気なんてこともしていないし、彼は身を全部あげると言ってくれたから
 バラさなくても、そのまま全部私の物よ。目玉だって舐めさせてくれる。
 逆に私の全てを彼は知ってるし、私の全てを見てもらっているし、
 私の物も全て彼の物よ、私の脳髄の皺一つだって彼の物。」
「あぁもう結構、それで?私の聞きたいことをまだ聞いていないのですが」
「……知らなかったの、見たことなかったの。手に入れてなかったの。
 赤ちゃんの頃の無意識のもよかったけどそれとは性質が違ったの。」
「?何を言ってるのですか」
「成長すると怪我をしても絶対に笑顔だった、私に育てられたからかな。
 多分“アレ”を逃すと以後ますます私に似てきてしまって、染まって、
 絶対に見れなくなると、知る機会が来なくなると思ったの。手に入れられないと。
 そんなこと絶対嫌だったから、夫の全てが欲しかったからやったの。」
「…あなたは何を欲したのですか?」
「単純よ、私のホシカッタモノは彼の…」
「彼の?」





     ナ イ テ ル オ カ オ ト ソ ノ ナ ミ ダ


「ソレダケガホシカッタノヨ」

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最終更新:2011年02月11日 17:48