「へぇ、一昨日幻想郷に来たんだ」
「はい、今から帰る為に神社へ行く所です……本当にすみません。危ないから護衛までして頂いて」
「いや、いいんだよ。俺もちょいと神社に行く予定があってね。仲間達とも待ち合わせしてるんだ」
「そうですか……」
「あんまり離れては駄目だぞ。魔除け芳香剤は範囲が限られてるからね」
「凄いモノ持っているんですね、誰かから貰ったんですか?」
「いや、妻が作ってくれたものさ。俺も一応、下級の理性なんて0な妖怪程度ならあしらえる様にはなったんだが……彼女は心配性なんだ」
「成る程……あ、もう少しで付きそうですよ。あの人達がお仲間、ですか?」
「ああ、そうだ。彼らと神社に用事があってね……、と、ここでお別れだな。
 君はここを真っ直ぐ行くと参道の階段がある。其所を上がっていけば神社に着くぞ。気をつけてな」
「え、なんで一緒に行かないんですか?」
「私達の場合、妨害が入るからね。主に、妻や恋人、愛人なんてのも居るな」
「……ど、どうして?」
「君には理解しがたいだろうが、私達は帰る為に神社に向かう、彼女達はそれを阻止する為に神社の周りに布陣してる。そう言うことだ」
「お、奥さんを、愛してないんですか。なんで帰ろうとするんです?」
「……まぁ、ポーズかもしれんね。こういう事は何度もあった。私のようにポーズだけのモノもいる。
 本気で帰還を目指すものも、惰性で繰り返しているだけのものも、相方の反応を見たいだけっていう奴もいる」
「…………解らない、理解、出来ないんですが」
「そうだな。俺の例を挙げさせて貰おう。俺の妻は、とある貴人に仕える医師だ。幻想郷に来た俺にもよくしてくれたよ
 色々あった後で、恋人として付き合い、正式な女房になった。少々強引なのと、俺の話を聞かない事がある点を除けば良くできた妻だよ。
 正直、私には勿体ないという位に才色兼備だね。あ、得意な料理は臓物のユッケだ」
「は、はぁ……」
「しかし、なんだなぁ。さっきも言ったような欠点が偶に行き過ぎる事があるんだ。
 それも、少々気にしすぎたり、思い込みが強すぎたり、とかね。
 普段は彼女はそう言うもんだと思ってやり過ごすもんなんだが……偶に、偶に溜まる場合があるんだ。
 妻の忠実な助手も、偶に溜まったものが爆発して暴れたりしていたしな」
「……」
「俺もそういう風になると、こうして現実逃避の1つもしたくなるって事なんだ。
 はは、昼ドラ風にいう所の『実家に帰らせて貰います』だな。
 この郷での出入り口は此処しかない。帰りたがりな外来人が、偶にこうして集まって神社を目指すもんさ。
 そして、丁度妻と喧嘩した俺は集まりに参加し、こうして合流しにきた訳だ」
「普通に、仲直り出来ないんですか?」
「そうするのが一番なんだけどねぇ。妻も俺絡みじゃちょっと融通効かなくなるんだ。
 俺も愛情で付き合い続けるには、偶にこうして反抗でもしてやらんと。
 いや、本当、夫婦円満ってのは意外に大変だ。特に人間じゃない相手だとね」
「え、奥さん、人間じゃないですか!?」
「正確に言えば宇宙人だな……俺も始めて聞いた時は驚いたよ。
 ……さ、そろそろ時間だ。この芳香剤は、俺からのプレゼントだ。階段付近は安全だが、念の為にな。
 何か物音がしたり弾幕が見えても、脇目を振らず神社に行きなさい。
 もたもたしていると巻き込まれるからな!」
「は、はい……でも、本当に、帰るつもりなんですか」
「…………ふふ、だから言っただろ。ポーズだけだってね。何だかんだ言って、俺は妻を愛してるんだ」
「そうですか……では、さようなら。お元気で」

階段の方に去っていく青年の後ろ姿を見て、男は静かに呟いた。

「まぁ、それだけじゃないんだけどな。
 幻想郷の結界は、魔力や妖力を帯びた存在を内側から出に難くする」

そう言えば、あの『事実』を知った時が、最初に妻と喧嘩した時だったなぁと男は想った。

「せーねん、お前さんは普通の人間だから出てるけどな。俺は、もう、普通には出れないんだよ」

男は、20年ほど前に、この郷へ這入り込んだ。
そして、先程の青年から見た男は、まだ二十歳前後の若者だった。

「さて、そろそろ突撃開始かな……俺は出れないけど、本心から出たがってる奴の援護でもしてみますか」

恐らくは、カミさんと強制招集された彼女の弟子も待ち構えてるだろう。
偶には夫婦仲を弾幕で語り合ってみるのも悪くないな、と男は苦笑した。

「ま、俺って弱いから直ぐ負けるだろうけど……カカア天下ってのも嫌いじゃないんだ」

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最終更新:2013年01月28日 21:24