彼女はいつも、そこで待っていた。
あのおかしな木片を近くに置いて眠れば、あの夢はいつでも見ることが出来た。
バイトの後で疲れた時も、退屈な授業を居眠りで済ませた時も。
いつも彼女は、たった一人であの不思議な世界にいた。
雲もなく月もなく星もなく、時間の流れを感じさせないあの場所に。
そして、いつも会う度に花開くような笑顔を見せてくれる。別れる時は決まって、また会えるかと聞いてくる。
きっと自分は、聖のことが好きなのだと思う。
夢だと解っているからこそ、自分は聖が好きなのだ。
画面の向こう側に嫁がいる人の気持ちが、少しだけわかったような気がする。
その晩の夢は、いつもと違っていた。
気が付いたら、聖に膝枕をされていた。
慈しみを込めて、そっと髪を撫でてくれる。
気恥ずかしかったが、親愛の情を拒む気にはなれなかった。
言葉は無く、やがて、目覚める時が近付いて来た。
互いに名残惜しかったが、最後に頬を撫でると同時に立ち上がった。
「また、会えますよね」
はっきりと力強く、頷いた。
目が覚めた時、木片は変わらず枕元にあった。
布団から起き上がる際、首にちくりとした違和感を覚えた。
手で触れてみると――長い、亜麻色の髪の毛が付いていた。
毛先は、綺麗な紫色をしていた。
最終更新:2011年02月11日 21:36