幻想郷開闢秘話



「あら、久し振りじゃない隙間妖怪さん」
「ええ、お久し振りね。貴方が力を本格的に振るえるようになって以来、かしら?」
「別にどうでもいいけどね……ああ、勝手に茶菓子取らないでよ全く」
「これ位良いじゃないの、今の時代、あなた程の法力を使える術者はそうは居ないのに」
「それこそどうでもいいわ……そんなくだらない話をしに来た訳ではないでしょう?」
「まぁね……以前、話した件よ。覚えてるでしょ。貴女の力を、特に結界を操る術に秀でた力。それを借りたいの、理想の世界を作る為に」
「ああ、あれね……別にいいわよ。協力してあげるわ。条件付だけどね」
「意外ね。正直、全然興味無さそうだったのに」
「うん、少しばかり試したい事が出来たのよ。個人的にね」
「人にも妖怪にも興味を抱かない貴女が珍しい事ね……それ程の力を持ちつつも、誰に依る事も無い貴女が」
「あの俗物の男みたいな事を言わないでくれない?」
「俗物……ああ、そう言えば貴女の父上は? 姿が見えないけど」
「独りで先祖代々帰還を願っていた京へ歩いて向かっている頃よ。勝手に期待して独りで騒いでるの。滑稽なのは笑えるけど過ぎたら興ざめよね」
「……やはり突出し過ぎているわ貴女。高位の術者すら手玉に取れるとは。で、そんな貴女が望む条件とは?」
「……男を1人、その世界に連れて行ってみたいわ」
「男?」
「ええ、麓の村から来ている私の世話役。誰しもが私の力を頼りつつ恐れて近寄らない中、何れもせずに近付いて来たの」
「へぇ、珍しい男ね。で、惚れたのその男に?」
「解らないわ。解らないから、それを解明したいのよ。だから、隙間妖怪、貴女の作る世界に彼を連れて行ってみたいの」
「ふーん、それで拒まれたり、貴女を敵視したらどうするのかしら?」
「その時はその時よ。私にとって何ら価値の無い、この世に溢れすぎている有象無象の一部でしか無かったという事」
「いいわ。お受けしましょう。その条件を持って、我が理想の郷を作る事に協力してくださるのね?」
「では、その条件で我が力お貸ししましょう。その理想の郷とやらを囲う防壁と檻を我が霊力で紡ぐ事を」


小高い山の上にある鳥居、その上から巫女は下界を見下ろす。
これから暫くの後、外界から隔絶される予定の大地を。


「正直、あの男を見た時に心の中で渦巻く感情がどのようなものか解らない」
「様々な人間、男と女を見てきた。妖怪、人にあらざるモノ達も。全てが私にとって平等にどうでもよい存在だった」
「でも、あの頼りない男、あの鬼火にすら怯える男が、何故邪気や疚しさを秘めずに私に近付いたのか。それを知りたい」
「○○、貴方は一体私にとっての何かしら……」



「○○、此処が貴方の終の住処。どう、幻滅したかしら私に? 這い蹲って助けてと言ったら外の世界に戻して上げるわよ」


「どうして、貴方はそうなの、私の気持ちを、どうしてかき乱すの!! 解らないわ、解らないわ……どうして、どうして!?」


「○○、ねぇ、此処に居てよ。貴方が私の事を本当にそう思うなら……此処に居て!!」


「○○、次の巫女の選定が終わったわ。私の役目は終わったの……」


「ずっと、ずっと側に居て、お願い。お願いだから……」




博麗神社 地下層、最上部


地下に続く通路、一番最初に出会う封印された扉の向こう側にある大きな部屋。
もう長いこと人の出入りがない部屋の中央に、寄り添うように横たわる2体の髑髏がある。

その骸に、独りの女が話しかけていた。

「貴女は答えが出せたのかしら?」

返事はない。もはや魂や残留思念すらもないただの屍。
ただ、二人の手はしっかりと握り締め合っていた。

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最終更新:2011年03月04日 02:16