自分から不幸になりたがる人なんて、いない
だから私のそばに好きこのんで近づく人なんていない
厄神の近くには誰もいない
これまでも、これからもずっとそうだった
そのはずだった

「……誰?」
「サンタクロースさ」
「○○ね。おかえりなさい……って、その高そうなお酒どうしたの?」
「今日の仕事先の紅魔館にあった」
「で、持って来ちゃったのね」
「失敬な。俺はこんなシャンパン気にも留めなかったが、こいつが俺にどうしても飲んでほしいと囁いてたんでね」
「はいはい」

半年前から私の家にはこんな居候が住みつきだした
名前は○○、外の世界から来た異邦人
馬鹿で考え無しで無鉄砲の機械修理工
けれど、私が今まで出会った人間のなかで、一番優しかった人
知り合って暫くして、俺は雛みたいな鬱々とした奴が嫌いだ、って言われたときはショックだった
でも、その後すぐに、こう付け加えてくれた

[だから、俺が無理矢理にでも笑わせてやる]

それから、私はどんどん彼に惹かれていった
私の厄でなんども危険な目にもあってきたのに、それをおくびにも出さずにいてくれた○○
嬉しかった
こんな私を、一人の女の子として見てくれた人は、彼が初めてだったから
そんな彼が、わたしたちの前にグラスを置いて頂戴してきたお酒を注ぐ

「シャンパンはひとりでのむもんじゃないぜ」
「……一杯だけよ。私お酒弱いんだから」
「酔われちゃ困るな。この後はまた俺の小粋なトークタイムなのに」

本当は、彼の話を聞くのは好き。大好き
内容が面白いかつまらないかじゃない
私とお話してくれる人がいる、そのことがただただ嬉しい
それでも、私はこう言う

「聞きたくないわ。どうせつまらない話でしょうし」

彼の前では、絶対に笑顔を見せない
それが、本当に辛いことだったとしても


○○は、私を笑わせてくれると言ってくれた
それじゃあ、私が笑えるようになったらどうするの?
何度もそれを聞こうとして、挫折してきた
聞くのが怖い
もしもその後、あなたがどこかに行ってしまったらと思うと、怖くて震えが止まらない
だから私は笑わない
私が笑わない限り、○○と一緒に生きていけるのなら、私は絶対に笑わない

「あれ、どうした? 涙出てるぜ」
「えっ?」

やっぱり
笑った、その後のことを考えただけで、枯れたはずの涙があふれてくる
この人がいなければ、わたしはもう駄目だ
できるのなら彼の胸に飛び込んで、にっこりと微笑みかけたい
そうすれば彼はきっと、しっかりと抱きしめてくれるはず
そのかわり、彼自身がここにいる理由は消えてなくなってしまうんだ
だから私は泣き顔のまま、彼にすがりつく
優しい彼は、私を羽のようにふわりと抱きしめてくれるから

「泣くなよ。人は悲しいから泣くんじゃない、涙を流すから悲しくなるんだ」
「……以前聞いたわ。それ、誰かの受け売りなんでしょ」
「俺が尊敬してる漢の言葉さぁ」
「軽い人。私は真面目に話してるのに」
「まじめになっちゃだめだ。そのほうがうまくいくんだ」

軽い飄々とした言い方で、涙があふれそうになるまぶたに口付けてくる○○
本当に、彼は愛おしい人
彼はきっと、私という厄が求めたせいで吸い寄せられてしまった、不幸な人なんだろう
彼はきっと、私がそばにいる限り、不幸が続くのだろう
それでも、わたしは彼を離さない
絶対に、笑顔はみせてあげない

もしも月日が流れて、あなたが死の床に着くことがあったら、その時初めて私はあなたに笑顔を見せよう
きっと涙でくしゃくしゃになったみっともない笑顔だろうけれども、それでも笑ってみせる
だから、お願い
ここにいて ずっといっしょにいて 私を、もうひとりぼっちにしないで

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最終更新:2011年03月04日 02:26