※前提条件
○○が幻想郷に迷い込んで三週間程たった後、竹林に迷い込んで藤原妹紅に勘違いされて襲い掛かられ。
其処をちょうど妹紅と決闘しようとしていた輝夜に助けられ永遠亭に拾われたという事を承諾した上でお読みください。
永遠亭 蓬莱山輝夜の部屋
永遠亭の姫であり、不老不死の蓬莱人でもある蓬莱山輝夜と、その輝夜に拾われ客分として迎えられている○○の二人が其処にいた。
姫の部屋に二人きり、普通ならば甘い空間になっていそうな物だが、二人の様子は密会しているという物ではなく。
○○に背を向けて空を見ている輝夜に対して、○○が土下座するようにして話しかけているという状態であった。
これは浮気をしたとかで土下座しているわけでもなく、ならば何故そのような光景になっているのかといえば……
「…つまり、○○はこの永遠亭から出て行きたい、そういうのね?」
「はい、もうここに来て二ヶ月も過ぎましたし、そろそろ里に帰らないと……」
そう、○○が永遠亭の主である輝夜に『永遠亭を離れ里へと出て行く』許可を貰おうとしているためであった。
普通ならばそんな事、一々許可を貰わずに出て行けばいいと思うのだが、この二人の場合はある事情があったのだ。
「へぇ… 妹紅から護ってあげた時、貴方に条件を科したわよね? 其れを忘れたのかしら?」
「…… 『死にたくなければ私の言う事に一つだけ従いなさい』ですね」
「えぇ、其れで私は貴方にこの『永遠亭に住み私の従者となれ』 と、いったはずよね?
それに、命を救った私や、貴方を暖かく迎え入れた永琳達に恩義に忘れたのかしら?」
その事情とは先ほどの言葉にあるとおり、かつて妹紅に襲われた○○が輝夜に助けてもらう代償、所謂『命の代償』と言う形での契約であった。
後に○○を襲ってきた人物、藤原妹紅と竹林で出会い、会話の結果あの事件は勘違いによる物だったという事は判明した物の、契約は契約として履行する事になっていた。
だが、元々○○は外の世界の人間、さらに幻想郷に迷い込んできてからは人里で保護されていた事実があり。
さらに当人の性格が人里の守護者である上白沢慧音にすら「いまどき珍しい程に義理堅い人間」と言われるほどで。
その為か、永遠亭の住人達、月の兎である鈴仙・優曇華院・イナバや兎妖怪である因幡てゐ、さらに月の頭脳といわれる八意永琳達と親しくなってもなお。
自分を拾ってくれた人達への恩義を忘れず、里への帰郷心を日に日に募らせていき、ついに我慢しきれず輝夜に里への帰郷の許可を貰おうと今回の行動にでたのだ。
「…命救われた事や、暖かく迎え入れてくれた事を忘れるつもりはありません。
ですが、右も左も解らなかった頃の私を迎え入れ、仕事さえも与えてくれた里の人達の場所に帰りたいのです、其れに…… いえ、何でもありません
許される事ではないかも知れませんが、どうか、どうかお願いします」
輝夜の言葉に締め付けられるような錯覚を覚えながらも、○○はある『事』を思い出して奮い立つかのように今一度輝夜に向かって土下座しつつ願い出る。
そんな○○の方を振り向いた輝夜の表情には、明らかに不満げな色が濃くでていた。
「そんなに寺子屋の仕事に、いえ、あの女、上白沢慧音の場所に、帰りたいのかしら?」
「!?!?」
どこか憎悪さえも含んでいそうな輝夜のその言葉に、○○は驚愕し、思わず顔を上げ、輝夜の顔を凝視していた。
そして○○の表情は言葉を発するよりも雄弁にかたっていた、そう、『何故里に帰りたい本当の理由を知っているのか』 と。
「どうしてっていいたそうだけど、そんなの簡単よ、妹紅と話してるときの貴方、毎回あの女の事を聞いてたじゃない、わからない方がおかしいわよ」
そういうと輝夜は○○へとゆっくりと歩み寄り、その顔を○○の顔とくっつく寸前まで近づけると、甘く、そして妖艶にささやき始める。
「でも、あの女は貴方の事をなんとも思ってない、それはあの女の親友である妹紅を貴方に紹介していなかった事が証明しているわ。
永遠亭にとどまり、私のモノになれば貴方には永遠の快楽と幸せを与えてあげる、それでも貴方は里に帰るの? 貴方をなんとも思ってない女の場所に?」
輝夜の言葉に○○は激しく動揺し、その動揺が汗となって表面に溢れ始める。
そう、輝夜の言葉には一切の嘘は無かった、確かに慧音は○○に妹紅を紹介しておらず、其れが遠因となって○○は妹紅に殺されかけたと言う事実があった。
さらに妹紅との会話から慧音と妹紅は親友と呼び合えるほどの仲である事も知り、その時に○○は自分が慧音にとって他人でしかなかったと言う思いを抱いた事もあった。
「…それでも、俺は、里に帰りたいと思います」
だが、それでもなお○○は慧音に抱いていた『恋心』に嘘をつくことはできず、輝夜の甘美なる誘惑を前にしてもなお里に帰る意思を強く固め、輝夜にそうかえす。
「…そう、わかったわ」
その反応から○○の意思を曲げる事が今は出来ないと悟った輝夜は一瞬だけ○○の頬をなでるとそっと離れ、つい先ほどまで自分が居た場所へと戻っていく。
何とか思いが通じたと感じた○○は深く息を吐き、最後に謝罪と感謝の言葉を口にしようとしたが、それより早く紡がれた輝夜の言葉に止められる事となる。
「でも、タダで返すと言うのも流石に面白くないから一つ賭けをしましょう」
「賭け…ですか?」
「えぇ、とても単純な賭け、今から三時間後、ちょうど七時位かしらね、それまでに貴方はこの永遠亭から徒歩で外に出なければならない、それだけよ」
「賭けと言うからには代償があるはずですが?」
「そうね、貴方が負けた場合の代償は一つ、今度こそ完全に『ワタシノモノ』になってもらうだけよ」
輝夜の言葉に○○は永遠亭にきてからの日々を思い出し、輝夜の部屋から永遠亭の外までと、さらに其処から竹林の出口までの時間を計算し。
永遠亭にはなんでも侵入者対策とやらで幻術がかかっており無限の廊下や幻惑の間等がある事を加味しても、対策を知っている自分なら十分に間に合うと判断した、が。
「…それは輝夜様の能力による阻害が一切なし、と言う事でよろしいのでしょうか?」
そう、たとえ対策を知っていたとしても『永遠と須臾を操る』輝夜の前では無駄に過ぎないと言うことを思い出し、そんな言葉を口に出していた。
「えぇ、私だけじゃないわ、イナバ達にも手出しはさせないし永琳にも何もさせない、かなりいい条件でしょう?」
「……… わかりました、その勝負お受けします」
そういいながら微笑む蓬莱山輝夜にどこか薄ら寒い物を感じながらも、○○は十分な勝機があると思いその勝負を承諾する旨を伝えた。
「そう、なら永琳、居るんでしょう? イナバを、えぇ、地上の方じゃないわ、月のほうのイナバに○○の荷物を持ってこさせて、急いで頂戴」
「あの、どうして鈴仙を…?」
○○が勝負を承諾した事に気を良くした様に頷いた輝夜は即座に声をあげると近くに控えていたらしい永琳に言葉をかけると鈴仙を呼んでくるように伝える。
そんな輝夜の行動に驚きながらも、何故わざわざ『鈴仙』を指定して自分の荷物を持ってこさせるのかと輝夜に問う。
「貴方に疑念を抱かせない為よ、生真面目なあのイナバなら荷物に何か仕込むなんてできるはずも無いし、勝負は勝負だから綺麗に行いたいでしょう?」
その輝夜の言葉に○○は感謝の念を示すように頭を下げると、輝夜は気にしなくていいと言う様に手を横に振り鈴仙が来るのを待つ。
「……荷物を持ってきました」
それからしばらくして、顔を伏せたままの鈴仙が○○の荷物を持ってくると、そのまま○○に渡そうとする。
「ご苦労様イナバ、それじゃあ○○、その貴方の荷物を受け取ったらスタートよ」
輝夜の言葉に頷くと○○は直ぐにでも鈴仙から荷物を受け取ろうとしたが、鈴仙の体が僅かに震え、その目から涙が零れている事を見て取ると、鈴仙へと優しく声をかける。
「…鈴仙さん、今まで本当にお世話になりました、でも、今生の別れと言うわけではありませんし、里で出会うこともあると思います。
ですから、お願いです、どうか泣かないで… そして、顔を上げてください」
その○○の言葉に、未だに涙を零しながらも顔を上げた鈴仙は○○をじっと見つめるようにしながら、荷物を○○に強く押し付けるようして渡す。
「鈴仙さん、また出会う日までお元気で、輝夜様も、今まで本当にお世話になりました、永琳様達によろしく伝えて置いてください、では」
鈴仙から荷物を受け取ると、○○は鈴仙と輝夜に別れの挨拶を簡単に済ませ、勝負は既に始まっていると部屋から即座に出て行き、永遠亭の出口へと歩みだした。
それから約一時間後 永遠亭 蓬莱山輝夜の部屋
「そろそろ、○○は永遠亭から出て行ってるはずの時間ね」
じっと外を眺めていた輝夜が、ふと思い出したかのように近くに居る鈴仙へと話しかける。
「…そうですね姫様、本来ならもう出て行ってるはずですね」
その言葉に、まるで泣いた形跡など無い、いや、泣いて等無かったかのような表情の鈴仙が微笑みながらこたえる。
「あら? と言うことはやっぱりやったのね、イケナイ子ね、邪魔はしないっていった私の立場がないじゃない」
「いえいえ、私はちゃんと○○さんの邪魔をしないようにしてましたよ、あくまで○○さんが自分から望んだだけですから」
言葉だけ見ればルール違反をした鈴仙を輝夜がたしなめているかのようだが、二人ともその顔に微笑を浮かべている光景を見てはそう思う人など誰も居ないだろう。
「そうね、確かに私達は○○に何にもしてない、確かにイナバの言うとおり○○が自分からやった事でしかないものね」
「はい、○○さんは私が月の兎である事を知っていて、私に顔を上げて○○さんを『視て』欲しいと望みましたから、だから私はそれに従っただけですよ」
「えぇ、『偶々』永琳の薬で貴方の瞳からあふれる狂気が数倍になっている時に望んだだけですものね」
「はい、偶々ですよ全て、そう、今日はてゐが『偶々』竹林の方に出ていて○○さんに幸運の後押しがないのも」
「あら、何を言ってるのかしらイナバ、幸運の後押しなんて必要ないでしょう? だってこの部屋から出口まで直進すればいいだけですもの」
「あ、そうでしたね、私達は何の手出しもしてませんから、変な風に曲がったりしなければ普通なら直ぐに出れますしね」
「えぇ、○○が永遠亭から出たくないなら話は別だけどね…… ウフフフフ……」
「確かにそうですね、あれで出れないのは出る意思が無い人だけですからね クスクス………」
一見すれば外見相応の少女の笑み、だが、その中に限りない狂気を孕んだ二人の少女の笑い声が部屋に響き渡り続けた………
そして、勝負開始から三時間が経過すると、輝夜も鈴仙も急に笑みを止め、ゆっくりと襖へと歩み寄り、盛大に開き、廊下へと出る。
その後、二人して何かを待ち構えるかのようにじっと立ち続けていると、輝夜達のちょうど目の前のふすまが開き、○○が其処から輝夜達の正面へとでてきたのであった。
「あら、○○じゃない、どうしたのかしら? もうとっくに勝負の時間は過ぎてるわよ?」
二人の姿を見て驚愕の余り硬直してしまった○○の姿をみて、怪しい笑みを浮かべながら輝夜は○○へとそう語りかける。
「ど、どういうことなんだ!! 妨害は一切しないと言ったじゃないか!!」
そんな輝夜の姿を見て激昂した○○は輝夜に詰め寄りながらそう叫んだ。
激昂のあまり敬語―○○は輝夜達が目上の相手だと言う事で使っていたらしい―を使わなくなった○○の姿を見て軽く興奮しながらもその問いにゆっくりと答え始める。
「えぇ、私も、イナバも何も妨害はしていない、そう、イナバの狂気の瞳を自分から覗き込んだのは○○、貴方よ」
「俺が、自分で?」
「えぇ、イナバが顔を伏せていたのは貴方との別れが悲しいからだけじゃないわ、貴方を見る事自体が妨害行為になる事を理解していたから。
そんなイナバの思いを無視するように顔を上げさせ、自分を見させたのは紛れもなく○○、あなた自身よ」
その輝夜の言葉に、自分から『罠』にかかってしまったと理解した○○は呆然とし、その場へと崩れ落ちるようにして座り込んでしまう。
「ウフフ…… さて、永遠亭から出ていない以上賭けは私の勝ちね、イナバ、永琳にあの薬を持ってくるように伝えてちょうだい」
「わかりました姫様、○○さん、改めて永遠亭にようこそ、これからもずっと、ずっと一緒に居ましょうね」
「は、ハハ、ハハハハハハハ………」
あっさりとした輝夜と鈴仙の反応に、自分は完全に『嵌められた』のだと理解した○○はただ、壊れたかのように笑うしかなかった。
「あら? そんなに永遠を歩める事が嬉しいのかしら? だとしたら妹紅も喜ぶわね、あの子もこの日が来るのをずっと待ち望んでいたんだもの……」
そんな○○の反応に、心の底からの喜びの、そしてどこか女郎蜘蛛の様な笑みを浮かべながら、輝夜はゆっくりと○○へと口付けをしたのであった。
どこか中途半端だけどこれで終わりです、台詞オンリーや日記風でやってたのでSSっぽくヤンデレを表記できないか試してみたかった、後悔はしていない
ただしヤンデレなのか? と言われるとYESとハッキリ答えられない程度なのが正直我ながら『未熟者がぁ!!』な部分だと自覚していますorz
最終更新:2023年11月10日 08:16