俺、美鈴と屋台で飲んでいたんだけど、しばらく談笑していたら美鈴がウィンナーを取り出したんだ。
なんでも「私特性なんです。とても美味しいんですよー。」とのこと。
それなら是非いただこうと、そのウィンナーを齧ったんだけど、塩辛いというかな、どうにも味が濃い。あまり美味しいとは言い難かった。
それでも折角美鈴が作ってきてくれたんだからと、ちょっと表情を歪ませつつ「美味しいよ」とコメント。
まぁ流石に隠し通すのには無理があったのか「これ単体だと塩辛いだけでしょう?」とクスッと笑われてしまった。
流石に少し恥ずかしかったので俯いていたら「でも、お酒のツマミとしてなら丁度良い辛さだと思いませんか?」と言われた。
半信半疑ながらもう一度齧らせてもらい、日本酒で流し込んでみたのだけど……。
成る程これなら大丈夫……というよりも寧ろ個性的ながら癖になりそうな味だった。
「美味しいよ、美鈴。」と今度は心から感謝の言葉を発すると、美鈴も嬉しそうに微笑んでくれた。
しかしちょっと食べた事が無い味で、しかも手作りだということだから、材料を尋ねてみた。
するとちょっと可笑しいような顔をして「いやですね、○○さん。ウィンナーの材料といったら豚に決まっているじゃないですか。」と駄目だしされた。
そういえば確かにウィンナーは豚肉で作るものだった。しかしこれはどう考えても豚肉には思えないのだけど……。
「いえいえ、確かに豚ですよ。特殊な豚なんですけど、まぁ人間の方は普段口にはされないでしょうから、ご存じないかと。」
なるほど種族の違いがあるとそんなこともあるものだな。と納得した。
「最近あまりにも行動が目に余ったので、ちょっと間引いたんですよ。
 いやいや、発情期だったんでしょうかね? ぶひぶひと五月蝿かったんですよ……あの雌豚。」
とのことだった。いやはやまったく、動物の発情期にも困ったものだ。

その後もとりとめないことを話し合いながら、時間を潰していった。
帰り際にふと思い返して「またあのウィンナー食べさせてくれるかな?」と言ってみた。
さっそく癖になってしまったようである。肯定の意が返ってくると思って疑っていなかったのだけど、返答は意外な事に否。
「……あんな豚出てこないに越した事は無いんですよ? ○○さん。」と、睨まれてしまった。
流石に長きを生きた妖怪だ、その視線から感じる重圧感にすっかり怯んでしまった。するとハッと気付いたように美鈴が
「す、すみません、恐がらせちゃいましたか? でもそれほど迷惑なんですよ、あの豚が出てくるのは!」と、アセアセと謝罪してきた。
そこまで恐縮されるとこちらが困る。いやいや、美鈴が悪いんじゃないよ、俺がちょっとぶしつけ過ぎたんだ。とこちらも謝罪。
それでもやはりもう一度食べたかったなー、と惜しんでいると。
「……そうですね、でも万が一また豚が出てくるようでしたら、○○さんの所へお届けしますよ、あのウィンナー。」
と約束してくれた。やっぱり美鈴は良いやつだ。ありがとうな、美鈴。
「いえいえ、あの豚の退治は私の役目みたいなものですから、当然のことをしているだけですよー。」
そんな謙虚なところも好きだ。どうにも美鈴に惚れ込んでしまっている俺なのだった。

さて今後の約束も取り付けてほくほくと里へ帰ってみると、なにやら里の皆が騒いでいた。
何かあったのか? と隣人に尋ねてみると「あぁ、どうやら××ちゃんが帰ってこないらしいんだ。」と教えてくれた。
××ちゃんは酒屋の娘さんだ。よく利用する酒屋だったのでその関係で親しくしてもらっていたのだが……。
まさか妖怪に襲われてしまったのだろうか? 幻想郷ではよくあることとはいえ、知人ともなれば不安にもなる。

なんとか無事、帰ってきてくれると良いのだが……。

(続き ※別作者)


「……ついにバレちゃいましたか」
「美鈴、……やっぱり君が」
「……はい」
あまりにも酷い真実に、ガクリと膝をつく。
最近の行方不明者が、全部美鈴の仕業だったなんて……
「……どうして?」
やっとのことで力なく尋ねる。
「……初めは○○さんに近づくメスブタの駆除のつもりだったんですよ」
すまなそうに、しかし笑顔を絶やさずに美鈴は答えた。
「でも、途中から目的が変わったんです」
「……目的?」
「というより、思い付いてしまったんですよ。○○さんを手に入れる方法を」
愛の力ですねと、嬉しそうに胸を張る美鈴。
「……何を?」
「○○さんに近い人が必ずいなくなるとなれば、気味悪がって誰も○○さんにに近付かなくなる。違いますか?」
違わない。みんな距離を置くようになったし、俺自身も人を避けていた。
「そうして、孤独に苛まれた○○さんは、必ずこの異変の真相を調べに来る。そして真相を知り絶望する。……予想通りでした」
「……」
目の前が真っ暗になったようだった。
孤独に耐えられなかった心が、美鈴の言葉によって、砕けそうになる。
「そして最後に、もう一つ。行方不明者が出る前に、何がありましか?」
「……え?」
「○○さんが美味しそうに食べてたウインナーですけど、いつか、何の肉かと聞かれましたよね」
そうだ。そして初めて食べた次の日に行方不明者が……
「……ま、…まさか!」
「作るのは割と楽でした。意外と簡単にミンチになるんですよ。……こんな風に」
ぐしゃりと、人「だった」モノを握り潰す美鈴。
「うっ……」
おぞましい真実に、胃液が逆流してくる。
「そう……」
……やめろ
「あなたが口にしていたあの肉は……」
……やめてくれ
「あなたにとって一番身近な生き物……」
「っ!……やめてくれ!」



---ニンゲンノニクデス



狂気を孕んだ美鈴の笑い声をバックに、俺の中の大事な何かが、音を立てて壊れた。




……ココは、何処だ?
……オレは、何だ?
……全てが不鮮明で、何も分からない。
なんでココにいるんだ?
オレは何者なんだ?
わからないわからないわからない……
「○○さん、大人しくしてましたか?」
「……メイ、リン」
「まあ、そんなんじゃ動くこともままならないでしょうけど。
お食事持ってきましたよ。
……外の世界の人間って、意外と多いんですね。ああ、ちゃんと食べさせてあげますから」
言いながら何かを口に含み、口移しで○○に与える美鈴。
血の臭いに反応し、それをむさぼる○○。
……そうだ、オレは妖怪。
存在すらおぼつかない、出来損ないの妖怪。
こうして、メイリンに保護されて、なんとか長らえている妖怪。
「……こうやってわたしの気をあて続ければ、いつか○○さんも妖怪になれるかもしれませんね。
なれないで、完全に壊れてしまっても、わたしが食べてあげますから、安心して下さい」
「アリガト……ウ、……メイ…リン」
暗い部屋に、狂気と幸福に彩られた笑い声が響いていた
最終更新:2011年03月22日 11:47