「お嬢様。そろそろ寝るお時間ですよ。」
『やだー!ばだばだあぞぶの゛ー!』
従者は幼き主の行動に戸惑う。
いつものことだが慣れないものは慣れない。
「寝る前にお話も聞かせてあげますよ?」
その言葉に少し落ち着いたようだ。が、
『○゛○゛のおばなじがききだい。』
まただ。
「…わかりました。少しお待ちを。」
次の瞬間、消えた。
やはり次の瞬間戻ってきたが。
『○゛○゛は?』
「すぐにこちらに来るかと。」
少し経って執事服を来た青年が部屋に入ってきた。
『お待たせしまし、わっ!』
執事は倒れている。
その胸元には抱きついている主。
従者は居心地が悪そうに部屋を出ようとすると。
『ありがとーしゃくやぁ。』
主は満足そうに笑っている。
それを見た従者は口元に笑みを浮かべながらも、
少し複雑な表情で部屋を出た。
『ねぇ、ねるまえにおはなしきかせて』
執事は少し古めかしい本を持ち、
『図書館で借りました。どんな話が聞きたいですか?』
執事が目次を見ていると、主は首を横に振った。
『○○のおはなしがききたい』
数瞬、執事の動きが止まる。
『…どんなお話ですか?』
主は少し不機嫌そうに、
『もー。はなした○○がわすれたの?』
『ほら、かいぶつとにんげんのはなし!』
『…わかりました。』
『うー☆』
執事は寂しそうな顔をしていたが、
嬉しそうな主にはわからなかった。
『むかし、むかし、あるところに。』
『大きいお屋敷に住んでいる怪物がおりました。』
『むかし、むかし、あるところに。』
『大きいお屋敷に住んでいる怪物がおりました。』
『怪物はとてもとても強くて、逆らう奴はムシャムシャバクリ。』
『すごくかりすまで召使もたくさんいました』
『そして欲しいものがあれば無理やり手に入れていました。』
『すごーい!わたしだったら、けーきにましゅまろにぷでぃんに…』
主は手を叩いて笑い、指を折って数を数え始めた。
『…この話を何度も話していますが』
『あきないですか?』
『ううん。だっておもしろいもん。』
『わたしもこのかいぶつみたいにつよくてかりすまだったらいいのに。』
『…そうですか。』
『……』
『?、どうしたの?』
『○○、はやくつぎはなしてよ。』
『つぎはおとこがでてくるんでしょ。』
『あはい、続きを読みますね。』
『ある日の夜、怪物は散歩に出かけました。』
『飛んでいると怪物は歩いている男を見つけました。』
『怪物はその男を食べようと、男の前に降り立ちました。』
『帰った怪物は考えましたがわかりません。』
『怪物はとりあえず男を食用として館に連れてきました』
『男を前にするとやはり顔が熱く、胸は痛みます。』
『怪物は男の首に牙を刺し、血を吸いました。』
『しかし男の血はとてもまずいものでした。』
『怪物は口を離し、男をジッと見ました。』
『少し考えたあと怪物はまた血を吸いました。』
『次の日から召使に男の血を出すように言いました。』
『なんでまずいものをのむの?』
『おいしいものを吸えばいいのに』
『手元に置く理由が欲しかったのかもしれません。』
『?』
『なんでりゆうなんかいるの?』
『なくったっていいのに。』
『とてもプライドが高かったから、』
『いつものような気まぐれだと思いたかったんでしょう。』
『○○のゆーことむずかしくてわかんない。』
『…あなたなら、きっと分かるはずですよ。』
『?』
『血なんておいしいのかな…』
『次、いきますよ。』
『怪物は男を手に入れました。』
『しかし、それでは怪物は満足できませんでした。』
『そこで怪物は男を自分の思い通りにするため、』
『男を自分の眷属にしました。』
『これで『けんぞくってなに?』
そう言って主は話を遮った。
『うーん。』
『自分と似たような体にして無理やり召使にしちゃうことかな。』
『へぇー。』
『わたしもかいぶつだったらなぁ。』
『どうしてです?』
『○○にずっとそばにいさせるのに。』
『…そんなことしなくても一緒に居ますよ。』
『続きを言いますよ。』
『これで男は怪物の命令に逆らえなくなりました。』
『自分が人間でなくなった。』
『それを知って男は心を閉ざしてしまいました。』
『これで男は怪物の命令に逆らえなくなりました。』
『自分が人間でなくなった。』
『それを知って男は心を閉ざしてしまいました。』
『怪物は男の体も手に入れました。』
『しかし、それでも怪物は満足できませんでした。』
『怪物は男の心も欲しくなりました。』
『怪物は魔法使いに惚れ薬を作るよう頼みました。』
『○○、ほれぐす
『その人が好きじゃない人を好きにさせる薬です。』
『う゛ー。』
『まだなにもいってないのに。』
『毎回、毎回、同じ質問ですからね。』
『全て憶えていますよ。』
『それじゃあ次に…どうしました?』
『おもったんだけどさ、』
『ぱちぇもほれぐすりつくれるのかな。』
『…作れると思いますよ。』
『魔法使いですし。』
『つくってもらおうかなー。』
『使うお相手がいるんですか?』
『そうだなー。』
『どうせだし○○に使おうかなー。』
『残念ですが私に使っても効きませんよ。』
『えー、どう『それは秘密です。』
『続きへいきますよ。』
『魔法使いは反対しましたが、』
『怪物の強い希望で渋々作りました。』
『怪物は早速、男に惚れ薬を飲ませました。』
『すると心を閉ざしていたはずの男は』
『急に怪物に抱きつき大好きだと告げました。』
『怪物は男の体だけでなく心も手に入れたと喜びました。』
『ふぁ~~う』
主は眠そうに目蓋をこすった。
『お話は今度にして寝ますか?』
『ううん。』
『さいごまできく。』
『だって、いつもそうだもん。』
『わかりました。』
『しかし、だんだん怪物は男が怖くなりました。』
『自分が男を抱きしめても、痛い目に合わせても、』
『男が言うのは大好き、愛してるなど愛の言葉だけ。』
『自分が好きだったのはこんな人形ではない。』
『怪物は魔法使いに男を元に戻すよう頼みました。』
『魔法使いは一度歪めた心は二度と元には戻らないと言われました。』
『怪物は自分のしたことを後悔しました。』
『怪物は男を避けるようになりました。』
『男を見るたびに罪の意識がおこるからです。』
『男は大好きな怪物のために愛を囁きます。』
『それを聞きたくない怪物は男から逃げます。』
『傍からみればそれはそれは、おかしな光景だったでしょう。』
『ウトウト…』
『やはり寝たほうが』
『ヤダ。』
『きょうこそさいごまできくのー…。』
『……』
『ある日のこと。』
『ついに怪物は男に捕まり抱きしめられました。』
『男は耳元愛してると囁きます。』
『耳を塞いでも聞こえる声。』
『怪物は男を突き飛ばしました。』
『壁に叩きつけられた男はバラバラになりました。』
『バラバラになった体は元の一つの体に戻っていきます。』
『それを見て今まで目を逸らしていた、』
『目の前にいるのは好きな人と同じ姿の違う誰か。』
『男は体も心も変わってしまった。』
『そうしたのは自分だ。』
『怪物はその事実に耐えられませんでした。』
『怪物の心はこれ以上、心が傷つかないようにしました。』
『男の体が元通りになったとき、』
『目の前に居た怪物は、』
『記憶を無くし、心も幼くなっていました。』
『スゥ…スゥ…』
主は寝息を立てながら横になっている。
『やはり寝てしまわれましたか。』
『スゥ…スゥ…』
『そろそろ朝になりますね。』
『スゥ…スゥ…』
『私も寝るとしましょう。』
『そうして怪物の館では。』
『自分が怪物だと知らない幼い主に』
『昔のように怪物に愛を囁きたい眷属が』
『今でもお世話をしているそうです。』
最終更新:2010年08月27日 00:07