俺には彼女がいる
村のやつらに言わせればそれは彼女と言わんとさんざんに笑われる
けれど俺にとってはかけがえのない彼女だ
なぁ、と声をかけると、頭の上という指定席にいつも寝そべる彼女が体を起こす
上海人形 アリス・マーカトロイドの自動人形
初めは一方的になつかれてる感じだったけれど、今ではちゃんとした交際をしているつもりだ


三日前

突然アリスに呼び出される
何の用かと聞くと、なんと上海人形は自分が操作していたものであり、いままで俺はアリスと付き合っていたらしい
正直半信半疑だが、ものすごい剣幕でそう言ってくるアリスの迫力に押されていた
そうして気が付くと、俺はアリスと付き合うことになったらしい
同一人物なんだからいいでしょ、と言われたが、上海がアリスと同一人物だなんて正直納得はしていない


二日前

やっぱり、何か違う
今日は半ば強引にアリスとデートすることになったんだが、やっぱり彼女は上海じゃない
強引に引っ張っていくアリスと、半歩後ろを付いてくる雰囲気の上海とじゃイメージが対照的すぎる
しかし、俺には違うということを立証することができない
なにせあれから上海に会うことすらできなくなってしまったんだから
どこに行ったのかと聞いても、ラジコン役は終わったし廃棄したとしか言わない
そんなはずはない
上海はどこかにいるはずだと、俺は信じている


昨日

明け方、俺の家の前に上海が倒れていた
うちで書いてもらったところ、アリスのところから命からがら逃げてきたと言う
やっぱりだ。やっぱり上海は上海だったんだ
嬉しくて上海を思いっきり抱きしめた
さあ、早く荷物をまとめよう
アリスに気づかれる前にこの家を出るんだ


今日

僕は後悔していない
上海と一緒に散るなら本望だ
アリスの派遣した人形中隊…いや、人形大隊が俺達の隠れた森の小屋を見つけるのはもう時間の問題だろう
つかまればどんな恐ろしいことになるのか、考えたくもない
けれど、いつものように頭の上に寝そべる上海の嗚咽を聞くと、元気を出そうと思える
たとえ、それがただの空元気だとしても
これからこの日記を、小屋の床下に隠す
どれだけ先のことになるか分からないが、この手紙を見つけた者にお願いしたい
この事実を知らしめてほしい
天狗の新聞記者はいつもネタに飢えているから、すぐに飛びつくことだろう
そして、覚えていてほしい
人間に恋した人形と、人形を愛した人間がいたことを
最終更新:2015年05月06日 20:40