「このときを待っていた! くらえー! ボディーブローだー!」
みごとに俺の拳が妖夢の腹部に埋まる。決まった
映画ならこれを食らった者は声も上げずに気絶するような一撃だ
その証拠に妖夢は体を弓なりにしながら体を小刻みに痙攣させている
小さく漏れるヒューヒューという呼吸音と、ポタリポタリと垂れる血の音が妙に大きく聞こえた
………血? ボディーブローなのに、血?
それは、妖夢の足の間からこぼれていた。俺の頭の冷静な部分が言う
妊婦の腹を思い切り殴ったんだ、あたりまえのことだろう?
「あ……あ………」
そう、あたりまえのこと。あたりまえの結果。俺の望んでいたはずの結果
けれど、俺はもしかして、とんでもないことをしてしまったのではないだろうか
「うわああああああ!!」
何もかもが怖くなった俺は、走り出した。石段にはそこを守る強化毛玉たちがいる
けれどそんなものはお構いなしに、ひたすらに突っ走った
撃たれて死ぬならそれもいい。どうせ俺は罪人だ。実子殺しの大罪人だ
正気に戻ったとき、村にそのままになっていた俺の家の中にいた
どこをどう走ったものか、まったく覚えてない
それから三日、体重が8kg落ちた
口に何も入れる気になれず、眠ろうにも目を閉じるとあの右拳の感触を思い出してしまう
弾力のあるゴムマリを殴り、中身を潰したようなあのグシャリという感触を―――
「ーッ!」
今日何度目かの便所に駆け込む
吐き出すものは胃液しかないが、それすらも全部出してしまいたいほど気持ちが悪い
あれから何度も死のうと考えた。けれど、どうしてもできなかった
何のことはない、ただ死ぬのが怖かったんだ
俺はなんて生き汚い人間なんだろう。私事ながら、見下げ果てた男だと思う
「………」
結局、俺が行くべきところはここにしかないんだろう
そんなことを考えながら、白玉楼の石段をゆっくりと登る
妖夢は、一思いに俺を殺してくれるだろうか。それとも死ぬより苦しい目にあうのだろうか
……どちらにしても、しかたのないことだけれど
「○○さん」
石段のてっぺんで、妖夢が待っていた
妖夢もきっと俺と同じくらい、いや、その数十倍も苦しんだんだろう
頬はこけ、元々白い肌は白いを通り越して蒼白になっている
その目は俺を映しているのかどうかすら分からないほど虚ろだ
しかし、最も気になったのは両手で持つ小さな布。あの形は、赤子?
「三日もどこに行ってたんですか。私とこの子をほおっておいて」
「そ、その子って……」
「何を言ってるんですか。私たちの子供ですよ」
それを聞いて俺は石段を駆け上がった。生きていた! そのことがただ嬉しい
俺がバカだった。もしも許してもらえるなら、これからちゃんとした父親になる
この子と妖夢のために生きていく。そんな誓いを立て、俺は子供の顔を覗き込み
「うおぇぇぇぇぇぇ!!」
吐いた
妖夢が抱いているのは、俺達の子供[だった]物
赤黒い肉の塊
それを妖夢は、愛おしそうに優しく抱いていた
「○○さんのせいで、生まれるのがちょっぴり早まってしまいました
でも見てください、こんなに可愛いんですよ」
起こるでも皮肉るでもなく、淡々と虚ろな表情でつぶやく
今はもう石段を守る毛玉はいない。妖夢もきっともう刀なんて振るえないだろう
けれど俺は、もうこの地から逃げることはできない
罪の意識が俺を縛り続ける限り、ずっと
確かに鬼畜だ……鬼畜だよ。うはぁ、鬱エンドだなぁ。
と言うわけで、俺からは少し明るいverをささやかながら進呈しよう。
「このときを待っていた! くらえー! ボディーブローだー!」
練達の剣士が見せた、僅かな隙を縫って繰り出された必殺のボディーブロー。
それは彼女の腹部に深く突き刺さり、母胎と胎児に重大なダメージを与える―――
いや、――――与える、筈だった。
「な―――――――」
○○は当惑で息が漏れる。
一体どうなっているのか、と。
ボディーブローを撃ち込む屈んだ姿勢のまま、○○は呆然と目の前の妊婦を見た。
「――――――――ばか、な」
所詮、素人の付け焼き刃で覚えた拳闘故事態が掴めていない。
腹部を抉るように突き出した必殺の拳。
それが止まっている。
膨らんだ妊婦の腹を叩く直前で、何かに拳を挟まれて停止している。
「―――――左膝と、白楼剣?」
そんな奇蹟が起こりえるのか。
彼の拳は、腹部の膨らみで動きに制約があるはずの妖夢によって止められていた。
左膝と、白楼剣。
絶妙なタイミングで突き出されたそれを、彼女は膝を上げ軌道を逸らし白楼剣で押さえる事で、挟み込むように止めていたのだ。
「――――母になった少女を侮りましたね、○○さん」
それは、地の底から響いてくるような声だった。
「……っっっ!!!」
○○の体が後ろに流れる。
止められた拳を全力で引き戻そうとする。
その瞬間。
「がっ――――!?」
○○の後頭部に、正体不明の衝撃が炸裂した。
「お腹を叩く様な悪い○○さんは、この子が生まれるまで徹底的に再教育する必要がありますね。覚悟してください」
砕け散っていく意識の中、妖夢の声が聞こえた様な気がした。
ルート①
○○「喜んでないなんて誰が言った? まあ欠点も多いがそこが可愛いしな。これからもよろしく お母さん」
妖夢「えっ? ○○さん、どうしちゃったんですか!?」
○○「なんなのよ、その反応」
妖夢「今までずっと嫌がってたのに。いきなりそんな優しい言葉をかけてくれるなんておかしいです!」
○○「あのなあ………前々から言いたかったんだけど、妖夢はもうちっと俺を信用しろや」
妖夢「だってだって!!」
○○「よ~く考えてみろ。俺が今まで一度でも妖夢のことを[嫌い]だって言ったことあるか?」
妖夢「……ない、です」
○○「だろ? これが興味のない相手だったらいまごろとっくに愛想をつかしてるっつーの」
妖夢「……」
○○「まだ信用できんか?」
妖夢「……逃げたりしませんか?」
○○「逃げない逃げない。どうせ捕まってパーフェクトジオングからジオングの刑になるのが関の山だし」
妖夢「……おなか、殴ったりしませんか?」
○○「やらんやらん。なんだか口にするのもはばかられるようなことになりそうな気がするし」
妖夢「……浮気、しませんか?」
○○「しないしない。俺は今までこれだけされても妖夢が好きって言ってるんだぜ。こんな一途な男そう落ちてないぞ」
妖夢「……こんなめんどくさい女でも、いいですか?」
○○「あ~、うん。その点についてはもう諦めてるから無問題」
妖夢「……この子を、喜んでくれますか?」
○○「ああ。正直まだ自分がオヤジだって実感はないけど、大切にしていきたいと思ってる」
妖夢「……最後に、あとひとつだけ」
○○「何でもこいや」
妖夢「……ぎゅって、抱いてください」
○○「そのくらい、いつだってしてやるよ」
(場面半暗転 妖夢こちらを向く)
妖夢「これで、私たちのお話はおしまいです
3つもおつきあいしていただき、ありがとうございます
……特に、>>966(4スレ)さんと>>50さん。あなたたちのおかげで、私達は本当の結末にたどり着くことができました
本当に……本当にありがとうございます……!」
(泣き笑いの顔を向け、場面暗転)
最終更新:2011年03月24日 21:04