霊夢/6スレ/470
俺は幻想の郷に居る。
居る、らしい。
なんでこんな言い方になるかと言うと、確かめようがないからだ。
「なぁ、霊夢。いい加減ここから出してくれよ」
朝食を地下牢の格子口に置いた巫女は、返事もせず薄笑いを浮かべて去っていく。
普段はあんな素っ気ない態度だが、牢の中に入ってきた時は人が変わる。
俺の反応を無視して甘え、依存し、時折獣のように求めてくる。
悲しい話だが、今、接触を取れるのは彼女だけだ。
俺に生活に必要な物資や糧を与えてくれるのも彼女だけだ。
同時にこの場所に拘束し、俺を監禁しているのも彼女だけれども。
「……はぁ」
川魚の干物と山菜のお浸し、麦が混じった白米と浅漬けで食事を摂る。
そう言えば海洋の魚介を口にしたのが何時だったか、忘れてしまっていた。
「本当に、ここは、幻想郷とかいう場所なのかよ……?」
それを口にし俺に説明したのは霊夢だけだ。
俺が山道での自動車事故で意識を失ってから、意識を取り戻して話した事があるのは霊夢だけである。
俺が知っている情報は全て彼女が話した事だけだ。
つまり、彼女の情報が全て嘘であり、実は正気ではない巫女に地下牢で監禁されているだけかもしれない。
しかし、それを俺が調べる事なんて出来ない。
ここを知っているのは霊夢だけみたいだし、事実、彼女以外に訪れる存在はない。
八畳ほどの広さの部屋と簡単な浴室と地下水脈に通じてるらしい水洗式厠。
そして牢越しに見える地下道と階段。これが俺が知覚出来る全てだ。
ここが本当に幻想郷なのかどうかは解らない。
俺は最近になって、霊夢が持ち込んだ徳利に手紙を入れ、入り口を鑞で蓋をして地下水脈に流している。
誰か、俺に気付いてくれ。
俺に真実を教えてくれ。
俺が、本当に、幻想の郷に居るのかどうかを。
感想
最終更新:2019年02月09日 18:30