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朝に目を覚ますと傍らで霊夢が寝ていた。
とりあえず布団から出ようとする。 だが彼女の手が僕の服の裾をしっかりと掴んでいた。
その表情はまるで幼子が迷子になった時とよく似ていて、魘されていることがすぐにわかった。
寝ている異性を起こすのは何処となく寝こみを襲っておるようで気が引けたが、悪夢に苛まれる彼女を見るのは堪えがたいものがあった。
そっと身体を揺さぶって起こしてやると、霊夢はしがみ付く様に僕へ抱きつく。

「〇〇っ、〇〇っ、〇〇っ!」

慌てて抱きつく霊夢を引き離そうとしたが、僕を呼ぶ声に嗚咽が混ざっている事を悟り、その手を霊夢の背中に回した。

ずっと一人で彼女はこの神社を管理していた。 
だから僕のような存在が出来た瞬間に、今まで溜まっていた寂しさが溢れ出るのは考えられる事だったのかもしれない。
その所為か霊夢は僕から離れることを極端に恐れ、最近では一人で入浴することも出来なくなっていた。

一先ず僕は霊夢の身支度を整えさせた後、朝食を作る為に台所へ立った。
勿論彼女はその間も後ろから抱きつくような格好で僕に寄り添っている、孤独に怯える霊夢の口元から漏れるかちかち、という歯の音が酷く痛々しかった。
朝食を済ませた後、同じように後片づけを済ませる。

その後永遠亭へ向かう為に霊夢に飛んでもらった。 一応定期的に八意先生の診察を受けているが、回復の兆しは無い。






永遠亭に着くと××が出迎えてくれた。 僕は挨拶を交わした後、霊夢を××の案内で診察室へと運んだ。

「〇〇! 嫌っ! 一緒に居て!」

霊夢は僕の服の裾に取り付き、泣きながらで此方を見上げる。 僕もこのまま彼女を神社へ連れ帰ってしまいたい衝動に駆られたが、彼女の為だとそれを押さえつける。
僕は思わず目を逸らす。 変わり果ててしまって居るとはいえ、愛している彼女の泣いている表情を直視するのはとても辛い事だった。
そうやって何もできない自分が酷く惨めで、哀しい。 

不意に霊夢の泣き声が止む、驚いて前を見ると八意先生が注射器を霊夢の首筋へと突き立てていた。
崩れ落ちる彼女を診察室にあるベットに寝かせると、先生は歯痒そうな表情で僕に話しかけて来る。

「こういったら言い訳がましいのでしょうけど……。 一応、全力は尽くして見るわ」

僕はお願いします、と言いながら頭を下げる事が精一杯だった。 


診察室を出た後、僕と××は縁側で煙草をくゆらせていた。 

「永琳あくまで薬師だ。 外科の真似事は出来ても、精神科はまた次元が違う。 それは、わかるよな?」
「ああ。」

しばらくぶりに吸った煙草の味は重苦く、不味いとしか言いようが無い。

「畜生! 外界に居る間に精神科医になっとけば良かった! そうすればお前の彼女も、鈴仙も……!!」
「お、おい××!?」

××は頭を抱えて叫びだした。 

「鈴仙が、鈴仙が一体何をしたっていうんだ!? 確かにあいつは仲間を見捨てて逃げたのかもしれない、でもそれは罪なのか!? 

 自分の命を守るために逃げて一体何が悪いっていうんだ!? なんで鈴仙は毎晩、魘されなきゃならないんだ!?」

「××っ! 落ち着け!」

僕は××の肩を掴み、揺さぶる。

「××、……お前は疲れているんだ。 お前まで心を病ませてしまったら鈴仙はどうなるっていうんだ。」

それで正気に戻ったのか、××は茫然とした表情を浮かべ、すまないと一言謝った後、深いため息を吐く。

「……〇〇、そろそろ永琳の診察が終わる頃だ。 見に行ってやれ。」

その声は弱弱しく、背中はあまりに小さく見えた。





その夜、〇〇は霊夢を風呂に入れていた。
最初のうちは邪な思いを抱くことがあったが、孤独に怯え続ける彼女を襲える筈もなく、いつの間にか慣れ始めている自分がいた。
手際よく霊夢に服を着せた後、寝床の用意をして、同じ布団に入った。
あやすように抱き寄せながら、背中をさすりって彼女を眠らせる。 


まるで、母親のようだな。


ぼんやりとした頭でそう考え、〇〇は眠りへ落ちて行った。







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最終更新:2019年02月09日 18:01