目覚めは、とても穏やかで安らぐものだった。
……今日は里の仕事も休みのはずだ、何だってこんな時間に起きてしまったんだ?
「寝なおすかな」
そう呟いて再び布団を被る。……この温かさが心地よい。
耳に入るのは小鳥のさえずりと、トントンという朝食を作る包丁の音。
………?
それまでまどろんでいた思考が一気に冷めた。
自分は一人暮らしだ。誰かが朝食を作ってくれるなんてありえない。
「あれ、もう起きるの○○? もうちょっとでごはんできるから、それまで寝ててもいいのに。……それとも、私に添い寝して欲しい?」
「え゛!? な、な、何してるんですか、霊夢さん……!」
首を向けた先にいたのは、いつもと同じくおめでたい紅白の巫女服に身を包んだ博麗の巫女。博麗霊夢がそこに立っていた。
「何って……いま朝食を作ってるのよ」
「じゃなくって! どうやって入ったんですか? そうだ、鍵を掛けといたはずですけど、ついでに軽い結界も」
それを聞いた霊夢はきょとんとした顔をしたがすぐに崩し、ふふふと可笑しそうに笑って言った。
「あぁ、あれね。……なぜか壊れていたから、勝手に入らせてもらったわ」
…………いや、アンタが壊したんでしょ。誰かこれはストーカー行為だと教えてやってくれ。
と、兎に角、こちらの断りもなしに家の中に何度も入ってこられるようになっては困る。
すぐに被り直していた布団を跳ね上げ、右手をついて起き上がろうとして
――ふにゅん
と、何か柔らかいものに手が当たる。……何だコレ。
その、人肌に温かいマシュマロみたいな感触を確かめるように揉むと、何もないはずの場所――自分が寝ていた場所の真横から声がした。
「あぁん……そん、な……あぁ。○○ったら朝から大胆すぎ…!」
「――は? う、うわわっ!?」
非常に小柄で華奢な体格の少女だった。ぼさぼさの白い髪とフリルをふんだんいあしらった可愛らしい服装で、胸元には妙な球体が付いていた。
そこには誰もいなかったはずなのに、ほんの数秒前まで自分はその横で寝ていたはずなのに、まったく気づくことができなかった。
自分の横に見知らぬ少女が寝ていたことと、さっきまで右手はその子の胸を掴んでいたという事実に気づき、○○は仰け反るようにして布団から飛び出した。
「あ、アンタは古明地こいし! 無意識使って○○と添い寝してただなんて、…そこを退きなさい!」
唖然としている自分をよそに、霊夢はお札を取り出して身構える。
「そうよそうよ! 不純よ! 淫よ! インモラル!!」
それに同意するような声が続いた。
…………?
「ちょっと、さっきの声は誰のよ?」
霊夢のものとも、
こいしと呼ばれた少女のとも違う高い声に、霊夢が不思議そうな顔をする。
こいしもいつの間にか起き上がっていて、声のした方向を向いている。
そこにあったのは、自分が置いた覚えの無い奇妙な形をしたオブジェ……?
――ボフンッ
その瞬間、奇妙な置物は白い煙を出して消え、代わりにそこから現れたのは――
「ぬえじゃあないか、命蓮寺の。何でここに?」
いつだったか、命蓮寺であった縁日の時に出会った妖怪の少女だ。名前は確か……封獣ぬえ。
そんなぬえはどこか得意げな表情で、不適な笑みを浮かべていた。
「ふっふっふ、……バレてしまってはしかたないわね。
しかしこうなったからには、この私の前で【skmdy】な真似は許さないわよ。この淫乱巫女!
○○の貞操は私がずっと見守っている限り――ぶべっ」
「いやらしいのはアンタでしょうが! この淫獣ぬえがぁぁあ!!」
台詞を言い終わる前に、霊夢のとび膝蹴りが炸裂した。
なんで今日の朝に限ってこんなに騒がしいんだ。
「はぁ…はぁ…はぁぁ……。まったく、ドイツもコイツも常識のない奴ね」
気が済んだのか、ぬえにキャメルクラッチをかけるのをやめた霊夢が息を荒げて言葉を吐く。
……あなたも十分にヤバい部類に入ると思います。
「まさか、………もういないでしょうね?」
そう言った直後、天井でガタガタッという音がした。
…………。
「そこっ!」
「逃がさないよ!」
霊夢の放ったお札と、
こいしの撃った弾幕が天井を穿つ。俺の家を、着実に破壊していく。
そして落ちてきたのは。七色に光る宝石のような羽を持った――
「ぷぎゅっ!? ……いったぁーい! 何するのよ!」
「…………、………………。」
まだまだ終わりが見えそうにない騒動に、○○は静かに意識を手放した。
最終更新:2018年08月25日 21:10