救聞史記付録「外来人が人間以外と婚姻関係を結ぶ頻度の高さ」についての考察

幻想郷に置いては人間は人間の集団で、妖怪も妖怪の集団を形成し緩いながらもある程度の住み分けがなされている。
ただしその住み分けは先も述べたとおり緩いため中には十六夜咲耶や上白沢慧音のように妖怪の集団の中に人間が、人間の集団の中に妖怪がと言う例はさほど珍しくも無い。
そうなれば種族の垣根を越え妖怪と人間が婚姻関係を結ぶ例も我が稗田家の記した幻想郷の記録を紐解くとやはりそれなりの量で存在した。
だがここで私はあることに気づいた。人妖の、種族の垣根を超えた恋愛や婚姻の詳細について目をやると妖怪の方は以前からこの幻想郷に住んでいた者で、人間の方は外来人でしかもここに住み着いて長くても5年以内には土着した妖怪と結ばれている。
無論、独身のままだったり普通に人間同士で結婚したと言う例もあるにはあるが。外来人が10人いて1人か2人にしか過ぎない。
過去の記録を洗いざらい調べたが私は更に驚くべき事実を知った。人間と関係を結んだ妖怪の例だけを抜き出していくと圧倒的に外来人との結婚の方が多かった土着の人間との結婚例は皆無にも等しい状況だった。
これは偶然ではない、明らかに何かの因果関係が存在している阿礼乙女としてこの因果関係はどうにかして突き止めたい。
しかしいくら阿礼乙女の私とは言え人様の私生活にズカズカと入り込む事は出来ないしその趣味も無い。その為天狗の新聞や救聞史記編纂の際に集められた人々の聞き取りを下にまずは推測を重ねることにした。
ここからは完全な私見になる為事実と異なる部分は多々あるだろう、だが何も残らないよりは良い筈なのでここからは私見を記すことにする。

外来人が同じ人間ではなく他種族である妖怪と関係を結ぶ割合が多いことの理由として私は距離感を上げたい。ここでいう距離感とは精神的なものを指す。
土着している、幻想郷で生まれ育った者達は以前ほどの殺伐さは無いとは言えやはり人間と妖怪の間には付き合ってはいても一線を引いているような気がする。
しかし妖怪の立ち振る舞いを見るにその一線を超えた付き合いを渇望しているのでは思わずにはいられない。
だが外来人は、土着の者と比べ妖怪達との間に感じている壁が非常に希薄なのだ。それこそちょっと力が強い空を飛べる外の世界には無い能力がある程度でそれ以外は自分達と同じように見る。
恐らくは妖怪達にとってはこの距離感の小ささはたまらなく嬉しく思うのかもしれない妖怪とは精神的な生き物とはよく言うが、この他者との付き合いは人間以上に非常に大きな活力になっているのかもしれない。
確かにある程度つじつまは合っている(実際最近でも冥界の白玉楼に新たにもう1人住み着いた人間も、八雲紫に気に入られている人間も外来人である。)

資料とにらめっこしながら自分の書いた文章とを見比べる、これを世に出すかどうかはともかく興味深い事実に気づけたことを幸運に思う。これでこそ阿礼乙女と言う物だ。
あ・・・ノックの音が聞こえる、この叩き方は―――あの人だ

何度目かのノックでようやく阿求が気づいてくれた。これが同性ならノックに気づかないなら気づかせてやるとばかりに入り込めるんだが、流石に仲が良いとは言え女性相手。親しき仲にもなんとやらだ。
「入るよ阿求」
「あら、   ならいつでも歓迎ですよ、それで何のようですか?」
外行きではない笑顔で阿救は俺を迎え入れてくれる。
「そろそろ夜は冷えるようになってきたからな、一枚羽織るものを持ってきた・・・阿求は体が弱いからやっぱり冷えるのは良くないと思ってさ」
「ありがとうございます、ほら   そんな所に立っていないでここに座ってください、お茶とお茶菓子もありますよ」
手近な座布団を自分の隣に置き手でポンポンと叩き更に部屋の奥へと招きいれてくれる、俺はそれに「あぁ」と短い返事をして歩を進める。
 それにしてもだ・・・ここ最近の展開は怒涛だった。今でこそこうやって阿求と談笑できているが。
稗田家の世話になる前は1人で暮らしていた。と言ってもダチ2人とよくつるんでいたしその中の1人が飲兵衛でよく3人で飲んでいたからそんなに寂しいとは思わなかった、3人とも外来人だからってのも大きかっただろうな。

まず始めに変化が起きたのは飲兵衛の○○だった。
あいつは「強くなりたい」つって竹刀を持って毎日稽古の真似事をしていたっけな。
道場にでも入ったらどうだ?と言ったが道場主の先生から「貴方の”強くなりたい”は本物過ぎる、外の言葉で言ったら我々のやっていることはスポーツだ」と言われて門前払いを食らったと伏せた目で言ってたな。
博麗の巫女並に強くはなれなくても、ただの人間よりは強くなりたいそう何度もつぶやいていた・・・それに近づく為毎日朝早くから竹刀を振っていたんだ。
その姿を白玉楼の剣士である魂魄妖夢とやらが、大食らいで有名な冥界の姫からのお使い帰りにたまたまあいつの姿が目に留まり話しかけたのがきっかけだったらしい。「やっと教えを請える先生が出来た」本当に嬉しそうだった。
それから数ヶ月経って「本気の稽古を付けて貰える事になった、白玉楼に住み込む事になったからしばらく会えない」と言って来たんだった。
それであの時は今生の別れではないと思ったから、しばらく合えない事にかこつけて3人で酒盛りをしたんだったな。それでもいつもの酒盛りよりいい酒とつまみを用意した。
最初の方こそ・・・多少返信は遅かったが手紙のやり取りが出来た、その内便りもこなくなった。不意に来たあいつから来た最後の便りには、何故かあいつからの俺達に対する謝罪文がしたためられていた。
要約すると“友人との仲より強さを選んでしまったことを申し訳なく思う”、“ただの人が人を超えれる唯一のチャンスなんだ”と言う内容だった。
重要な内容はこれだけなのだが。それ以外に便箋いっぱいに俺達との思い出話や酒盛りでの馬鹿話を懐かしむ文章があちらこちらに、そして何度も何度もすまないや許してくれとは言わないなど謝罪の意を示す言葉が散らばっていた。
確かに、確かに白玉楼へと発つ直前の酒盛りで「腐らしてしまうのも勿体無い」と俺と「」に自分の持っている結構良いポン酒や焼酎を、まだ封も空いてないのも含めて全部あげてしまっていた。
空いているのはともかく封を切っていないものについては食料を入れる冷暗所に置いておこうかとも言ったが、鮮度が落ちるから飲みきってくれて構わないと、ポン酒ならともかく焼酎は保管さえ間違わなければそこまで神経質になる必要は無いのだが・・・
あの時にはもう既にある程度覚悟を決めていたのかもしれない・・・場所が場所だからな同じ存在にされていないか激しく不安だ。

次に変化が訪れたのは「」。あいつは俺と違ってまぁまぁ社交的で他人に振舞っても恥ずかしくない程度に料理も出来る。一応俺も料理はするが独り暮らしだから仕方なくする程度で「」程ではなかった。
社交的な性格だからか博麗神社にもよく宴会に誘われていた、本人曰く「ただの料理人役」らしいが。
「」が博麗神社の宴会に呼ばれるようになったのは幻想入りに会って森の中を走り回ってたどり着いた神社の境内にいた博麗霊夢と、彼女にたまたまお茶をたかりに来た八雲紫に助けられた礼を言いに行ったのが付き合いの始まりだそうな。
博麗霊夢からは「気にしないで、役目だから」と慣れたような反応だったが、八雲紫からは「人間からお礼なんて始めて言われたわ」と礼儀の良さを気に入られた。
そこから神社の宴会にたびたび呼ばれるようになった。そこで魚を捌いてますます、特に八雲紫に気に入られたと語っていた。
「まさかあの場の全員が内臓を取る事に気づかなかったとは・・・」そう絶句していたが。
それでも、綺麗な女性に料理の腕を褒められるのはやはり嬉しいらしく「同じお褒めの言葉でもやっぱり綺麗な女性からのがいいよな、八雲さんみたいに」と冗談めかしてはいたが優越感からか随分失礼な調子で酒盛りのときにのたまっていた。
その後何かむかついたので俺と○○であいつの分の酒をがめた。
変化が起きたのは○○からの最後の便りが届いてからだった。
あいつは何かを考え込むようになり、家に居る時間が多くなっていた・・・あえば挨拶もするし立ち話もするが、飲兵衛の○○もいなく酒盛りの回数も腰を据えて話す時間もガクンと減ってはいた。
このままでは不味いと思い酒とつまみをまとめて奴の家に押しかけた。
昼酒ではあるが飲んでしまえばこっちの物だった、○○がいないという点を除いては。
「」もいつもの調子で一緒に飲んでいたし、こざっぱりとした部屋だったため大げさな動きをしても何かにぶつかるということもないので暴れるとまでは行かないが大きな身振り手振りで騒いだ・・・1人足りない分を埋めるように。
「あら先客がいるわね、例のお友達?」聞こえるはずの無い女性の声が後ろから聞こえる。振り向けば裂けた空間からその女性は降り立ち、慣れた足取りで○○の横に座る。
八雲紫だ・・・天狗の新聞に載っていた写真姿を思い出す前にその名が頭を付いた。
そう言えば確かに「」は礼を言ったことがきっかけで八雲紫と言う妖怪の賢者に気に入られたとは聞いていた、でもまさか、こうやっていきなり家に上がりこむくらいまでの仲だったとは。
「どうする?間を空けてまた来ましょうか?」
「あぁ・・・そうしてくれ」
じゃあまた来るわね、そう言い残して再び空間を裂いて、巷で言うスキマから帰っていった。その時八雲は確かに俺の目を見た、偶然目が合ったと言う物ではない意識的に見られた。そしてスキマを閉じる瞬間に笑ったような気がした。
「すまないな、驚かせて」
お前が謝ることじゃないだろう、どちらかと言えばそれは彼女の方だろうに。そんな感じの事を喋りまた飲み続けた、酔いの力とは素晴らしい。
その数日後の深夜だった「」の声が聞こえ目を覚ませば、寝床の枕元に「」が立っていた。後ろにはスキマが、その中には当たり前だが八雲紫が扇子で口元を隠しながら待っていた。
「マヨヒガで紫と暮らすことになった」だと?お前いつの間に下の名前で呼べるまでに発展していたんだ。
「すまない」だと?何がすまないだ、その言葉はどちらかと言えばお前の後ろからこっちを見てるあのスキマ妖怪から聞きたい言葉だぞ。
「「」…!」、また会えるよな?その一言がどうしてもいえなかった、あぁそうか・・・「」の家がやけにこざっぱりしていたのはマヨヒガで暮らす為に家財道具や物をあらかた運び終わった後だったからなんだな・・・今気づいたよ。
「・・・あの家は?」また会えるよなの代わりにこれしか言葉が思いつかなかった。
「引き払う・・・スマン、本当にすまない」だからその言葉はお前が言う言葉じゃない、奥のに言わせるべきだろうそれは。
結局、思っていた事の半分も伝えれず「」とは今生の別れを迎えることになってしまった。スキマが閉じる時にまた八雲紫は俺の目を見てきた、そして確かに笑っていた・・・一体どういう意味があったんだあの笑みには。


その次の日の夕方ごろだったか。これからどうしようか、付き合いと言えば同じ外来人仲間である○○と「」とばかり付き合っていたからな。そのため他の付き合いと言うのが希薄だった。
稗田家のお嬢様から「外のお話を聞かせてください」と言われて度々家に招かれているくらいか・・・そんな内容のことをつらつらと考えていたら稗田家の使いだって人が家に来て。
「阿求様がお呼びです・・・お願いです一緒に来てください!」
半泣きで頭まで下げられた、もう少し粘っていたら土下座にまで発展してたかもな。
稗田家の阿求の部屋に通されて挨拶すら無視して阿求は開口一番「部屋を用意しました、今日からこの家で暮らしましょう」と言われた。
理由は○○と「」がそれぞれ白玉楼とマヨヒガに腰を据えてしまいあなたが独りきりになってしまったから。
そしてここからが本題ですが今呼び寄せなかったらあなたが他の人に取られそうだから、だから私と一緒にこの屋敷に住んでください居候と言う身分が気になるなら私の助手になってください。
異性との関係が希薄な自分でも分かった、彼女が言っているのは、稗田阿求は俺のことを―――




無論俺はその旨を快諾した、それにその下地は十分に出来上がってもいた。以前より明らかに阿求が俺を呼び出す頻度が増えてもいた、鈍い俺でも少しくらいは考えるし俺自身も阿求には魅かれていた。
その際気になったことは俺を連れてきた使いの者が半泣きだったこと、あの様子は明らかに怯えていた。その怯えの理由は恐らく「俺を連れてこれなかったらどうしよう」だろう。
連れてこれなかったらどうなる?誰かにどうかされるのだろう、一体誰に?・・・阿求?彼女がそんな苛烈な人間にはとても見えないが。
そういった旨の事を俺は家財道具を稗田家に運ぶときに俺を連れてきた使いの人にあくまでも軽く、出来るだけ威圧感を与えないように問うてみたはずなのに。
泣いた、体を震わしてボロボロ泣いていた、「お願いします・・・阿求様にはこの事は・・・・・・・」
阿求がそんな苛烈な人間には見えないのだが?
外からいらしたあなたには実感がわきにくいと思います、ですが我々のような、この幻想郷で生まれ育ったものにとってはああ言った・・・西行寺様や八雲様に限らず特別な方とのお付き合いにはとても神経を使うのです。
いえ!決して悪い意味ではありません!!ただ我々のような普通の人間にとっては・・・・・・・・・・・・・・・


要約すればこいつらはいわゆる妖怪を恐れているのだ、挨拶したり店に来れば普通に応対していても心の奥では恐れているのだ。
あぁ・・・やっと分かった何で俺が阿求以外では○○と「」のような同じ外来人としかつるめなかったのも、こいつらからしたら俺達外来人や阿求ですら「特別な方」なんだ。
確かに阿求の行っている転生なんて反則じみているなとは思ったさ。
他の人達に関しても空を飛んだり何も無いところから弾を撃ったりスキマで好きなところに行けたり魔法を使えたりと、出来るかよとは思った、羨ましいとも思った、畏敬や尊敬の念はあってもそれ以上は思わなかったぞ。
 思い返してみれば○○や「」、阿求以外とは談笑していても何だか薄い膜のようなものを感じていた。気のせいだと出来るだけ考えないようにはしていた。
でも気のせいではなかったあの透明な膜は確かに存在していた。きっと○○も「」もそして阿求も感じていたんだろう・・・だからあの2人は向こう側を選び、阿求は俺を選んでくれたんだ。







どれくらい話していただろう。お茶菓子もとうに食べきり、湯のみの底に残ったお茶も大分冷めていた。
チラリと壁掛けの時計を目にやる11時か・・・思ったよりは話し込んでないしそれほど遅い時間でもないが、阿求の体のことを考えればもう床に入っても良い時間だ。誰かが言わなければ何時間でも机に向かいっきりなのが玉に瑕だな。
「阿求、あまり根をつめすぎて夜更かしをしすぎるのも体によくない、そろそろ床に入らないか」
「へっ・・・?あっ、あぁそうですね確かにそろそろ日付も変わりそうですね、その・・・  さん」
「何?」
「いつも私の体の事を気にかけてくれてありがとうございます、その為に色々してくださったりもして・・・・どうにもそういうのに慣れてなくてさっきみたいにまごついちゃったりもして」
チラチラとモジモジとこちらの顔を見ながら気をかけてくれることに対する礼を言われる、確かに彼女は普通の人間とは違うかもしれないがそれ以外は普通の女の子のはずだ。だからこそ他の者たちの「特別な方」扱いが腹立たしく、そして呆れ返る。
「あの・・・  さん」
ちょうど向かい側にいる阿求が俺の名前を小さく呼び、俺に体を預けてくる、それに対し俺も出来るだけやさしくそれでもってしっかりと抱きしめる。
もうこのやり取りも何度目だろう、多分俺が求めれば阿求は快く応じるだろう。
でも阿求の体の事を考えるどうしても踏み切れない。だからこうやって抱きしめて精々が口付けどまりだ。
「  さん一つお願いしてもいいですか?」
「何だい?」
「これから  さんの事を旦那様と呼んでもよろしいでしょうか・・・?」
―――もちろんだとも
急なプロポーズにびっくりしてしまったが、今の俺に阿求のこの申し出を断る理由なんて微塵も存在しない。
阿求のプロポーズを快諾し阿求は嬉しさから更に俺の体に強く抱きついてくる、俺もそれに応える
「  さん、いえ旦那様・・・ありがとうございます、あの時と言い今回と言い私の急で無理な申し出を受けてこうやって一緒にいてくださって」
そんなことは無い、むしろ礼を言いたいのは俺のほうだ。
「今だから言えるんですがあの時私が旦那様に一緒に住もうなんて言い出したのは・・・目が凄く遠くを見ていて」
初耳だな・・・それは
「○○さんでしたっけ?旦那様の友達の・・・その人が白玉楼に腰を据えてしまって、更に「」さんとも会う機会が少なくなっていってどんどん旦那様の目が遠くなっていたんです」
そんな事は思いもしなかった・・・遠い目かそう言えば白玉楼に発つ直前の○○もマヨヒガに連れて行かれる直前の「」も似たような目を・・・・・・・・まさか。
・・・・・・・・・俺も2人と同じ目をしていたのか?
あぁそうか、だから八雲紫は笑ったんだ・・・俺の目を見て。
なるほど、○○も「」もそして俺も皆同じ場所に辿り着いたんだな。気が合うとは思っていたがそんな所まで合うとはな本当に良い友達だったんだな俺達は。


堕ちたとは思わん、なぜなら俺は今の状況を幸せだと思っている・・・多分あの2人もそう思っているはずだ、俺達は似たもの同士なんだから。
最終更新:2011年03月25日 23:20