[実力者が語る愛のメモリー ~かくして私は意中の人を手に入れた~]

「ふっふっふ、このご本をよ~く読んだわたしなら、きっと大丈夫ですっ! 待っててくださいね、○○さん!」



師走の頭だというのに、ここ最近はやけに温かい
寒いのが嫌いな俺にとっては非常に暮らしやすい気候だ。ありがたいのぉ

「は~るで~すよ~~」
「いや、そのりくつはおかしい」

気候はともかく暦の上では冬も真冬、ド真冬だ。春の出番はまだ当分来ないぞ
こんな時期にリリーが出てきてどうする。レティさんにケンカ売ってるのだろか

「○○さん、春ですよっ」
「そいつは素敵だ。面白くなってきた」
「ですよね~。春は面白い季節ですよね~」
「ああ。今が春ってことは、この調子だと桜の季節が夏になるな」
「違いますよ~。六月になるまでは春ですよ~」
「半年春かい。リグルと秋姉妹とレティさんが怒るぞ」

むちゃくちゃな話だが、実はリリーが俺のとこに来るのはべつに初めてじゃない
つーか、ここ一年しょっちゅう来てる
リリーは春以外の季節はどこかで寝てるって言ったやつ出て来い。ものの見事に騙されたぞ

「そんで今日はなんの用だ? なんにも無かったらおうちで寝てろ」
「邪険にしないでくださいよ~。わたしは○○さんといっしょにいたいんですっ」
「子供は嫌いじゃないが恋愛対象にはならん。児ポ法で捕まるほど情けないことは無いからな」
「……ふっふっふ、そんなこと言っちゃっていいんですかぁ~? 今日のわたしは一味違うんですよ~」
「89・60・90とかになったようには見えんな。せいぜい50・50・50のお子様体型だ」
「そういうところじゃありません! あと、そんなにちっちゃくもないですっ!」

いやあ、そんなもんだろ
しかし何が違うってんだ?
しゃべり方も、立ち振る舞いも、さっきも言ったが体型も相変わらずのお子様だ
ずいぶん自信ありげだが、これから何をやらかそうってんだろうね



[Y・K氏のお言葉
 「簡単よ。死ぬか私を愛するかを選ばせただけ。人間は誰だって生きていたいもの
  生殺与奪を握ってしまえば、あとは焼くも煮るも愛するも襲っちゃうもお好きなように……よ」]

「○○さん、死んでくださいっ!」
「やだ」
「じゃあわたしを愛してください!」
「子供は射程外」
「なら死んでください!」
「無理」
「だったらわたしを愛してくれますよね!?」
「アイスクリーム買ってやるから帰んな」
「ふえ~~ん!」
「なぜそこで泣く!?」

あんたが泣いてちゃしょうがない。泣きたいのは俺のほうさ。こんなモン呼んだ覚えは無い
まあいきなり死んでくれと言われて、ハイわかりましたとやれるわけがないだろうが
こいつ、やっぱり頭の中身も春なんだろうか
いや、分かってたけどね
しかし今みたいにまっすぐ愛してると言われたのは初めてだ。不覚にも萌えた
……絶対に言わねえけどな

「やりますね、○○さん。でも、わたしはまだ負けてないですよっ!」
「えっ、まだなんかやんの?」



[E・Y氏のお言葉
 「薬は万能だわ。××の食事にこっそりと混ぜちゃえば、簡単に彼の心は私のものになったわよ
  愛が無い? そんなものはこれから育めばいいのよ。そう、これからね………」]

「○○さん、お昼ご飯はまだですよね?」
「ん? ああ、まだだ。なんだ、奢ってくれんのか?」
「はい。わたしの手料理を食べてほしいんですよ~」
「……で、それは食えるのか?」
「どういう意味ですかっ!!」

まあこれ以上子供をいじるのもかわいそうなんでこの辺にして、リリーの家についていく
なるほど、小ぢんまりして可愛い家だ
そのまま居間に通されて、リリーが飯を作るのを待っ………って、もう出てきたぞオイ。手抜きか?

「ふっふーん。実はこれを昨日作って一日寝かせておいたのです。カレー、好きですよね?」
「カレー嫌いなやつは人間じゃねぇ。異論は認めない」

しかし、あれだろ?
どうせぜんぜん辛くない、むしろ甘いくらいのカレーだろ? 
分かってるさ、裏切られるの分かってて過度の期待はせんよ。んじゃ、いだだきまーす

「……辛い。甘くない。バーモンドカレー甘口ハチミツマシマシ隠し味はチョコレート一枚味じゃない。ンまぁぁ~~い!!」
「お子様じゃないんですってばぁ~~。でも美味しいって言ってくれてよかったですっ」
「おかわり。いっぱいこんもりどっさり入れてくれ」

幻想郷に来て、美味いカレーなんて食ったのは初めてだ
あの寸胴鍋一杯、マジで食っちまうかもしれんな
しかし、可愛くて、俺を好きでいてくれて、ご飯も美味しい女の子
嫁にしてくれといわれれば二秒で結婚だろ
子供じゃなければな!
俺にロリコンの気がありゃもう万々歳なんだろうけどな!
お姉様属性の俺からすれば、食後のデザートはリリーを……って気にはどうしてもなれんわ

「こんなに喜んでくれてよかったです。やっぱり、薬が効いてるんですねっ」
「ブッ」

薬? 薬って何だオイ
なんかそこはかとなく怪しい食い物に見えてきたぞ
もう全部食っちまったから、見えるもへったくれもないんだが

「オイ、何の話だ」
「えっ? そのままの意味ですよ~。このカレーにはたくさんの薬が入ってたんですっ」
「………どんな」
「え~~っと………香辛料と漢方薬と胃腸薬と活力剤とそれからそれから………」
「リリー、それ薬やない、スパイスや」

まったく、脅かしおって
しかし美味い上に体にも良いか。まったくカレー開発者と調理者のリリーには感謝感激雨あられ、だな



[R・H氏のお話
 「私は強制はしないわ。ただ私の家に監禁して出してあげない。それだけよ
  ずっといっしょにいれば、どんな男でもそのうちに私に体をゆだねてくるわよ。そう、△△でも、ね」]

「○○さん!、これからはここに住んでくださいっ!」
「なんでだ。俺は帰る」
「ご飯、ず~っと作ってあげますよ」
「……くっ! 魅力的な提案だが、明日は仕事もあるんだ。こっからじゃ店まで三時間はかかっちまう」

相当悩んでしまった
結局鍋を空にするまで食っちまったもんなぁ。三日分は食い溜めたぜ

「……でも、もう帰れませんよ」
「は?」
「カギ、かけちゃいましたから。○○さんはこの家に監禁されちゃったんですっ」
「……本気で言ってんのか?」

当たり前のように鍵を外す
中にいる人間を閉じ込めるのに、中から鍵をかけてどうすんだ
やっぱこいつは頭が春。平たく言うとおバカだな

「うえ~~~ん!」
「だから無くなっつの」
「帰らないでください帰らないでください帰らないでください~~~っ!!」
「泣くな抱きつくな鼻水をつけるなあっ! わぁったわぁった! 今日は泊まってくから泣き止んでくれっつの!」
「はーい!」

もう泣き止みやがった。子供ってのはゲンキンなもんだ、まったく



[Y・Y氏のお話
 監禁なんてしなくたって、他の女と話さないようにすればいいの。そうすれば私を愛するしかなくなるもの
 □□は他の女が視界に入りそうになると、目を閉じて口を塞いじゃうの。私の結界でね]

「○○さん、もう他の女と話さないでくださいっ!」
「お前、俺の仕事知ってるか? 八百屋だぞ。お客は基本的に主婦だ。女性と話せなきゃ、俺はおまんまの食い上げだ」
「じゃ、じゃあわたしが他の女と話しますから、○○さんはだめですっ!」
「お前なぁ……」

なんでこんなことリリーに言われなきゃならんのだろうか。そろそろ怒ったほうがいいのだろうか
そんな風に思い出したとき、ひらめいた

「なあ、俺が他の女と話すのがそんなに嫌なのか?」
「嫌です! ○○さんとお話してもいいのはわたしだけなんですっ!」

ああ、こんなセリフ、バインバインのねえちゃんに言われてみてえなぁ……。子供でも嬉しいけどさ

「それじゃ、お客様の応対はリリーに一任しよう! 大切な役割だからしっかり頑張るんだぞ!」
「はい! ……それで、○○さんは何をするんですか?」
「遊びに行ったり飯食いに行ったりする」
「……○○さん」
「冗談だって。農家や問屋周りなんかがあるんだ。自営業に暇はねーよ」
「ほっ」

心底ほっとしたような顔が可愛い。娘か妹を愛でる気持ちって、きっとこんなのなんだろうな

「それじゃあ、これからすえながくおせわになりますね~」
「はいぃ?」
「だって○○さんのお店って、おうちと一緒ですよね?」

確かにそのとうり。一階が店になって、二階が俺の家になっている
はじめは部屋にいても漂ってくる青臭さに閉口したもんだが、今ではもうすっかり慣れた

「それで、ここから○○さんのお店まで三時間はかかるって、さっき言いましたよね?」
「言っていません。私は三分と言いたかったんです。全部秘書の指示です」

私は知りません。全ては秘書の責任です
その二つを覚えておけば答弁はしのげるとどっかの議員が言ってた

「じゃあこれから一緒に行きませんか? もちろん歩いて、ねっ」
「………」

負けた。議員直伝のとうべんテクニックが完敗した

「これからずーっとずーっと、わたしは監禁されちゃうんですねっ。○○さん、ふつつかものですが、かわいがってくださいね~」
「どっか出かけてていい? 年単位で」
「大声で泣いちゃいますよ。○○さんのおうちで」
「やめて俺泣いて叫んでそして死んじゃう。主に社会的な意味で」

幼女拉致監禁、そんなセンセーショナルな文字が頭の中で躍る
しかもあのカラス天狗ならそんな記事にしかねないのが、よけいなリアリティまでありやがる。勘弁してくれ
悪くすれば閻魔様に地獄に落とされ、どんなによくてもなし崩し的にこいつと結婚されちまう

「……わかった、うちにいていい。俺も基本的にうちにいる。仕事以外で出かけるときは連れて行く
 だから人前で泣き喚くのは絶対にやめてくれ」
「それって、わたしを○○さんのモノにしてくれるってことですか!?」

お前の思考回路はどうなっとるんだアホがっ! 俺が嫌々言っとるのがわからんのかぁっ!
という言葉が喉元まで出掛かったが、こう嬉しそうな顔をされちゃそうも言えん。ほら、俺紳士だから

「もうそれでいいわ。リリーは俺のモノ。だから俺が近所から蔑まれるような言動は慎むこと。OK?」
「わかりました! じゃあわたしはこれから、○○さんのペットになりましたってご近所にご挨拶を……」
「やるなよ。絶対やるなよ。間違ってもやるなよ」

……先行き不安すぎる
んなこと言ってご近所回られた日には、幼女拉致監禁者に性犯罪者のレッテルまでつけられちまう

「でも、○○さんをわたしのものにするはずだったのに、これじゃあべこべですね」
「[するはずだったのに]と言われても困る。なんの話だ、それ?」
「う~~~んと………」



[終わりに:著者 A・H
 ここまで多くの方の多くの方法をまとめてきましたが、これを実践しようとするあなたに、D・B氏の金言をお送りします
 「大切なことは『勝利して支配する』。過程や……方法など……どうでもよいのだぁーーーッ!!!」
 つまり、どんなことをしてもあなたの意中の人との恋の駆け引きに勝利し、相手を支配する]
 それができれば万事OKなのです。その後のことや周りの迷惑を顧みたら、あなたは負け組になってしまいます
 もう一度言います。意中の人を支配する。もしくはその人に支配される。それだけを考えましょう
 あなたの成功をお祈りします。でももしも☆☆さんに手を出したら……
 あなたの存在を、全ての歴史書から消し去ってしまいますのでよろしくお願いします]

「えへへ~。なんでもないですよっ」
「いきなり上機嫌になったな」
「はいっ。わたしは○○さんに支配されちゃいました! それがとってもとってもうれしいんです~~っ」
「そ、そうか」

何が嬉しいのか分からんがとにかく喜んでんだからいいか
そう思ってたとき、いきなり十分な身長差があった頭が同じ高さになって、軽く唇が触れた

「○○さんのファーストキス、いただきましたっ」
「お前のファーストキスも、俺がもらったって事か?」
「はいっ。わたしのはじめてをもらったんですから、もう離さないでくださいねっ!」
「……お前、それも絶対にご近所さんに言うんじゃねぇぞ」

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最終更新:2015年05月06日 20:31