盗撮して、勝手に好きになって、
でも大丈夫、彼もきっと私の事好きだから。会ったこと無いけど。
「携帯のメモリが無限にあれば良いのに……」
映像が取れないなら一瞬の写真を無数に保存してつなげるしかない。
でも、それだとメモリはすぐに一杯になって彼の姿を保存できなくなる。
日課、という程ではないがしょっちゅう写真の中から彼のベストショットを探す作業を繰り返していた。
河童は編集印刷作業をする為にパソコンを用意してくれたが、そちらに保存する気にはなれなかった。
ずっと手元に置いておきたいから。
それにこのことを他人に知られたくなかった。
見ているだけで満足していたい、本当に手に入ってしまったら、
彼を私の事をどう思うかわからないじゃないか、絶対に好きあってるんだろうけど。
こういう機械が水気に弱い事は知っていたが、
風呂に持って入った時水が掛からないようにしていたものの、
湿気か湯気かで携帯が壊れてしまった。
生唾を飲み込み、焦って河童の元に駆け込む。
「ああ、このくらいならすぐに修理出来るよ」
「写真は?中に……ああ、スクープの写真が入ってるのよ」
「残念だけど一晩はかかるからスクープはおじゃんだね、データは残ってるけどさ」
河童は申し訳なさそうに言ってくれたが、私としては内心ほっとしていた。
スクープは……まあまた念写すればいい。
しかし失った過去の○○は取り戻せないから。
何か保存する物を他に考えなきゃ……
写真はダメだ、ダメなんだ。
あの形にしてしまったら、あやに取られてしまったみたいで。
携帯無しだと眠れない。
普通は逆らしいけど、○○を見ていたい、もっと目に焼き付けてたい。
翌日、河童の所に携帯電話を取りに行った。
「ああ、メモリーは全然問題なかったよ。ある程度の生活防水つけといたから今度は大丈夫だよ」
あやが居た、ああ、それはいつも通りの事で、
どこから嗅ぎつけたか、私に会いに来てくれたんだ。
皮肉でも言いに。
それだけならいつもの事、いつもの事なのに。
なんであやが、○○と一緒に居るの?
「あぁ?何見てるんですか一体」
黙ってたんじゃなくて、返す言葉が思いつかなかった。
なんで、とかどうして、とか。
言うべきじゃないのは分かってる、あやは関係ないし。
「……なんでもない」
さっさと携帯を受け取って帰ろう。
「文ちゃんあの人は?」
「ああ、こないだ言った引きこもりの天狗ですよ。
変な目つきで人を見てくるのが特徴ですかね?」
「はは……まあ関わりたくなさそうな人には角を立てない方が良いよね?」
「きっと会う事はありませんよ、二度と」
ほら見ろ○○が引いてるじゃないおかしいのは私じゃなくてあやなんだ何も知らない癖にでしゃばって好きなのに、
あやが、○○が、私が。
黙ってそのまま飛んで行った。
邪魔だし。
私じゃない、あやと○○が。
携帯のメモリ容量は2倍近くになっていた。
そういえば河童にお礼を言うのを忘れてた。
家に帰ってちょうどすぐに、誰かが玄関をノックした。
人が家に来たのはいつ以来だっけ。
天狗の知り合いはいないし山の巫女かな、と思って開けた。
ドアを開けた瞬間お互いが驚いて一瞬飛びのいた。
「ああ、ええと、
はたてさんだっけ?」
「○○がなんで、ああ」
え…?と、片目がヒクついた。
「あ、あやから聞いた事あったから、あなたの事」
「そ、そっか。これ
にとりが届けてくれって言って、
文は俺が渡した方が良いって言ったんだけど……」
彼が差し出したのは、
私が使ってる携帯の物と同じメモリーカードだった。
いや、あぁ、これって。
そうか、メモリが増えたんじゃないんだ。
彼が渡してきたのは古いメモリー。
携帯に入っていたのは空の新しいメモリー。
そっか、じゃあ。
「ごめんね」
笑顔は上手く作れない。
いつも頬がひくひくと吊り上りそうになる、
でも、今日は違った。
私の顔を見た彼は目を見開いて、一歩後ろに下がろうとした。
彼の脚は勝手にねじ曲がっていて、
私は彼が転ばないように片手で彼の胸ぐらをつかんでいた。
「な……あっ!?」
「びっくりした勝手に転びそうになるから焦って変な所掴んじゃったよよかった無事で。
よかった……もう携帯が壊れる心配なんか無くなったから」
片足立ちの彼を引きずって家に招き入れた。
簡単な事になんで今まで気づかなかったんだろう。
彼をそのまま保存すればいいんだ。
私の事が嫌いなら好きにしてしまえばいいんだ。
「な、なんで……」
「ねえ○○また勝手に転んで怪我でもしたら大変だよね。
それとも二度と転ばないような体にしてあげようか?」
私に大切な事を教えてくれるから、好き。
あやも、○○も。
最終更新:2011年04月02日 04:52