皆さんは山神の生け贄、というものをご存じだろうか。
一番知られているのは【しっぺい太郎】に出て来る老いた山狒々たちだろう。
麓の村へ生け贄を催促する時、対象が居る家の屋根に白羽の矢を撃ち込むのだ。
今、俺が住んでいる外来人達の家の上に、白羽が立っている。
しかもご丁寧に俺の名前と日付まで書いてある。
しかし……何で十数本も矢が突き刺さっているんだろうか。
中には弓の名手でも居たのか、屋根に刺さる前に別の矢に撃ち落とされている矢すらある。
指定先も要求もバラバラだ……俺はどうしたらいいんだろ?
彼は寺子屋で子供達に勉学を教えながら、趣味の絵本を書いていた。
外部の古今東西の絵本は大好評であり、手ずから編纂した小話を彼は知り合いによく提供していた。
そして彼は『しっぺい太郎』の絵本を描く事になる。これが騒動の切っ掛けになるとは知らずに。
彼の描いた本を読むのは、子供達だけではない……彼を慕う少女達も愛読者達だった。
彼女達はしっぺい太郎の生け贄祭りの部分に着目した。これはいい。
膠着状態にある恋愛を一気に進めれるかもしれない。
そのまま、彼を自分達の領域に取り込んで済し崩しに同棲まで持ち込めれば良し。
万が一彼が怒ったら物語を再現してみたかったと誤魔化せばいい。
誰も彼もが同じ事を考え、実行した結果―――。
「撃てー、撃ちまくるのよー!」
「永琳、飛んできたわ、残さず撃ち落としなさい!」
「えーい、埒が明かないぜ、マスタースパークだぁ!」
彼の住む家の屋根は大破し、今に至る。
そして―――。
「椛さん、何やってんの……?」
「ハァハァハァ、違います、私はしっぺい太郎です」
チンチンの姿勢で、淀んだ目を潤ませ彼を見上げている椛。
首には飼い主の名前が入った首輪を付け、既に従属状態だ。
「○○さんを浚おうとする悪い雌猫退治に行きましょう、そして私と○○さんで幸せな生活を……ハァハァ」
ふと、視線に気付き後ろを振り向いてみる。
「いえ……一応、私も悪魔の犬なのでしっぺい太郎ですご主人様」
「咲夜さん……」
犬耳と首輪を付けた咲夜さんが居た。
どう考えてもこの物語にハッピーエンドは無さそうだがどうしたら良いだろうか?
最終更新:2011年04月24日 21:32