霊夢/9スレ/94
彼の朝は早い。
彼の朝は、まず日の出と共に始まる。博麗神社の一室を間借りしている彼は、
当然のように家主よりも早く起床する。目的はただ一つ。朝食の用意である。
彼は一つ、大きく欠伸をしてから、寝巻を今しがた寝ていた布団の中に押し込む。
もちろん、下着も全部だ。季節は春とはいえ、まだまだ肌寒い。彼は身震いしつつ、
枕元に用意された衣服に着替えた。
この神社に居候するに当たって彼に義務付けられた事の一つが、これである。
最初は一つ、二つであったが、今では両手の指では足りない。この行為がどういった意味が
あるのかは彼には全く理解出来なかったが、そうして欲しいと上目づかいに言われたので、
彼は気恥ずかしさを堪えつつ、今日もこうして更衣を終える。
次に彼がするのは、洗顔と口腔の掃除である。この神社ではもっぱら水洗関係は神社の離れに
設置された井戸水を使って行う。最初は不便に思ったが、井戸へ向かう為に外へ出るおかげで
眠気が覚めるので、今ではむしろ有難いとも感じている。
そして、このときにも決まりごとはある。それは、家主が決めた所定のタオルを使用するということだ。
彼はこの決まりごとは、あまり好きではなかった。別段、面倒とか、そういうものではない。
家主が女性であることから、そこらへんは彼にも理解があったので、とくに気にしてはいない。それどころか、
用意されたタオルが、まるでつい今しがた人肌で温められたかのようにいつも温かいので、彼としては嬉しい限りだ。
ただ、時折妙に湿っていることがあり、なんというか、言葉には表せられない不可思議な臭いを発していることがあり、
そのときばかりは彼も溜息を零す。一度嫌に思って袖で拭ったこともあった。だが、家主には一目で見破られ、
件の生臭いタオルで顔中を拭われたことがあり、それからは我慢して使っている。
さて、今日はというと……。
「……はぁ」
指先に感じる滴るような粘液の感触。どうやら、今日は外れだったようだ。
感想
最終更新:2019年02月09日 18:41